「いのちの最後のひとしずく」


「いのちの最後のひとしずく」は、8月にリリースされた山下達郎さんのアルバム「Ray of Hope」に収録された曲。3.11の震災で改めて生と死を想った彼が、人が生きていくこと、暮らしていくことについて歌った「人生のアルバム」だとのこと。
「いのちの〜」は、彼には珍しい女性側からの視点の曲で、「一歩間違ったら演歌の世界。誰かにカバーして欲しかった」(笑)と彼は言う。


確かに歌詞を読むと、I Love Youをコテコテに煮しめた、愛の佃煮のようなラヴソング。だが、そこには甘さよりも切なさが漂う。いのちの儚さ脆さを知ったからこそ湧いてくる、「愛する人と一緒に生きたい」、という強く切実な想い。思えば、これはまさにKinKiワールドではなかろうか。


「愛のかたまり」の女の子は、始まったばかりの恋に心歌わせながらも、時に失うことを思っては怯え、雑踏に立ち尽くす。あまりに想う気持ちが大きいから、不安も切なさもまた大きい。
この曲も歌詞だけ読めば、なんでもないほほえましくもちょっと切ない恋愛の風景なのに、KinKiが歌うと、彼らの哀愁のこもった歌声と、その真摯なまなざしの奥に横たわる孤独によって切なさが増幅される。愛する人を得て初めて知る失うことへの恐れ、その心臓を掴まれるようなリアルな痛みが伝わってくる。彼らの声は、そんなラヴソングのためにあると言っていい。


私はこの「いのちの〜」が「K album」の中で一番好きかもしれない。多分それは、達郎さんも言うように、死を想った後で「生きていくこと」をうたっているから。
多分この主人公は、あれからいくつかの恋を失い、その痛みを超え、今度は本当に「最後の人」と出逢えたあの日の女の子。彼女が今大人になって、大きな悲劇を目の当たりにしたことで、失うということのほんとうの恐ろしさを知り、愛する人と生きていくとういうことのほんとうの奇跡を知る。痛みも憎しみですら生きる証と思える強さを得た「愛してる」。それを歌うKinKiの深く自然な表現力が、この曲に従来のラヴソングと違った次元のリアリティーを与えている気がする。


アルバムの中で唯一KinKiのために作られたのではないこの曲は、「Ray of Hope」の中でも数少ないタイアップのない曲だ。つまり純粋に達郎さん自身が自由にイメージをふくらませ書いた曲。それが彼らの身に今ピッタリと合ったというのが、まさにふたりの成長の証ではなかろうか。


それにしても、この曲をふたりも達郎さんも知らないところで拾い上げたJE担当者さんのグッジョブに感謝感謝の座布団ありったけ。