平城宮跡を守りたい


去年の「十人十色」ライブの時に、中学の修学旅行以来初めて奈良を訪ねた。
が、覚えていたのは大仏さんくらい。行ったはずなのに全く記憶にない法隆寺やら興福寺を改めて「お初」に拝ませていただいた。


そして、最後に訪ねたのが、平城宮跡。剛っさんの想いのこもった場所。その日は風が強くて雨が降ったり止んだり。バスを降りて大極殿から入り、ドキュメンタリー「堂本剛、心呼吸。ふるさと奈良を歩く」のロケで彼がちんまりと座っていた第二次大極殿の基壇へ向かう。
あいにくのお天気、そして夕暮れ時だったこともあり、人気はほとんどなし。そこで時々小雨がぱらつく中、半時ほど過ごした。時折通る近鉄電車の音以外に聞こえるのは、ぼうぼうと吹き抜ける風とぽつぽつと私を打つ雨の音だけ。風流というよりは、なにか怖ろしげな、古の都に跋扈した魑魅魍魎の気配を感じるような、そこは時空を超えた不思議な空間だった。


その平城宮跡に今異変が起きている。
9月20日付けで、「国営平城宮跡歴史公園 第一次朝堂院の広場整備に着手」という平城宮跡を改造する計画が明らかになったのだ。以下が国交省によるその報告書。
http://www.kkr.mlit.go.jp/asuka/heijo/activities/current/pdf/120920release.pdf


「往時の平城京の広がりが蘇ります」という謳い文句だけではよくわからないが、その下の整備後のイメージを見ると、これまで青々と草が茂っていた原っぱ(と言っても東京ドームひとつ分の大きさ)がコンクリート舗装された広場に変わる、という工事だ。「草ぼうぼうで見た目が悪い」「歩きやすく」「既に整備された基壇に自由に行き来できるように」ということらしい。


しかしそこは、大正11年に「平城宮址」として国の史跡に指定されて以来、多くの人の手によって守られてきた原っぱなのだ。実際、原っぱの下には今もなお遺跡が眠っている。その遺跡が、まさに1998年に「古都奈良の文化財」として東大寺などとともに世界遺産に登録されたものなのだ。(大極殿も朱雀門もまだ再建されていなかった)


そして何よりも問題なのは、その舗装工事が地下水の状態を変えてしまい、遺跡、遺物の破損に繋がる恐れもあるのにも関わらず、国交省はそれをユネスコにも全く報告しないで工事を進めようとしていることだ。
国交省の「国営平城宮跡歴史公園」のHPにはこうある。


<公園内での禁止行為>
 ・ 公園予定区域(区域内の施設を含む)を損傷、汚損すること
 ・ 竹木を伐採、植物を採取すること
 ・ 動物を捕獲、殺傷すること
 ・ 土石等の物件を堆積すること
 ・ 土石の採取など土地の形質を変更すること


しかし、今その国交省がやろうとしていることは、まさにこれではないのだろうか。そこが「遺跡」だから「してはいけない」こと。たとえオリジナルな状態に近づけることが目的であっても。
実は、この前にも問題はあった。2年前の遷都1300年祭の時、メイン会場であった平城宮跡に観光客のために朱雀門前に約300台分の駐車場、復元した大極殿の周りに約1kmの柵を作ったことが、ユネスコから「文化財を損ねている」と指摘され、撤去を求められたのだ。しかし、未だにこれは改善されておらず、その上またその文化財の景観を変えようとしている、その行為は問題だと言わざるを得ない。


原っぱがいいか、歩きやすい舗装をしたほうがいいか、という単純な問題ではない。景観を守ることにも厳しいユネスコに、場合によっては世界遺産登録を抹消される恐れもある。その冠がなくなっては、元も子もない工事をなぜ、突然今着工しなくてはならないのか。町興しのためというなら「遺産」はそのままの形で守られなくてはならない。それが「ユネスコ世界遺産」の存在意義なのだから。


あの風に波打つ青草、そこに棲む虫、地下を流れる水、どれもが今も地下に眠る平城宮跡の歴史を守るものだ。そこに子供が遊び、土の上に寝転んだ時に、吹く風の音に耳を澄ました時に、土地の記憶が囁きかけてくる。
あの草ぼうぼうのおおらかさが奈良らしいと思う。歴史を学ぶのではなく感じる場所。それを壊さないでほしい。
剛ファンだからではなく、一個人としてもあの風景と、あの土地に眠る大切なものを守りたい、と思う。


※ 昨日、国交省の説明を聞き、抗議の意思を伝える会合が持たれた。ジャーナリストも多く参加されたらしく、これから各方面へのアピールを行っていかれる様子。ユネスコを初め関係各機関への報告がすみやかにされることを祈ります。


■平城宮跡とは・・
http://www.kkr.mlit.go.jp/asuka/heijo/activities/past/pdf/an_sankou_01.pdf
■国営平城宮跡歴史公園のサイト・・
http://www.kkr.mlit.go.jp/asuka/heijo/index.html
■抗議を行っている奈良在住の作家・詩人の寮美千子さんのサイト・・
http://ryomichico.net/bbs/review0013.html#review20120928011038
■森林ジャーナリスト田中淳夫さんのブログ・・
http://ikoma.cocolog-nifty.com/moritoinaka/2011/06/post-e6db.html