小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

日曜日の夜

学生時代、日曜日の夜は辛かった。

世はバブルを謳歌していた昭和最末期。

昼間はパチンコに行ったり (行動経済学的には、貧乏人の合理的な行動である)、映画を見たり、友人のアパートをふらふらと訪問し、時間を潰す。 バイト代と仕送りを使い果たし、手持ちの金が1,200円くらい。 部屋に戻ると夜の9時、10時である。 部屋の隅に鎮座する洗濯物袋は、2週間分の汚れ物でパンパンに膨れており、今晩着るきれいなパンツとシャツが無い状況。

「ふぅー」という深いため息をつきながら、洗面器のお風呂用具一式とともに、その大きな洗濯物袋をかかえて銭湯に向かう。 僕の下宿は台所・トイレ共同の三畳間 (4年目から四畳半に出世した) だったから、当然内風呂などない。 銭湯に行ったついでに、併設されているコインランドリーで洗濯をする。

コインランドリー到着。 まずは洗濯物を洗濯機に放り込んで、洗濯している間に、ひとっ風呂・・・と思っていても、世の中はそれほど甘くない。 6台ほどの洗濯機は全部使用中である。

またもや 「ふぅー」 と深くため息をつく。 仕方ないから、汚れた洗濯物袋をかかえたままとりあえず銭湯へ。 まずは自分の身体の洗濯をしよう。 銭湯の心地よさは、貧乏学生の特権である。 テルマエ・ロマエの恍惚の世界をしばし味わう。

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

風呂あがりの、きれいになった身体を包むのは ・・・ 汗臭いパンツとシャツ。 だって、洗濯が終わるまでは替えがないんだもん。 サルとはいえ、その中では進化した類のサルであることを自認しているサル的なヒト。 ノーパンはプライドが許さん。 少し泣きたい気分。

コインランドリーを再度覗くと、なんとまだ洗濯機は全機使用中である。 それも全部残り時間表示は 「25分」 と、誰かが洗濯を始めたばかり。 理不尽な運命に、本当にじんわりと涙が出てくる。 日曜日夜11時というのは、そういう時間帯である。 知ってる人 (例: 貧乏下宿生の体験者) は知っているが、知らない人は決して知ることなく人生を終えるであろう、それが日曜日夜11時の真実だ。

なんと恐ろしいことに、銭湯のコインランドリーは11時半くらいでおばさんがシャッターを閉めてしまうのだ。 仕方ないから、涙をこらえて、歩いて15分ほどの24時間営業のコインランドリーを目指す。 風呂上がりなのに、夏だとすでにこの時点で小汗をかいている。 やっとコインランドリーに到着、洗濯開始。 昭和初期型の猛者の学生時代は、自分のはいている下着をその場で脱いで洗濯機に放り込んだらしいが、昭和末期の当時はホイチョイプロダクションがおしゃれな学生生活を演出し、丸井のローンでDCブランドの何十万円もする服を学生が買うという狂ったようなバブル最盛期。 昭和中期型ロボの私には、そこまでの勇気はない。 ちなみに昭和中期型ロボと自らを称する一人に、あの福山雅治がいますね。

洗濯を待つ間、コンビニで立ち読みする。 でも、日曜日の夜に新刊雑誌などあるわけもない。 立ち読みで表紙がテロテロになった売れ残りの週刊誌を、うすら寂しい気分で読む。

30分ほどで洗濯完了。 洗濯もの一式を乾燥機へ移す。 100円で10分間乾燥できる。 本当は20分かけないと乾かないけど、お金がもったいないから10分で切り上げるのだ。 当然生乾きだが、部屋で干せばいいや。

このあたりで日曜夜12時を回る。 日曜日のこんな時間帯にウロウロ街を徘徊している連中には、あまり建設的な匂いのする人はいない。 コインランドリーの椅子には、明らかに洗濯の意思がない酔っ払いが座って寝込んでいたり。 泥だらけのスニーカーをこっそり洗濯機に放り込む不埒な輩もいる。

鬱々とした頭の中に流れるのは、みゆきさんの 「タクシードライバー」 そして 「狼になりたい」 である。 金持ちのボンボン連中は、きっと今頃、こじゃれたワンルームマンションで彼女とイチャイチャしてたりするんだろうな。 くそったれ。

そんなこんなで、下宿の部屋に帰り着くのは、深夜0時過ぎ。 もう一度 「ふぅー」という深いため息をつき、まずは生乾きのパンツに履き替える。 生乾きの洗濯物を部屋の中に干して、コンビニで買った100円のパックのグレープフルーツジュースを万年床の上で飲む。 14型の映りの悪いテレビでプロ野球ニュースを見ていると、だんだん眠くなってくる。 テレビをつけっぱなしでいつのまにか寝てしまう。

昭和末期。 世間の恵まれた学生連中をただ恨みがましく睨みつけていた貧乏学生の日曜日の夜である。 オチも何もない。

*****

で、今。 平成24年。

日曜日の夜は、相も変わらず鬱々としている。 洗濯物はたまってないし、銭湯に行かなくてもよいし、夜の街を徘徊する必要もないのにね。 不思議なことである。  

昔と違うのは、鬱々とする理由がわかっていること。 戦うべき敵がはっきりと見えていること。 勝つか負けるかわからないが、やるしかないもんね。 神経性下痢のビチビチのお腹を抱えて、また月曜日に臨もうか。

♪ ファイト!

あたし中卒やからね仕事を もらわれへんのやと書いた
女の子の手紙の 文字はとがりながら震えている
ガキのくせにと頬を打たれ 少年たちの目が年をとる
悔しさを握りしめすぎた こぶしの中爪が突き刺さる

・・・・

ファイト! 闘う君の歌を 闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ