2004年ベスト(ストレートプレイ編)
遅ればせではあるが、昨年別サイトに載せていただいた「極私的演劇・舞台ランキング」を今年も書いてみることにした。今年はランクをつけず、印象に残った舞台を、列挙することにする。順位はないがなんとなく上の方が他の芝居との合わせ技として、ポイントが高いという感じか。まずはストレートプレイ部門でベスト10プラス5。
★ 「赤鬼ロンドンバージョン」(東急文化村・シアターコクーン)
昨年の野田秀樹は八面六臂の活躍だった。現在上演中の「走れメルス」が圧倒的な印象だが、春の「透明人間の蒸気」(新国立劇場)、オペラ「マクベス」(同)の演出、秋の「赤鬼3バージョン連続上演」と留まるところをしらない。ここでは「赤鬼」の最も進化(深化)形であるロンドンバージョンのシンプルさに一票。
★ 「見よ、飛行機の高く飛べるを」(世田谷パブリックシアター・シアタートラム)
永井愛作品も多数再演された年だった。作者演出の「こんにちは母さん」(新国立劇場)、「新明暗」(二兎社・世田谷パブリックシアター)が秀逸。俳優も加藤治子・小山萌子らが特に印象に残った。「見よ〜」はSeptの「レパートリーの創造」シリーズとして、フランスの演出家アントワーヌ・コーベの奇妙だが斬新な演出が印象に残る。魏涼子が特筆にあたる演技。
★ 「能楽堂マクベス」(りゅーとぴあ・銕仙会能楽研修所)
新潟の劇場、りゅーとぴあの「能楽堂シェイクスピアシリーズ」第一弾。能楽堂の空間でシェイクスピアを上演する試みだが、これがかなりハマる。構成・演出の栗田芳宏と音楽の宮川彬良の才覚によるものだろう。年末に第二弾の「リア王」も、白石加代子主演で上演された。
★ 「犀」(燐光群アトリエの会・梅ヶ丘BOX)
燐光群は坂手洋二作の「だるまさんがころんだ」「私たちの戦争」(ザ・スズナリ)が話題を読んだが、翻訳劇も上演された。坂手演出の「ときはなたれて」(梅ヶ丘BOX)も印象深いが、イヨネスコの不条理劇を小空間で上演する試みを評価したい。演出デビューの大河内なおこの今後に期待。
★ 「男性の好きなスポーツ」(NYLON100℃・本多劇場)
ケラの劇作は、年末の「消失」(紀伊国屋ホール)含めて三作品を観る。斬新な人間批評に圧倒された「男性の好きなスポーツ」か、豪華出演者で娯楽作に徹した「カメレオン・リップ」(東急文化村・シアターコクーン)か迷うところだが、ここは前者を挙げる。
★ 「喪服の似合うエレクトラ」(新国立劇場・中劇場)
できるだけ他で評価の高い舞台は出さないつもりだったが、これはもう仕方がない。非常にスケールの大きく、激しい心理劇を演じきった大竹しのぶ・三田和代・境雅人・吉田剛太郎他の俳優たちの力が高レベルの舞台美術や演出とあいまって息のつかせぬ作品となった。
★ 「ピローマン」(パルコ劇場)
これも仕方ないか。長塚圭史の演出と、高橋克美他出演者の力が大きい。悲しく暗く優しい物語。マーティン・マクドナーの作品は初期の「ビューティー・クイーン・オブ・リーナン」(劇団円・シアターΧ)も上演されたが惜しくも観に行けず。
★ 「お気に召すまま」(彩の国さいたま芸術劇場)
蜷川シェイクスピアシリーズは、年初の「タイタス・アンドロニカス」も素晴らしかったが、あえてこのどちらかというとお気楽で奇矯な物語のかぶいた演出を推すことにする。作者の時代と同様男性のみの役者で創った喜劇。
★ 「ダム・ウェイター」(シスカンパニー・シアタートラム)
ピンターの不条理劇をA・Bの二つのバージョン(鈴木裕美と鈴木勝秀の二人の演出家)で見せてくれた。演出によってどんなに演劇の様相が変貌するか、目の当たりに観ることができた得難い機会。
★ 「ヒトノカケラ」(新国立劇場・小劇場)
新国立劇場ロフトシリーズの二番目。上演期間が比較的短いのと、小劇場をさらに半分に切った小空間での上演ということで、観た人が少なかったのかも知れないが、戯曲も、俳優もかなり優れていたと思う。キムラ緑子が特に素晴らしかった。
さらに補遺として印象に残った5作。
★ 「ハロー・アンド・グッド・バイ」(俳優座劇場)
幼かった日への思い出したくない郷愁。
★ 「父と暮らせば」(こまつ座・紀伊国屋サザンシアター)
圧倒的に人の心を動かす力を持っている戯曲。
★ 「毬谷友子一人語り・弥々」(近江楽堂)
声の魔術。一人の女優の存在のまぶしさ。
★ 「カトル」(NANYA-SHIP・THATER TOPS)
現実と虚構の多重構造の面白さ。
★ 「真夜中の弥次さん喜多さん」(少年王者館KudanProject・シアターグリーン)
異化し続けるメタシアター。
ダンス・バレエ(5月〜12月)
5/16 クローズ・ザ・ドア、オープン・ユア・マウス(伊東キムと輝く未来・新国立劇場中劇場)
伊東キム初体験。後半の、おばあちゃんたちが出てくる新作のタイトルを失念。前半は、バイオリニストとカウンターテナー兼ダンサーが作り出す世界。楽しかった。後半は若き女性ダンサーとおばあちゃんの共演。ちょっと厳しい。不思議な雰囲気。
6/13 眠れる森の美女(新国立劇場オペラ劇場)
さいとう美帆さんを初めて見る。
6/25 スケジュール(水と油 シアター・トラム)
マイムとダンスをミックスした四人組。楽しかった。幾何学的空間。
7/3 山田耕筰の遺産・よみがえる舞踏詩(H・アール・カオス 東京文化会館)
ちょっと芸術的すぎて。
7/16 ピナ・バウシュ(新宿文化センター)
踊らない舞踏公演。極めるとこうなってしまうのか。踊って欲しい。
7/22 プレイ・ウィズアウト・ワーズ(マシュー・ボーン シアターコクーン)
ウェストエンドの雰囲気。三人一役のダンス。フシギ。
8/14 盤上の敵(青山劇場)
ヨーロッパで活躍する若手日本人バレエダンサーの共演。服部雄吉の振付の才能に驚く。
9/22 オール・バランシン・プログラム(ニューヨーク・シティ・バレエ)
アメリカのバレエは大味だなあ。
10/16 白夜(H・アール・カオス)
本公演二回目にして、ちょっと食傷気味。もうパターンが読めたか。技術はすごい。
ミュージカル(5月〜12月)
6/20 Into the Woods(宮本亜門演出・新国立劇場中劇場)
赤頭巾やシンデレラ、ジャックと豆の木など著名な童話の主人公のその後の展開。宮本亜門ならではの演出が楽しかった。SAYAKAの歌が新鮮。B席だったため舞台を後ろから観るような形だったのは残念。
8/22 ジーザス・クライスト・スーパースター(エルサレム・バージョン 四季劇場・秋)
ロック・ミュージカルの原点。聖書の話を知らないと厳しいかもしれないが迫力満点。ジャポネスクよりストレートなこちらが好み。
8/25 ジーザス・クライスト・スーパースター(ジャポネスク・バージョン 四季劇場・秋)
今となっては奇を衒った東洋趣味ともみえるが、奇抜なこの演出を創出した冒険には敬服する。ヘロデ王の滑稽さなど秀逸。
9/3 I Love You 愛の果ては?(パルコ劇場)
オフブロードウェイのロングラン作品を日本人キャストで。こういうしゃれた小規模のミュージカルがもっと導入されて欲しい。4人のキャストが皆魅力的。再々演を望む。
12/28 SHIROH (SHINKANSEN☆RX 帝国劇場)
劇団☆新感線が帝国劇場に進出した和製ロック・ミュージカル。キャストもストーリーもよく、非常に楽しめた。ちょっと長いのと、一部のキャストの歌唱力が残念。
恭賀新禧。
今年もよろしくお願いします。
さて、2004年に足を運んだステージ数は、同一ステージのリピートを含めるとのべ147ステージにも及んだ。一昨年が40数ステージに過ぎないので、三倍を超える数字であり、三日に一度以上劇場に足を運んだわけで、自分でも尋常ではなかったと思う。自分の嗜好を探るため、あらゆるジャンルに手を広げてしまったのと、最も注目する野田秀樹氏の活動が活発で、6公演(「赤鬼」3バージョンを3公演として)にも及んだことが原因としてあるだろう。
11月後半からの舞台については、あらたに「Somethig So Right」というブログをニフティのココログサービスで設置したため、そちらに報告している。こちらは今後、長文などのアーカイブ的に使用していこうかと考えているので、新鮮な舞台報告については、新サイトを見て欲しい。
ここでは2004年にここに記せなかったストレートプレイ以外の舞台を記して覚え書きとしたい。古典芸能は演目のみの記載もあり。