矢車 菊の1000字エッセイ・ダイアリー このページをアンテナに追加 RSSフィード

2007-01-20 夢がない このエントリーを含むブックマーク

 投手松坂大輔は「大リーグに行くのは夢ではなく目標だった」と言

葉にこだわってみせたが、「夢」は絶対叶わないことがわかっているか

ら、虹色の気分に浸るだけで、なんの行動も起こさない、という場合も

あるけれど、それが叶ってこそ我が人生という思いで、熱くしぶとく実

現を目指す場合もある。その時に「目標」だと、心が温かく勇気づけら

れるロマンティックさに欠けるので、「夢」という言葉を遣うわけだ。

 そう。夢はすぐに叶うとはかぎらない。大切なのは諦めないこと。

 ところが、大学受験に失敗して三浪と聞けば、ほかの大学や別の進路

に切り替えた方がいいんじゃないの、と考えるのが世間である。

 大学受験は夢じゃないのか。

 夢ではないのだろう。それは通過点だ。

「夢」とは、たとえば医者や弁護士の資格を取るのであれば、それを職

業にすることで自分はどうしたい、というところに宿る。単に高収入

けが理由であれば、そこに夢はない。もっとも、周りの両親やきょうだ

いから「いい加減に諦めたら」と言われる四面楚歌の状況にあっても執

着しているとなれば、また、見方も変わろう。

 だが、短大生の妹を殺した上、切り刻んで放置し、予備校合宿に行っ

ていた三浪中の次兄は、両親が歯科医、長男が大学歯学部生という環境

にあった。

 次兄が歯医者を目指すのは真に自発的な熱き思いに駆られてのことで

はない、と殺された妹は鋭く見抜いていた。で、言葉にした。

「夢がない」

 私は、舞台に立ったり、オーディションを受けて、自分なりの夢に向

かって頑張っているのにね。歯医者だけが人生ではないだろうにね。

 そんな思いだったのではないか。

 気持ちはわかる。しかし、夢がないとなじる相手は、本来、大人であ

るべきなのだ。未来に夢や希望をあふれるほど持った子供達が、生活し

ていくうちに若い頃のこころざしを忘れ、汚職や隠蔽や談合馴れ合い

や、そういうことに平気でまみれてゆく大人を挑発する時、武器に使う。

 この二人は二十歳と二十一歳という年齢ながらもまだ子供で、片や、

夢は見つかったが夢の途上で、片や、夢以前の場所に立ち尽くしていて、

そこを突かれたら激しい劣等感である。そういう彼らだったと思うにつ

け、痛ましくてならない。

 そして、私は、私自身が言われた気になり、ふむ・・・と考え込んだ。

 大人なので、泣きも喚きも逆ギレもせず、深く静かにふむむ・・・で

ある。