カラスヤサトシ『おのぼり物語』

おのぼり物語 (バンブー・コミックス)

おのぼり物語 (バンブー・コミックス)

 2002年、28歳の作者が漫画一本で食っていくことを志し、一人上京した後の紆余曲折を描いた作品。
 若かったあの頃を懐かしむ、というにはあまりにも近い過去の話で生々しさもあり、夢と希望に燃えて! というよりは、どこか行き当たりばったり感のあるトホホな親近感をおぼえるエピソードの数々。

 金も無い仕事も無い友達もいない、というないないづくしの貧乏生活は創作を志す者のエピソードとして別に珍しいものではありませんが、それを特に苦労話として描くでなく、しょっぱかったりイタかったりした自分を観察対象としてユーモアたっぷりに客観視し、ネタに昇華してしまっているのはやっぱり強いなあ、と。

 孤独や将来への不安、淡い恋などをネタにしつつも、末期癌に侵された父親との残された日々を綴る稿は、色々と本当に生な話でネタにしきれない辛さもあるのですけれども、それだけに誰もが経験する重い話の一つの形として読ませるものが。

 西武新宿線沿線、個人的には似たような時期に上京して近い場所に住んでいたので何となく親近感のある作品でありました。