男と女の市場原理

 東京の恋愛市場はルックス軸で効率的である。なかには例外もあるが、街を歩くカップルの見た目偏差値はほぼ釣り合っている事が多い。僕は、大阪で何年か働いた事があるが、大阪の方が非効率だった。勿論、基本は見た目で釣り合っているんだけど、例外の出現頻度が高いのである。僕は、大阪に行ってすぐこの現象を発見し、吉本の本場だけに「オモロイ」というのが別の評価軸になってるのかと思って、その仮説と共に早速上司にホウレンソウしたが、上司はあっさり、「ちゃう。ゼニや、ゼニ。」と否定した。まぁどっちも有り得る話ではある。ただ、いずれにせよ、当時ペーペーで素寒貧であり、話すのも余り得意でない僕がモテる様になるには、どちらも救いに成らない遠い軸だった。後者は特に当時酷かったらしく、別の生粋の関西人の先輩から、「お前の話はネタのカードを切ってるだけの一方通行で、しかもおもろないので、仕事はええから、毎週怪傑えみちゃんねるを録画して、上沼恵美子のツッコミを学べ」という業務命令を受けてしまった。周りの同期が、銀行法務検定とかを勉強している時に、僕は上沼恵美子を最後愛せてしまう程見つめ続け、そのツッコミの技を学ぶ羽目になったのである。しかし、その後の人生を振り返ると、銀行法務検定よりも、上沼恵美子のツッコミ技の方が公私ともに圧倒的に役に立ったのは言うまでも無い。あの技覚える前、自分がどうやって営業周りしてたのか、ゾっとする。
 それで大阪で技を磨いて東京に戻ると、そこには戦慄すべき効率性の荒野が広がっていた。東京では彼女彼氏というものは、ルックスが一つのブランドで、コンテンツよりもブランド優先であり、お気に入りのブランドをまず決めて、その中で比較的許せる使い勝手のものが選ばれる鞄みたいな存在なのかもと思った。その隘路の中で、僕は僅かな可能性を求めて、大阪で鍛えた技を繰り出してみた時もあったが、正直「K-1で突っ張りを繰り返す曙」みたいな可哀想な存在になっただけだった。文字通り土俵が違ったのである。
 ただ、例外は少ないが無い訳では無い。その例外を如何に実現するのか、そればっかりを考えていた時にふと気付いたのは、男性というものは馬鹿みたいに単純で、女性に求めるのはまずルックスで、それを満たした後に性格とか自分に合う人を探す、という思考パターンであり、自分もまさにその軸におけるパレート最適の例外を探していたということである。男は、ウルフルズの古い歌である「♪いい女を見れば振り返る ホント スケベ オレの頭ん中」という通りの生き物なのだ。一方の女性は、男性のルックスももの凄く重要だが、中には「落ち着ける」「安定 Or 高収入」「やさしい」「胸板」とか、ルックス以外の幾つかの選択軸(外部不経済?)をルックスより重要視している人も居る。遠目から旨そうな肉付きの良い獣を狩る役割だった男性と、見た目より中身が甘いかが重要な果物を採集する役割だった女性が、数万年にわたって遺伝的に適者選別された結果かもしれない。まとめれば、男性は女性に第一にルックスを求め、女性の中には、希に男性にルックス以外のものを第一に求める人もいるということだ。
 その証拠に、街で見かける不釣り合いカップルは、すべて美人に対してブサメンというパターンである。イケメンに対してブスというパターンは、歴史上本木雅弘夫妻しか存在しない。さほどイケメンでない芸人やプロ野球選手が美人女優をゲットする事はたまに有っても、女子柔道中重量級の選手がジャニタレをゲットする事は未来永劫起こりそうにない。男に生まれて少しだけ良かったかも、とこれに気付いた時ちょっと思った。