福島第一原発 この一週間

事故の短期収束の可能性はすでに失われた。冷却系統各部の損傷は予想以上に激しく、海から海水を取り込む二次冷却ポンプは津波ですべて失われ、タービン建屋は汚水の処理で作業が難航しており、一時冷却ポンプは原子炉のすぐ側にあるため放射線が強くて近づくことすらできない状況だ。そのため、1号機・2号機・3号機の冷却系をすべて復旧させるためには、数ヶ月が必要と見られている。つまり、その間、高濃度放射性物質をふくんだ汚水を周囲に垂れ流しながら、応急処置として外部からの冷却水の注入が続けられることになる。
1号機・2号機・3号機の核燃料は、熱で損傷が進行しており、冷却作業は不可欠なので、注水作業は最優先で続けられることになる。選択肢はそれしかないので、今後、数ヶ月にわたって、放射性物質を垂れ流しながらのつなわたりの作業が続くことになる。




以下、4/1の朝日新聞の解説記事、まとまってるので長いけど全文引用。

廃炉に長い歳月 福島第一原発、予測は困難

 廃炉が決定的となった東京電力福島第一原子力発電所の1〜4号機。今後の最大の課題は原子炉を冷やして、安定して止まった状態にすることだ。さらにその難関を乗り越えても、高レベルの放射性廃棄物が出る廃炉作業をどうするかという課題が待ち受ける。


■冷却になお数カ月か

 福島第一原発にいま必要なのは、原子炉内の温度を100度未満にする「冷温停止」状態にすることだ。とにかく水を入れて冷やさなければならない。この状態にできるかが最大の関門だが、なお数カ月はかかるとみる専門家もいる。

 今回の地震津波で、同原発の冷却システムは作動できなくなった。消防車や仮設の電動ポンプを使って炉に注水して冷やす今の作業はあくまで緊急避難だ。

 原子炉に水を入れると燃料の崩壊熱で水が蒸発する。冷却システムはこの蒸気を冷やして水に戻して循環させ、圧力が高まらないようにする仕組みだ。炉で熱くなった水は、熱交換器を通じて海水で冷やす。

 しかし今回のように水を入れるだけだと蒸気で内圧が上がり、原子炉圧力容器や格納容器の圧力が高まり、壊れるおそれもある。

 そのため事故後、炉内の圧力が上がるたびに、壊れるのを防ぐため、放射性物質を含む蒸気を外部に放出するベント(排気)の実施を迫られた。注水で原子炉からあふれた汚染水が外部に漏れ出し、海を汚染しているという見方も強まっている。

 周辺の汚染防止は、冷却システムの復旧がかぎだ。

 各号機では通電作業が終わり、中央制御室の照明が点灯した。計測機器類を復旧させて、壊れた場所を特定しなければならない。冷却システムのポンプや機器も大幅に壊れている可能性が高く、修理や交換も必要になる。特に放射能で汚染された場所では作業員の被曝(ひ・ばく)を避けるため、長くはいられない。手間と時間がかかる見込みだ。

 最終的に冷却システムを復旧させることができなければ、外部からの注水作業を続けざるを得ない。その間、汚染水は外部に出続け、海に放射性物質を出し続けることになる。並行して、タービン建屋などにあふれてたまった汚染水の処理も必要だ。貯水プールなどを設ける案も浮上しているが汚染水の処理に追われ続けることになる。


■壊れた燃料の扱いは…搬出か「石棺」も選択肢

 冷温停止できたとしても、今度は廃炉に向けた長く厳しい道のりが始まる。焦点は、今回の事故で、ぼろぼろに壊れたと見られる核燃料の扱いだ。

 まずは、燃料が持つ熱を冷まさなければならない。とりあえず冷却を続けるにせよ、燃料を取り出して処分するか、それとも原子炉を丸ごとコンクリートで固めるか、いずれ選択を迫られることになる。

 原子炉の核燃料は溶融して原形をとどめていない可能性もある。原子炉周辺はプルトニウムやウランなどが放出されている可能性が高い。原子炉に近づいて燃料を取り出す作業をするには、放射能に汚染された場所をきれいにする必要がある。溶けて固まった燃料を取り出す技術も開発しなければならない。

 さらに取り出しても高レベルの放射能を出す燃料の処分はやっかいだ。地下深くに埋めるための処分施設は今のところどこにもない。通常の使用済み核燃料を再利用するために処理する施設は青森県六ケ所村にある。しかし、事業主体の日本原燃は「(想定以上の高い放射能を出す)大きく壊れた燃料は受けいれたことがない」と困惑する。

 それでは事故を起こした旧ソ連チェルノブイリ原発4号炉のように、丸ごとコンクリートで覆った石棺のように封じ込めるのか。

 宮崎慶次・大阪大名誉教授(原子炉工学)は、残った燃料が発熱してコンクリートに亀裂ができて新たな放射性物質の放出につながる危険もあると指摘する。「燃料を取り出した米国のスリーマイル島原発事故での対応を参考に、海外の協力を得てロボットなども使い、どんなに多くの時間とコストと労力をかけても取り出すべきだ。ただ、今回は4基も損傷しており、取り出すだけでかなり長い年数がかかるだろう」

 また、近畿大原子力研究所の伊藤哲夫所長(原子力安全工学)は「石棺などで封じ込める方法が、放射性物質の拡散を防ぐ上でも一番良いと思う。だが燃料をそのままにして封じ込めるか、別の場所に移すかは、燃料の破損状況に応じて検討すべきだ」という。

 そもそも原発廃炉は通常でも長期戦だ。燃料を取り出し原子炉に通じる配管をふさぐ。原子炉の放射能レベルが下がるまで5〜10年間、密閉状態にする。その後、原子炉を解体、撤去して最後に建屋を解体する。高い放射能が一挙に外に漏れないようにするため建物は放射能汚染のレベルが高い方から低い方へ解体するのが基本だ。

 だが福島第一原発では、廃炉の場合に一番最後に解体される原子炉建屋が水素爆発などで大きく壊れた。タービン建屋地下に放射性物質を含む水がたまるなど、建屋の内外が高濃度の放射性物質で広範囲に汚染されている。汚染を遮るための構造物など、作業員が被曝を軽くできる環境を確保することが重要だ。

 宇根崎博信・京都大原子炉実験所教授(原子力工学)は「国内の原子炉解体例から考えても、すべて終えて更地にするまでに最低20〜30年はかかるだろう」と見ている。

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104010226.html


上の記事の「すべて終えて更地にするまでに最低20〜30年はかかるだろう」という見解は、言い換えると「うまくいけば20〜30年で」という意味である。今後、原子炉の損傷がすすみ、内部から大量の核燃料が流出してしまったら、解体するどころではなくなり、チェルノブイリのようにコンクリートで固めて監視していくしかない。そうなったら、更地にするまでに数百年はかかることになる。毎日新聞3/29の解説記事でも、事故収束の見通しがたたない状況が紹介されている。


毎日新聞3/29 福島第1原発:注水増やせば汚染水拡大 冷却足踏み
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110329k0000m040152000c.html


政府も4/3になってようやく冷却機能の復旧に数ヶ月かかるという見通しを述べた。もはや作業が長期化するのは誰もが知っているから、いまさらという感じである。パニックを恐れているのか、政府の発表する悪い情報は常に「いまさら」のタイミングで出てくる。


朝日新聞4/3 放射性物質止まる時期「数カ月後が目標」 細野補佐官
http://www.asahi.com/politics/update/0403/TKY201104030041.html


3/24と3/25には、IAEAが「福島第一は安定しつつある」と発表し、事態が好転しているかのような期待が高まったが、これはたんに使用済み核燃料プールの冷却をおこなったことで、使用済み核燃料から気化する放射性物質の飛散が一時的に収まったというだけにすぎない。外部からの冷却水の注入で、使用済み核燃料が冷やされ、大気中への放出は止まったが、そのぶん核物質で汚染された水が周囲に流れ出しているだけなので、事態が好転しているわけではない。大気中の放射性物質は減少したが、原発周辺に高濃度放射性物質を含んだ汚水が垂れ流しになっているので、復旧作業はより困難なものになっている。

さらに原子炉本体は深刻な状態が続いている。こちらは使用済み核燃料よりもさらに高いエネルギーをもった核燃料が原子炉内部で熱を出しており、注水を続けることで温度を管理していかなければならない。すでに核燃料は自らの熱でかなりの量が損傷していると見られており、また、核燃料を閉じ込めている原子炉圧力容器もなんらかの破損があると見られている。3/23日には1号機の原子炉圧力容器の温度が設計限界温度を100度も上回って約400度に達し、あわてて注水量を増やした。原子炉の冷却は、温度を管理しながらのつなわたり作業が今後も続くことになる。では、圧力容器内の核燃料はいまどのようになっているのか。こうした状況分析はあいかわらず、海の外からやっている。


朝日新聞4/2 1号機核燃料「最大で7割損傷」 米エネルギー省認識
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104020194.html


原子炉圧力容器は厚さ16cmの頑丈な鋼鉄製の圧力釜で、これが核燃料を閉じ込めている。原子炉への注水が止まってしまうと、高温で溶けた核燃料が圧力容器の底にたまり、鋼鉄製の釜の底を溶かしていく。海外のテレビニュースでは、この炉心溶融によって圧力容器の底が抜けてしまうことが最悪の事態だとCGの映像を用いてくり返し解説している。溶けた核燃料が圧力容器を突破してしまうと大規模な水蒸気爆発を起こす可能性があり、そうなると爆発に格納容器はもちこたえられず、大量の核燃料が周囲にまき散らされることになるという。温度管理をしながら適切な量の注水を続けているかぎり、炉心溶融は食い止められるが、冷却ポンプが機能するまでの数ヶ月間、そのつなわたりの作業は継続されることになる。そんなつなわたりを何ヶ月も続けられるのかという疑問を感じるが、ともかく、周囲に放射性物質の汚水を垂れ流してでも、原子炉への注水作業は最優先されることになる。



作業の長期化は確実な状況なので、作業員の安全管理・危険手当・人員確保も重要な問題になっている。強い放射線の中で被曝しながらの作業なので、短時間交代の人海戦術で行われている。携帯線量計や防護服も不足しており、現場での安全管理の不備が指摘されている。また、発電所内に泊まり込んで作業している人も多い。復旧作業を継続的に行えるかどうかは、作業員の人員確保にかかっている。ところがそれにもかかわらず、東京電力や下請け会社では、作業員への危険手当の支払いに難色を示しているってなにそれ。私は日給十万円だって嫌だぞ。


朝日新聞4/3 「作業員の安全」と「原発収束」と…復旧作業対応に苦慮
http://www.asahi.com/national/update/0403/TKY201104020496.html


現在、福島第一原発では、津波と爆発によって瓦礫がそこらじゅうに散乱しており、その中で作業員たちは「免震重要棟」という施設に寝泊まりしながら、今後も復旧作業にあたることになる。


ラジコン飛行機をつかった福島第一原発上空からの高解像度画像3/24
http://cryptome.org/eyeball/daiichi-npp/daiichi-photos.htm


最後に日本気象学会が会員の研究者へ放射性物質の影響を予測した研究成果の公表を自粛するよう求める通知を出していたという記事。政府の指示による情報統制ではないかと批判が出ている。気象学会の言い分としては、不確実な情報をあふれさせると人々を不安におとしいれて国の防災対策を混乱させるというが、複数の情報ソースがあったほうがいいに決まっているわけで、研究者たちは反発している。SPEEDIについても意図的に情報をふせているように見える。

放射物質の飛散をはじめとした福島原発情報は、日本国内にとどまらず、世界的に影響をおよぼすものだけに、海外からも日本政府へ情報の透明性を高めるよう要望が寄せられている。事態か深刻化するのにともなって、日本政府が人々のパニックを恐れるあまり、重要な情報を隠蔽しているんじゃないかという不信感も高まってきているようだ。


朝日新聞4/2 放射性物質予測、公表自粛を 気象学会要請に戸惑う会員
http://www.asahi.com/national/update/0402/TKY201104020166.html

朝日新聞4/2 原発事故、独外相「最大の透明性図ることこそ重要」
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104020423.html