残すもんと残さんもん


引き続き、「捨てる」を考え中。そんで、「捨てる」前に電子化して残しとかんと、後悔するかもしんない、って話をした。でも、こういう話をすると、スキャン画像はカラーか白黒か、解像度はいくつか、なんていう話にされちゃう。もちろん、そういうことも重要なんだけど、それ以前に、本について何を残すべきなの?って部分が抜けてると思うんだよね。(どの本を残すか、じゃないよ。本のどの部分を残すか、だよ。)今日はその話。




例えばね、前にも紹介した「大学図書館について、あれこれ語る会*1」の第4回目で、「文献資料の収集・保存に関する課題と今後について、・・・東京大学東洋学研究情報センター田中教授より発表・・・が行われた」わけ。(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/gijiroku/002-1/05062001.htm)そん中で、田中さんは、

歴史的に貴重な資料、紙媒体として保存が求められる資料もあるが、こうしたものも利用できなければ意味がないので、一番古くて貴重な資料こそ早期に精度の高い画像データとして残す必要がある。実際に利用する場合は電子データの方を使用すればよい

と言ったらしい。


もちろん、田中さんはもっといろんなことを知ってる上でこういうこと言ってんだけど、これをシロートが聞いちゃうと、誤解するわけ。そうか、(近い)将来は古文書とかをネットで閲覧できるようになって、「スタバで考古学」ってことが実現すんのか、ってな感じでね。
シロートにとって危険な箇所は、「電子データの方を使用すればよい」という部分。
極端な話をすると、どんなふうに「使用」するのかってことが決まってないと、スキャン方法が決められないわけ。逆に、スキャン方法を決めちゃうと、その方法が許す「使用方法」しかできんくなるわけ。
一例を挙げると、

http://www.rekihaku.ac.jp/kikaku/yume/sekigai.htmlから拝借

現物の色を大切にしたいんだったら上の(ふつーの)写真でしょ。でも、書かれた文字が重要なんだったら下の(赤外線)写真なわけ。こんな感じで、どんな使い方をすんのか、ってことをあらかじめ決めて、覚悟をしてもらわんことには、スキャンできんよ。
また技術的な話をすると、「偽札の現代史」みたいなのを電子化するのは、かなり困難なわけ。理由はhttp://www.boj.or.jp/type/release/zuiji/kako03/bnnew3.htmにもあるように、スキャンすると写らんもんとか、スキャンすると写り込んじゃうもんって小細工が、あちこちにされてるわけ。そしたら、「現物に忠実に」スキャンするってのはかなーり大変。時には不可能だよね。


(中略)


こんなことをあれこれ考えてみると、「本って一体何さ?」って話にたどりつくわけ。そんでこういう話は三上さんに語ってもらうのが一番。というわけで、http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20061114/1163480812へ行こう。

本はオブジェクトとテキストから成るという美崎薫さんの明快な洞察を引き受けて言えば、オブジェクトとしての本への愛着はテキスト外の体験への潜在的なリンク、索引に由来すると言えるだろう。

と書いてて、要するに、「本ってさ、書かれてる内容が大切だと思ってんでしょ?でもそれだけじゃないんじゃないの。例えば、自分が小さい頃に読んでた本とかってさ、その小さい頃の思い出が詰まってっから、なかなか捨てられないんじゃないの?その思い出につながってる部分ってのは、文字とは限らないよね。シミや汚れかもしんないし、においかもしんないよね」ってことらしい。


そうすっと、本を電子化するって時、そんな思い出も電子化しとかんといかんことになるよね。だから、場合によっては、本のにおいだとか、本の感触だとか、本の音とかまで、電子化して残しとかんと、きっと後悔するよね。でも、実際はそーんな全部のことを残すわけにいかんくて、何かを切り落とさないといけない。それか、いつまでたっても本を捨てれず、気づいたら床が抜けちゃうってことになるから、早めに鉄筋コンクリートの建物の1階に引越さんと。


じゃ、結局何が言いたいのかって言うと、「捨てる」ために「電子化」しようと思っても、「電子化」で「残すもん」と「残さんもん」を選ばなくちゃならんくて、結局、何かを「捨てる」ことに変わりはないわけ。ここに、はっきりとした「電子化の限界」があるってことをちゃんと理解してもらわんとね*2。そんで、このシリーズの最初で紹介した三上さんの後悔ってのは、実は永遠につきまとう影のようなもんで、もしこの後悔を先延ばしできたとしても、それは「アパートの床」が支えてくれる「束の間の幻想」だってこと。


次回は、その「豊島区の底抜けおじさん」の話をしよーと思ってるよ。

*1:本名は、「研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会 大学図書館等ワーキンググループ」ね。

*2:もちろん、電子化する側からすれば、なんでもかんでも電子化してやるって意気込みはあるけど、それだけじゃどうにもならんことがあるわけ。