日本でも指折りの旨い肉。〜赤坂見附 よしはし

この所、体調がイマイチでveggieみたいな食生活をしていたのに、金曜は牛肉をぎゅーと食べてしまった。
赤坂見附のすき焼きの名店、よしはしである。何でこんな絶対に個人では行けない様な馬鹿高いお店に行ったのか。またもや某バルジブラケットの方に、昇進祝いを兼ねての接待を頂戴したからである。有り難い話なので、オファーを受けたら即諾してしまった。
それにしても、接待費が殆ど出ない当社とはえらい違いなので、大丈夫なんでしょうか、と聞いたら、どうも接待費とパフォーマンスは比例するとのトップのお考えとの事。そうかも知れない。何十億、何百億のディールが取れるなら、高くて何十万のお金は、「仲間内の食事代に消えないので有れば」という条件付で、ケチるべきでは無いのかもしれない。付け加えると、接待費とパフォーマンスの比例ってのは、パフォーマンスが悪くなると、個人としてのリスクヘッジ接待費を控える様になるという事かもよ、とその投資銀行の方は笑っていた。入れ替わりが激しいこの業界ではさもありなんである。
すき焼きってのは、異論はあるだろうが、基本的には余り高く無い肉を砂糖と玉子と割り下で誤魔化して食べる庶民料理である。しかし、ここの肉は、ブランド牛では無いが、綺麗に霜の降る和牛なのである。昔は松阪牛しか使っていなかったらしいが、今は日本各地に美味しい肉の産地が勃興したため、ブランドにこだわらず、その日一番美味しいお肉を出すとの事。昨日は山形だったらしい。このポジショントークだけでも、とてつもなく美味しそうではないか。
すき焼きの前には、懐石でいう先付けから八寸にあたるお料理が数品出てくる。牡丹鱧の梅肉添えなんてのは京都のなかひがし辺りと遜色ない出来栄え。
そしてすき焼きである。大皿に盛られたお肉は、「これは鉄板焼きでしょうか」と思わず呟く位の分厚さ。そして見事な霜降り。それを仲居さんによれば「生めと普通の間」という表現のミディアムレアで頂く。肉汁が噴き出して、舌の奥まで満たす。とてつもなく旨い。牛肉を余り好きでは無いがゆえに、とても肉質にはうるさい僕だが、これは日本で食べたベストの肉の一つである。思わず恍惚となる。客の感嘆の声は聞き慣れているという風情の仲居さんの涼しい表情は悔しいのだが、それにしても旨い肉だ。あと、すき焼きにつきものの玉子は、卵白のみ泡立ててメレンゲ風味にして、下には卵黄が沈んだ面白いたてつけ。このフワフワな卵白が上品な味を引き立てる。

[SHARP 904SH 35mm/F2.8]

  • 言うことは何も無い霜降り。

僕は、基本は食事は欲望を満たす行為なので、ある程度下品なものであってしかるべきと思っている。すき焼きならば、どうという事も無い肉を割り下と玉子でずるりと飲み込んで、ご飯をかきこむのが正しい食の快感の有るべき姿だとも思うのだが、ここまで特上の肉に、工夫を凝らしたフワフワ玉子を合わせたら、かしこまってお上品に頂くのもしょうが無いと思った。
肉に始まり、松茸やお野菜を食べて、最後は白滝である。白滝も単なる白滝では無い。肉汁を吸い込んだ割り下をたっぷり吸わせた上で、カリカリになる寸前まで焼く。これも普段食べている白滝とは違う別種の食べ物である。この技巧を凝らした味にはクラクラする。
ここでクラクラしたので、その後のお椀とご飯、果物はよく覚えていない。
すき焼きという食べ物をここまで昇華させたこのお店は素晴らしい。久々の食で感じた驚きだった。