Tabla Rasa

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2004-03-01 美国天使2

グラウンド・ゼロ 2003/12

[] エンジェルス・イン・アメリカ


隅田川東岸、森下町付近にベニサン・ピットという稽古場と劇場が一緒になった場所がある。もともとは倉庫か何かだったらしく、とにかく見た目が悪い。でもなかなかよい芝居もやる。しばらく行ってなかったのだが、ひさしぶりに足を向けてみた。


「アメリカの天使」。エイズの蔓延する80年代後半、レーガン政権時代のNYを描いた長編演劇。今回は第一部「ミレニアム」と第二部「ペレストロイカ」を一挙上演、ということで土曜日一日をかけて午後の第一部、夜の第二部とぶっ続けで挑戦した。どちらも二回の休憩を挟みながら、3時間以上の上演時間。全て見終わったら夜10時半になっていて帰宅は午前様になってしまった。まあマラソンを完走したような妙なハイな気分であった。


前に上演時間の長さについて書いたが、このテーマはまだ考え続けている。この上演については、演出・役者の上手さ、などから飽きることがほとんどなかったし、1時間半やって10分休憩、1時間やって15分休憩、最後は一時間に満たない上演時間、という構成がうまく、身体の疲れもあまり感じさせないよう配慮されていた。実質の上演時間は一部につき、2時間半くらいだろうから、休憩一回だとさすがにきついだろう。それに狭い劇場なので、俳優との距離がなく(最前列だったのでつばが飛んできたり、となりの席に役者が座っている演出だったりともう大変)気が抜けないというのもあったのかもしれない。


TPTワークショップで育った若い役者さん達にちょっと上の世代かな、中堅・ベテランの女優さん達がからむという感じ。主人公はエイズにかかってしまったホモセクシャル。インテリユダヤ人のパートナーは彼を捨て、モルモン教徒でありながら同性愛に悩む裁判所書記官とできてしまう。彼の奥さんは、薬漬けで幻想の世界に踏み込んでいる。もうひとり実在の人物として赤狩り時代に悪名をはせた悪徳弁護士も実はホモでエイズにかかっているという設定。彼はスパイ容疑で死刑に追いやった女性の亡霊に悩まされながら病床に着く。


この人たちが複雑に絡み合い、話は進むのだが、主人公のところに突然天使が現れ、人類の進歩を止めろと啓示する。結末まで書くと長いのでやめておくが、とにかく役者は熱演。すごく上手いと思う。個人的には単にホモセクシャルとエイズというだけでなくそこに、赤狩りであるとかモルモン教であるとか、通常あまり表に出ないようなアメリカの一面が描かれているところが、なかなか面白く感じた。


ただかなり泥臭かったね。濃い、というか。弁護士はやくざみたいに悪態をつきまくるし(おもしろかったけど)、同性愛のラブシーンもかなりリアルにやっているし(これははっきりいってツライ)。みんな役に入り込んでいてすごいのだけど、どうも違和感を感じる。だって、やっぱりイエローがやっているんだもの。俳優さんはみんな日本語を話す東洋人(在日らしき名前の方もいる)。ちょっと西洋人ぽい雰囲気を醸し出せる風貌(色白であるとか顔立ちがあちらっぽいとか)の方と、いかにも黄色人種だよなあ、って風貌の人がいる。


そういう人がワスプであるとかユダヤであるとかモルモンであるとか、そういうのを演じる、それも眼の前で、ってのがどうなんだろう、って思ってしまった。いや、みんなうまいんだよ。だからみんなそれなりにその役に見えるし入り込ませる。でも気がつくとね。なんだか違和感ありなんだよなー。あ、黒人役の人は黒く塗ってましたね。


ここでやっぱりこういう世紀末のアメリカというかNYを描いた戯曲を現代の日本で上演することの意味、ってのがなんなのかな、という問題にぶちあたる。翻案するでもなく、原作の役名と設定通りに。もちろん、この戯曲は時代そのものが主役でもあるような芝居だから翻案したらだめだろうけど。先進国の中でHIV感染者が増加しているのは日本だけなのだそうだ。だからといってその実感はないし、この芝居に書かれたことが明日の日本と重なるとは思えない。やはり911からこっちいろんな問題系はすべて変わってしまったのではないか?世紀末アメリカ文明のパラダイムと新世紀のパラダイムは同じではない。この時代にはこの時代の戯曲が必要だし、普遍的な戯曲も必要だと思う。


この戯曲はかなり前に、ル・テアトルで初演されているらしいけど、そういう商業演劇の場で上演されたらまたそれはそれでわかるような気がする(楽しみとして観るって意味でね。実際なんか娯楽映画的な匂いも感じるホンのようでもあるし。どこかそういう意味でもアメリカ的。)まあ今やる意味なんて考えないで、名作の再演、と割り切ればいいのかな。それにしては暑苦しかった。もっとスマートな演出でみてみたいな。人前で男同士がキスして抱擁しあうようなことをホントにするって、演劇の演出として安易ではないのか、って気持ちもよぎる。TPTはもともと外国人がリーダーのワークショップだから仕方ないのかもしれないけど日本人がやるべき芝居は何かってことも考えていって欲しい気がした。


啓示を受けた主人公は、その啓示に反して、もっと命を!と天使にしがみつき祝福を得ようとする。これは旧約聖書に書かれている、ヤコブと天使の格闘の逸話から来ているのだけど、このあたりが胆なんだろうなと思う。やたらテンションの高い天使役のいかにも若い東洋人的な(というか男子高の合宿的な?)ふとももの太さが目に焼き付いてしまっている。それから弁護士の最期にユダヤ人が唱えるうろ覚えのカディッシュ(祈り)。あのあたりで許しのテーマがかいま見える。声高でないところがよかった。


そうそう、松浦佐知子さん。元夢の遊眠社の女優さん、落ち着いた安定した縁起が若者たちの暑苦しさと対照的でもっとも印象に残った。


2/21 ベニサン・ピット