2012年鹿児島県吹奏楽コンクール高校の部

2日間にわたって繰り広げられた鹿児島県吹奏楽コンクールの高校の部を聞きに行きました。
次々と誕生する名演の中、見事に代表となったのは、鹿児島県立松陽高等学校鹿児島県立大島高等学校、そして3年連続出場に伴う休み明けの鹿児島情報高等学校でした。
では代表校の感想などを出演順に。

鹿児島県立大島高等学校
マーチのイントロにもメロディがあり、歌があるというのは私の持論ですが、この日の大島高校の課題曲2番は、まさにそのお手本のような解釈でした。音圧をしっかりと持ちながら、聞かせるべきラインを絶妙なバランスで浮かび上がらせる、こうした演出が2番で出来たのはこの学校だけでした。その後は細かい装飾音符も埋もれがちな細かいパッセージやフレーズもしっかりと聞かせる、この指揮者ならではの演出はお見事。後半の細かい絡みの中から主題が浮かび上がって来る部分は、個人的にはもう少しクリアな方が好みですが、同じ演奏をしてもサンパレスではまた響きか変わって来るので、この演奏がどんなケミストリーを起こすのか、楽しみにしていましょう。自由曲は、今年各所で何度も聞かされている(笑)、復興。冒頭はやや緊張感に欠けるかなという感じでしたが、ここでも全ての要素が過不足なく扱われるという丁寧な音楽作りが印象的でした。アップテンポな部分ではもうサウンドに更にエッジが欲しいところでしょうか。中間部も間延びしないように、さらなる表情の変化が欲しいところですが、年を追うごとに肥大化していく大島高校サウンドには、感嘆するばかりです。

原田学園鹿児島情報高等学校
豊かな金管楽器の中低音に支えられたマーチのお手本のような課題曲4番のイントロは、屋比久氏ならではの演出でしょう。冒頭の装飾音符の処理も心憎いほど。そんな中でやや物足りなさを感じるのは、木管楽器の存在感。昨今の九州大会では、木管楽器よりも金管楽器の方が評価に結びつきやすいという部分では利点であると言えるものの、その後の事を考えると、木管楽器の豊かな音圧と、よりレンジの広い表現力は鬼に金棒となるのではないてしょうか。それにしても全体を通して、クリアで過不足の無いバランスはお見事です。自由曲は前任校で名演を残したエルフゲンの叫び。ここでも前半の木管の細かいパッセージの部分、その木管の音量に全体のバランスを合わせるために、やや抑え気味に音楽が展開されたのは残念でした。しかし、一糸乱れぬアンサンブルや弱奏部のハーモニーの安定感は、さすがの一言。そんな中で、トランペットの高音部分、細かいタンギングや音程にややブレが見られたのは惜しいところです。サンパレスまでにどこまで精度を高めて来るのか、興味津々です。また中盤以降、美しい旋律に更に表情が加わると、音楽に、より深みか出てくるのではないかと思います。

鹿児島県立松陽高等学校
課題曲3番の冒頭、打楽器のアンサンブルはややリズムが転び気味でヒヤリとしましたが、その後管楽器が登場して来ると、全体の音楽やバランスが絶妙に噛み合って来るのが不思議です。ただ前半部分の高音のタムはおそらく鼓を意識しているはずで、奏法がやや西洋的になっているのが気にはなりました。その後の中間部の入りのハーモニーは、更に気を使いたいところです。しかし、その後奏でられる旋律の美しさはやはり特筆もの。その美しさに更に「歌心」が加わると、音楽として完成の域に達するのではないでしょうか。後半は、打楽器と管楽器の間に更に細かいバランス取りが欲しいところ。演奏能力が高い分だけ、審査員の音楽的な欲求も高くなるはずですから。さて自由曲は、一言で言うと高等学校の吹奏楽としては圧巻の名演でした。おそらくこういうクラシックの名曲をここまでの完成度で演奏出来る高校バンドは、全国を探してもそうはないでしょう。後半はセミプロのような再現力がお見事でした。ただその分、高校生ならではの感性による音楽的な面白みに欠けていたのも事実で、この完成度を保ちながら、溢れんばかりの若さと、内に秘めた熱い感情の昂りをいかに音楽に込めることが出来るか・・・・。このバンドが更に一歩前に進むために必要な事がそこにあるような気がします。サンパレスでは更に舌を巻くような名演の誕生を期待していましょう。

高校の部全体を聞いた限りではこの3団体が課題曲自由曲を通じて突出した演奏力と音楽力を持っていました。
全ての団体の演奏を聞けたわけではありませんが、1日目の中では、県立鹿屋高校の音楽を深く追求した演奏が記憶に残りました。一体感を持った課題曲。そして自由曲のハンガリアン狂詩曲は、豊かな木管サウンドによる音楽的表現力が素晴らしかったと思います。また、去年代表となっていた鹿屋中央高校は、課題曲自由曲を通じてやや音楽的に雑な部分が見られたのが残念でした。特に自由曲は焦点がバラけた音楽になってしまったようです。
2日目の中では、金賞常連校のひとつ出水中央高校。マーチを得意としていたバンドでしたが、課題曲4番は全体的に淡々と機械的に進んでいく感じで、サウンド的にもストレート過ぎたのが残念でした。自由曲においても、譜面を再現する技術力は高いのですが、音楽が平面的な印象で、こういうアレンジものは細かいアナリーゼの必要性を感じてしまいます。
また、神村学園は、ここ数年課題曲におけるサウンドにクリアさが欠けていて、靄かかかったようなマーチになってしまっている印象です。やや自由曲の方に手間を欠けすぎなのでは・・・・という感じてしょうか。
龍桜高校は、課題曲は演奏力は高いもののややバランスの悪さが散見されたのが残念でした。自由曲はスミスの難曲に挑みましたが、この楽曲を制覇するにはややサウンドが軽いかなという印象で、終盤はやはり息切れしてしまったようでした。しかしチャレンジ精神は天晴れです。
そして、大編成の県立高校、甲南高校は、サウンド的にも音楽的にもその完成度は高いので、ソロ楽器を含めた個々の楽器のさらなる安定度を、加治木高校は、サウンドが直線的すぎるきらいがあり、よりしなやかな音楽の追求を、志布志高校サウンドも音楽も安定しているもの、音楽的な面白さの追求を、国分高校は、サウンドも音楽も安定してるものの、楽器の発音等の精度のアップを、伊集院高校は音楽的な高揚感のある演奏は良かったものの、木管楽器の充実を、そして鹿児島南高校は、音圧は充分にあるので、それをいかに整理してスッキリとした音楽に仕上げるかの追求を、鶴丸高校は、サウンド作りや全体のピッチ、奏法の安定等々、やや多い課題の克服を・・・・望みたいところ。
また朝一番の演奏ということで残念ながら聞き逃してしまったのですが、鹿児島県立奄美高校が、30人という人数で金賞を受賞しましたが、この日のラインナップを見ると、相当な個人技とサウンドを持っていたのではないかと思われます。これは、多くの中編成バンドにとっても目標になることでしょう。
また同じく30人という人数ながら、優れたトロンボーン奏者を抱えて、ややバランスは金管に偏ったものの、ピッチの安定した質の高い音楽を作り上げていた、鹿児島県立川内商工高校も印象に残った。

というわけで2日間を通して聞いて感じたのは、突出した代表団体と、それに続く金賞団体。そして金賞と銀賞のボーダーライン団体、あと一歩で銀賞上位にいけそうな団体等々、金銀銅という3つの賞で分けるのはもう限界が来ているのではないかという点。5つぐらいのカテゴリーで、明確に次の段階に進むためのアドバイスをするというのが理想ではないかと思います。まあ、言うは易し、するは難しなのでしょうが(笑)。
最後にひとつ。2日目よりは1日目。2日目の後半よりは前半の方が、やや点数が甘いかな、という印象でした。
代表団体は、8月19日の九州大会で、それぞれの持ち味を存分に発揮してもらいたいと思います。2日間、特に2日目は、強い風と降灰と暑さの中、みなさんお疲れさまでした。