ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《誘い/Lure of Prey》/『極黒のブリュンヒルデ』第26話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)
(第2巻は8月17日発売予定)

『今すぐ魔女どもを殺せ そうすれば真実を伝えよう』
待っているのは魔女の敵!? その真意や如何に―――

<承前>

―――私は今日を待つ間に、前回懸念したことの延長線上の問題を思案した。端末に示される場所への良太の単独行および彼の留守中に刺客の襲撃可能性、および平穏な日常の崩壊。この条件は良太と寧子たちが連携を取れずに刺客と相対せねばならない、というのみならず……佳奈の【予知】が活用できない、あるいは「活用され過ぎて」しまう恐れが浮上してくる。

 先だって第16話において、予知能力の発動条件が提示されたが……東京秋葉原においてもそうだけども、射程距離の問題がまず一つ。天文台ドレスデン製薬間をカバーできた時点で基準は微妙だが、此度指示された場所が彼女の能力が届かない距離にある場合、鎮死剤奪取作戦時のような事前対策は打てなくなる。逆に佳奈を目標に程近い所へ運ぶという手もあるが、真意は定かならずも『魔女を殺せ』と言う相手に「動けない」彼女を近づけるのは危険に過ぎよう。やるなら魔女総出で良太のサポートと佳奈のガードという作戦が良かろうと思うが、良太の「親心」がそれを阻むかもしれない。

 他方、悪い予想の通りに良太が遠出している間に刺客が近づいてきた場合。まず探索から始めなければならないだろうが、組織の情報支援や探査に適した魔法を備えていれば大幅に時間は短縮できよう。そして最大二日の猶予の間に敵が現れる事を佳奈が予知した……つまりその魔手によって誰かが……寧子が非業の死を遂げると確信してしまったのなら、彼女はどう「動いてしまう」のか。「本当は動ける」という秘密がついに開陳される可能性もあるが……第14話感想の折に案じた「取捨選択」も捨て置けぬ。いやさ予知した未来を捨て置く、看過する―――それがどうして起こり得るかと言えば、今回の刺客こそは寧子を倒す為*1に送り込まれた魔女であり、寧子が覚えているかはともかく寧子を良く知る者であるか、寧子を捕殺するのに最適な魔法使いであるからだ。そしてもしも、その手にかかるのが寧子でも他の魔女でもない一般人であったなら……佳奈は寧子の安全と秤にかけるまでもなくこれを黙殺できてしまうのではないか。もし犠牲者が柏木さんのような寧子と友達になった人間でも、人命救助を重んじる寧子の意志に反していようとも。前提としては魔法の秘匿をかなぐり捨ててでも寧子を殺しに来る相手に命令が出て、ということもあるが組織のトップが最優先で「中の人」の回収を命じたものだから……。
 もし相性的に寧子では絶対に勝てない能力者であれば、カズミや小鳥、あるいは切り札を切った佳奈が加われば勝ち目があるかもしれない。もしくは単純に強力で隙が無い魔法使いが来ると苦しいが……単騎ならば良太が頭を使ってなんとか……なんとか……だから連絡つかない状態でどうしろと?

 この推定第三章で、寧子は放課後遊びに行く友を得た。その一方でカズミは良太以外の男を寄せ付けず、小鳥の学校生活は未描写……佳奈は元より何の変化も無い。その「何の変化も無い」ことが齟齬を招くのではないかと、悲観的に穿って恐々。

<本題>

―――などと暗い想像を巡らせていた訳だが、


「……そこへ行くつもりか?」
「もちろんだ 他にお前達の命を延ばす手がかりはない」
「……」「さて これで秋葉原での用事は全部終わりだ 景気づけにメイド喫茶へ行くか?」
「ホンマに!? やった―――!!」


スーパー☆カズミちゃん様タイムまだまだ続くよやったーーっ!!!


「行ったらきっと捕まって殺される 殺されなくても今までと同じようには暮らせなくなる」
「そのくらいで・・・冷たいんだな
お前たちと一蓮托生だと思っていたのはおれだけなのか?」


 はたして本当に良太が指示された場所に一人で行くと決めて、それを止めようとする魔女達に超格好つけっぷり覚悟完了ぶりには惚れるわ……実はカズミが良太にアプローチかけてるのは夢目的の為の打算半分かと思ってたのだけど、そりゃあマジ惚れるわ……抱いて! って本当に言った―――!?


「私・・・ 村上くんがいなくなったらすごく悲しい」
「自分が生きながらえるよりも あなたが生きていてくれる方が嬉しい」
「だから無理しないで・・・」

「……心配するな」


 そ し て ま た 階 段 の 上 に カ ズ ミ の 影 が 。
 そりゃあ夜押しかけるわ……しかも村上の御母堂が徹夜仕事で留守で、明日には罠かもしれなくても往くとかもう押し倒すしかないわ……。


「……なあ 村上は寧子のこと好きなん?」「は?」
「……なんだよ急に……」「どっち?」
「別に好きってわけじゃ・・・」「ほんなら良かった」
「それじゃあ私とHせぇへん?」
「!?」
「それとも・・・ この状況になってもムラムラせんほど
私に魅力ないんかなぁ・・・」


―――ふう……。


 例の端末の中身。地図の下に推定パスワード入力欄があるとか、予想通り外部と通信するアンテナとGPSチップが付いていたとか、地図が示した場所は中軽井沢*2の別荘地だったとか、敵方【操網】使いへの警戒とか……今だけは瑣末事だわ……。
 え、もしかして次回、この後ナニをしたとかしないとかをすっ飛ばして指示された場所へ赴く良太という展開になったりしないだろうな。あ゛、今回合併号で次は再来週だ……ッ!? なんという生殺し。岡本倫ドS(約束)。沙織に寧子が真っ二つにされた時は「これで終わる筈が無い」と思えたし、小鳥登場回ラストで後ろ髪にハーネストが覗けた時は読者視点の緊張感に対してその場は和やかだった。だが此度の引きは……クルぜ……「メイド喫茶でのカズミ様ご乱行を何故描写しなかったし」とか「むしろカズミは良太のエロ嗜好を探り倒すべき」とか言ってられない()。


 やはりカズミの生きる目的というか夢は「シュウちゃんのこっこがほしい」的なものなのだろうか。しかし現状においては十月十日どころか一ヶ月先の生存も危うい、と言われて更に一週間経ったはず。それで良太を誘って何がどうなるというのか……どうならなくてもいいからナニしたい、繋がりたいとカズミが想ったとすれば、それは本当に彼女が良太を好きになっていたということなのか。この頃主人公の男ぶりは天井知らずだし、いつフラグ立ったかとかもう不要な気もしてきた。
 良太以外の男子とは話もしないカズミ、口を開けばエロトークばかりなのに処女のカズミ。彼女が一線を越えようと踏み込んだのは、良太が罠であれば死地となる場所へ一人赴こうとしており、駆けていった寧子がバス亭で良太と話すのを見ていたからか。寧子自身は年相応の恋愛意識が育っておらず*3、もしかすると良太もそうかもしれない。だがカズミは、だからこそ今、そうせずにはいられなかったのか―――

 嗚 呼 っ 何 故 二 週 間 先 な ん だ っ

―――もう17日発売の第2巻、第10話で階段駆け下りる笑顔に浄化されるしかねぇ!

*1:沙織は単に薬を奪いにきた脱走者に対する強力な伏兵として配置されたのであり、キカコはシノ達を殺す為に派遣された上での遭遇戦。いずれも相手が寧子と知って用意されたのではない。

*2:海辺埠頭かと思ったら内陸だった。東京よりは近くて一日で行ける距離だが、八ヶ岳連峰の反対側という遠さは佳奈の感知範囲を越えているのではと<承前>の懸念が深まる。

*3:それにしても彼女の今回の言葉は、「魔法使い」的自己犠牲の死生観より個人的な感情に基づいていたように思う。推定第3章では学校生活でその萌芽があるかも、とは考えていたが結局のところ彼女のそれは良太から始まったのかもしれない。