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boehmflute.com - コラム集 -

2009-10-24

円錐管のベーム式フルートについて part1

12:34



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(上はenokida氏所有のGodfroyとpankomedia所有のLouis LotおよびBonneville。 すべて円錐管のベーム式フルート。各々が製作された時期には50年もの開きがある。)

pankomedia:
今回はいよいよ円錐管ベームのお話を伺います。

enokida:
ええ、前からやりたいといっていたわけですが、もう少しオケで使ったりして実戦の感触を持ってから話したいと思ったものですから。

pankomedia:
現在、モダンのフルオーケストラに円錐管ベームのフルートを持ち込んでいるのは世界を見渡してもenokidaさんだけではないでしょうか。

enokida:
そうかもしれませんね。円錐管というとその音量の無さのために円筒管にとってかわられたというイメージばかりですから、現在のオーケストラで使えるとは誰も考えないのでしょう。

pankomedia:
しかし、そのいわば”ひ弱”なイメージというのはまったくの間違いですね。

enokida:
ええ、むしろ広いコンサート会場の隅々まで音が届くという意味では円筒管を凌ぐようなところもあって、それは私自身も実際に本番で使ってみるまではわかりませんでした。いまや円錐管ベームはある意味フルートの理想の姿として私の手元にあります。

pankomedia:
私もenokidaさんがモーツァルトドボルザークの作品で円錐管ベーム吹かれたときにはまったく驚きました。オーケストラの中であそこまで鼻筋の通ったフルートの響きを聴いたことはそれまでなかったように思います。

enokida:
つい最近ベートーヴェンブラームスのそれぞれ第1番の交響曲の本番があって、そこでも使ったのですが広い会場で観客の評判も上々でしたよ。(記事後半に音源あり。)音量云々という以前に音が実に良く通るんですね。そして響きの質が低音から高音まで均質でフレーズが自然とつながっていくことで音楽の「表現」としての聴衆への伝わり方が断然違ってきます。これは管体が先細りの円錐であることの一番大きな利点でしょう。

pankomedia:
以前からenokidaさんは、尊敬するベームに対して一つだけ物申したいことがあって、それは歌口やトーンホールを大きくすればそれだけ音が大きくなるというが、それは間違いだとおっしゃっていました。それは今回まさにプロフェッショナルの現場において証明された訳です。これはとてもセンセーショナルなことだと思います。

enokida:
そう言っていただけるとありがたいですね。何を持って大きな音というのか、それはどういったものが演奏を聴いている人たちの耳にどれだけ届くかという意味でいうのが本当だと私は思います。声の訓練が出来ていない人が拡声器を使ってがなりたてても何を言っているのか分からない。しかし、声も発音もしっかり出来上がっている人だと口に手を添えて話すだけでその何倍も内容が伝わるという例えではどうでしょうか。何をもって美しい音かという基準は人によって違う場合があるでしょうが、その音でもって何かを伝えなければいけないという目的においてどのような楽器が優れているかという点についてはある程度はっきりしたことが言えるのではないかと思います。
私は何事もバランスが取れていないと良いものは出来ないと思っています。フルートの場合は、管体の内径に対して歌口やトーンホールの無駄に大きすぎるものが多いことが、音楽表現としての空虚さにつながっていると事あるごとに主張してきました。その方が吹きやすいという人がいますが、聴いている人に質の高い音楽を届けるという目的でフルートを吹く身分としては、そういった楽器はかえって使いづらい楽器だと思うのです。円筒管のフルートは低音に行くほどどうしても音響的にうつろになっていく部分があるのに対して、円錐管では管が長くなる(低音にいく)にしたがって内径が細くなっていくので、息の圧力を一定に保ちやすく、その結果として音がやせずに済むのですね。円筒管でも初期のものはその欠点を意識して歌口に抵抗を持たせたりして奏者が息の圧力を保ちやすいようにする工夫があったのですが、現在ではそういった視点からフルートという楽器を考えることはないのではないでしょうか。

pankomedia:
19世紀にはまず大きくされたトーンホールについての議論があって、トーンホールを大きくするとフルート本来の響きを失うといった意見のせいで、なかなかベームの作った楽器の真価が認められませんでした。円筒管でも当時でいうところの”フルートらしい響き”を作り出せるということを、タファネルなどの奏者やルイロットなどの楽器が証明したからこそ円筒管のベーム式フルートが普及して現在のフルート環境があるわけですが、今ではそういった円錐vs円筒のような対立の図式自体がありません。

enokida:
そろそろそういった議論を復活させてもいいのではないかと思うのですが、いかがなものでしょう。バロックのトラベルソとベーム式フルートというような比較で一時議論がありましたが、それらはあまりに時代が離れているので、今ではそれぞれに妙な棲み分けみたいなものが出来てしまっていてお互いが刺激しあうということがなくなっています。現在のベーム式フルートのルーツがロマン派の時代の楽器にあることは明白なのですから、今普通にベーム式フルートを吹いている人が、自らの楽器に対して更なる可能性を求める際にそのルーツとなっているロマン派の円錐管フルートに目を向けることは大変に有意義であると思います。どうでしょうか?


---> part2に続く

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