いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「繕い屋 月のチーズとお菓子の家」矢崎存美(講談社タイガ)

繕い屋 月のチーズとお菓子の家 (講談社タイガ)
繕い屋 月のチーズとお菓子の家 (講談社タイガ)

夢を行き交い「心の傷」を美味しい食事にかえて癒やしてくれる不思議な料理人・平峰花。リストラを宣告されたサラリーマンがうなされる「月」に追いかけられる夢も、家族を失った孤独な女性が毎夜見る吹雪の中で立ち尽くす悪夢も、花の手によって月のチーズやキノコのステーキにみるみるかわっていく。消えない過去は食べて「消化」することで救われる。心温まる連作短編集。

ふわっふわ。
主な舞台が夢の中のということで、それだけでも地に足の付いていない非現実感があるが、それに加えて悪夢を食べて晴らし人生が好転していく登場人物たちの様子と、それを促す少女・花と猫・オリオンのコンビが持つ温かで優しい雰囲気が合わさって、作品全体に心地のいい空気が漂っている。
作者を知った作品であり今でも最も好きな『神様が用意してくれた場所』にとてもよく似た雰囲気で、これは自分好みの良い作品と出会えた。
……と、思っていたんだ。最終話前までは。
最後になって急に舞台裏を見せられて冷や水を浴びせられた気分。傍から見たらクズ野郎でも悪夢を見るだろうし、花が危険な目に合う話の流れには文句はないが、何故最後にしてがっつり“設定”を持ち出して来たんだろう。現実に引き戻されるのは読了後でいいよ。本の中でくらい夢気分に浸らせてくれよ。