小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

むやみにあやまらない

気分の良い季節になりました。 「ノルウェーの森」 に登場する 「突撃隊」 を思い出して、毎年この時期はあの赤い表紙の上巻を読み返してしまうサル的なヒトである。 彼はいつワタナベの前から姿を消したんだっけ? なんてことが頭を離れなくなってしまう。 春ってそういう季節。

皆さんお元気? ドタバタしていてブログの更新が滞っている。 すまんね。 書きたいことはいろいろとあるのに、じっくりパソコンの前に座っている余裕がない状況であった。

世間的には連休である。 大学は基本的にカレンダー通りの営業が原則。 連休の合間のとびとびの通常日に講義をあえてやるかどうかは、しかし、諸般の状況 (代わりの講義日があるかどうか、など) を考えながら、最終的にはそれぞれのセンセイが決めることになる。 以前私が1限 (朝一番) の講義を担当していたとき、5月の大型連休の中日に普通に講義をしたのだが (そうするものだと勝手に思い込んでいたのだ)、講義終了後にツカツカと歩み寄ってきた学生から 「小野センセイはまじめですね。 今日はこの講義以外はすべて休講になってます。 この講義があるから僕は帰省できませんでした」 と嫌味を言われたことがあったっけ。 あの時の学生さん、ごめんね。

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製薬企業やCROへの完全無料出張講義(全10回)、今は日本橋の高級水菓子屋さんの上にあるC社で実施中である。 先週はミクロ経済学の供給側の話をしたのだが、あの部分は例によってとても1時間では話が終わらないところである。 あわただしい講義でごめんなさいね。 需要・供給の法則の実践的な応用、たとえば日本での治験数の推移がなぜ過去数十年間のような経緯をたどったのか、といった説明はまた別の機会に。 講義で分からなかったことをもっと勉強したい人は、ほれ、みんなの味方、あのタロー書房で教科書を買おう。クルーグマン、マンキュー、あるいは神取センセイがあなたを待っている。

時間が限られた講義で、私があえて余剰分析 (消費者余剰と生産者余剰ね) の概念の話をする理由は、あの部分が製薬企業人の社会人としての誇りにつながるコアだと思うから。 「薬九層倍」、「製薬企業は儲け過ぎ」 といった批判に対して、誠実かつ真正面から答えるには、ああいったモデル化された信念が必須なのよ。 自分の真心・良心に嘘をつかずに、社会の人々(患者さん、顧客) に正面から向き合うための基本技術ともいえる。

ちなみに医薬品業界には、「私たちは顧客(患者)を第一に考えています」 なんていうお題目でそういった業界批判に答えられると本気で信じている旧世代人もいるのだが、相当に情けない。 顧客のことを第一に考えない 「まともな」 ビジネスがこの世にあるわけがないことくらい、小学生でも知っている。 「患者第一の医療を目指す」 だの、「患者志向の医療」 だのといった信じられないほどナイーブな (幼稚な) 台詞が、(テレビコマーシャルなどではなく) 学会やシンポジウムで薬のプロたちの口から出てくるのを耳にすると、本当に怖くなってしまうのだ。 だ、大丈夫か、この人たち? 一般人がそうした学会・シンポジウムを覗いたら、 「今さら 『患者志向』 なんていいながらドヤ顔してるなんて ・・・ 前から薄々感じていたけど、医薬品業界人って、もしかして、本当に気が狂った人たちの集団なのか?」 と不安になると思うよ。

「患者第一」 なんていう当たり前すぎるお題目・台詞はテレビコマーシャルの役者さんに任せておけばよいのです。 医薬品業界人はプロなんだから、誇りと自信をもって、そこから先で議論してないとダメでしょうよ。 ね。(注 1)

(注 1) しかしこの業界、いまだに 「患者第一」 ですらない原始人が結構紛れ込んでいるように思う。 そういった連中をシステマティックに排除あるいは再教育する仕組みを真剣に考えることは、学会・当局・業界団体の大切な仕事である。

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身内の不幸があり、いろいろなことを考えた一週間であった。 ふと、私の研究室の学生のエピソードを思い出した。 数年前に50歳過ぎてから博士の学位をとったYさん。 学位の授与と前後して、Yさんのお父さんが亡くなった。 Yさんは、お父さんへの感謝として、自分が苦労して書いた論文2報を棺桶の中に入れて、旅立ちに持たせたそうである。 指導教員にとってもこれほどにうれしい論文の使い方はない。

今回旅立った故人のお見送りには、東大キャンバスの赤門そばにある古い樹木から葉っぱを一枚だけ頂き、棺桶に入れた。 東大さん、ごめんなさい。 70年ほど前のこの季節、きっと故人はそのあたりを医学生として若々しい姿で闊歩していたはずである。 新緑の若葉の香りに包まれて。

長い間、お疲れ様でした。 なーに、ほんの4,50年もすればみーんなそちらに行きますから、その時には一献傾けましょう。 ちょっとだけ待っていてください。

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さて、連休だ。 ブログなんか書いている場合ではない。 人生を楽しもう ・・・ と思っていたら、あ、いかん。 仕事を思い出してしまったではないか。 Hくん(卒業生)、Kさん(卒業生)、Kさん(社会人学生)、書いてくれた論文とレフリーへの対応、ちゃんと連休中に読んで添削します。 対応が遅れてごめんなさいね。