微粒子

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「ずっと遠くで星が爆発するだろう。そうすると、そこから小さな、ほとんど重さもない粒子が大量に宇宙に飛び出す。何千年も飛行して、いくつかが地球に落ちてくる。いくつかって言うのが、このグラスに毎秒一兆個くらい」

「星か」

「そう、なるべく遠くのことを考える。星が一番遠い」

「遠くのことね」とぼくはまた繰り返した。


スティル・ライフ』 池澤夏樹

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お風呂上がりにペプシツイストを買いに自宅を出て自動販売機に向かう途中、道路の真ん中で立ち止まったまま空を眺めてみると、円い月が浮かんでいた。幼い頃から月や星を見て過ごすのがとても好きで、東京に出てきてすぐの頃にアルバイトで貯めたお金で星座盤を買って星を観察しようと思い立ったのだけれど、東京では星は全然見えないことに気付いてやめた。代わりにインスタントカメラを買って自転車で都内を駆け回り、街のイルミネーションや東京タワーなんかを写真に撮ってみたのだけれど、帰り道にどこかに落としてしまった。あのカメラ、どこに落としちゃったんだろうな。

お昼ご飯のお弁当を買いに行くときに靴の先っぽを見ながら歩いていると、たくさんの虫が誰かに踏まれて潰されて死んでいるのに気付いた。どうやらみんな足元には関心がないらしい。どうしたって遠くの方を見てしまう。高いところに登れば見通しがよくなるはずと思っていたけれど、足元にだって色んなものが落ちている。みんな気付かないだけなのだろう。

コツコツと基本的なことから時間をかけて取り組み始めた。遠くのことを思い描きながら、近くのものに目を向ける。きっと難しいことなのだろうけれど、やれば出来るような気もする。難しそうにみえることは案外簡単で、簡単そうにみえることは結構難しい。初めの印象なんて、結構当てになんない。やってみなくちゃ、やっぱり分からないようだ。