ゲームレビュー:グリモワール

グリモワール」とは、フランス語で魔道書のことだそうだ。非常にセンスの良いネーミングだ。
この「魔道書」というタイトルにふさわしく、ゲームにおいても呪文が列記された魔道書が重要な役割を担っている。
先走ってしまったが、ゲームシステムの概要を説明して行こう。
プレイはターン方式で進行して行く。
各ターンの最初に、プレイエリアに場札がセットアップされる。
エストカードと呼ばれるカードが、場札に展開されていく。このクエストカードは、プレイヤーたちがこのターンに取得することができるカードである。内容的には、勝利得点となる金貨、銀貨、銅貨のカードに加え、プレイヤーの仲間となって特殊能力を揮うキャラクターカードが存在している。
場札が出揃うと、プレイヤーはそれらを吟味した上で、各自の持っている呪文書の中のいずれの呪文を唱えるかを秘密裡に決める。この時に呪文書を用いる訳だ。
呪文書には、各種の呪文が番号順に記載されている。プレイヤーは唱えたい呪文のページに栞を挟んで閉じることによってプロットを終了する。
呪文が番号順に書かれていると述べたが、この番号順は非常に重要である。基本的には、番号順の若い呪文のものほど優先順位が高く、そのプレイヤーのプレイヤーターンは先に解決されるのである。
各プレイヤーターンには、プロットした呪文の効果が解決され、次にそのプレイヤーは場札から1枚カードを取得することができる。
もし場札にどうしても欲しいカードがあれば、できるだけ若い番号の呪文を唱えて早い順番を手に入れるべきである。
しかし、それだけでは何の妙味もない。呪文は概ね番号が大きくなるほど強力になっていくのである。したがって、たとえ順番が後になろうとも効果が強力であれば番号の大きな呪文を唱える価値がある。
具体的な呪文の例を、ゲームの全体像を見てから説明して行こう。
こうして全員が呪文を解決しカードを1枚ずつ取得すると、ターンマーカーを一つ進める。
このターンマーカーだが、最初が6になっていて、最後が15になっている。
実は呪文書には15番までの呪文が記載されているのだが、現在のゲームターンまでの呪文しか唱えられない。つまり、最初は6番までの魔法しか唱えられず、次のターンには7番までの魔法しか唱えられないのだ。
したがって、序盤はおとなしめの呪文が飛び交い、徐々に凶悪な呪文が登場してくる。
ゲームは、いずれかのプレイヤーが前述したクエストカードの財宝を10枚集めるか、あるいはキャラクターを10枚集めると終了する。
この他にクエストカードの山札はリシャッフルするのだが、事情により枯渇するので、その場合も終了する。
終了した時点で勝利得点を計算し、もっとも多くの勝利得点を獲得したプレイヤーが勝利する。

さて、ゲームの流れを説明し終えたので、このゲームの妙味を解き明かすため、別の切口で説明していこう。
まず勝利得点の獲得方法である。
一番、ストレートで理解しやすい方法は、前述したクエストカードの取得で、金貨、銀貨、銅貨を取って得点していく方法である。この方法で取得した得点は減ることが、ほとんどない。一方、場札から取っていくので他プレイヤーもカウンティングしていれば貴方が何点を取得したのかは把握されてしまう。
同様にキャラクターカードにも基本点が付与されている。しかし、金貨が3点あるのに対して、キャラクターカードは基本点が1点しかないものが多く、価値が低く見える。だが、その代わりに特殊能力が付与されている。
いろいろなものがあるが、各ターンの順番決定で1番になると1VPを獲得できる盗賊、逆に最後番になると獲得できる弓使いがいる。また、呪文オープン時に、他に同じ呪文を唱えているプレイヤーがいると人数分のVPを獲得できる傭兵もいる。
王族が3種類あり、王は自分が5VPを獲得していると王のカードの価値が5VPになる。女王は金貨、銀貨、銅貨の3種セットごとに3VPのボーナスを得られる。金貨が3VPに対して、銀貨と銅貨はそれぞれ2、1VPなのだが、このボーナスがあると3種合計で9VPとなる訳だ。実は銀貨や銅貨は場札では圧倒的に残りやすく、順番が後でも手に入ることが多い。これを有効に活用できる女王は、なかなかの優れものである。王子は、仲間、つまりキャラクターカードが5枚になると3VPである。キャラクターカードはそれぞれに特殊能力が有用なので、それを集めて追加VPがもらえると言うのは二重に美味しい。
曲者なのが荒くれ者で、これは基本点が6点もある凶悪カードである。しかし、この基本点から貴方がVPチップで別途もらったVPをマイナスするのである。このため、他のキャラクターによるVPを取得すると、荒くれ者の価値はどんどん下がることになる。他のキャラクターと共存しない、扱いにくい存在なのである。
それ以外には、呪文自体で直接VPを獲得できる呪文がある。
また、呪文の中に宝物を獲得する呪文があり、この宝物カードにもVPが付与されている。ただし、宝物カードは当たり外れが大きいのが難点である。

以上のような様々な知識を踏まえた上で、呪文書を紐解いてみよう。
大きく分けて呪文には、通常術、禁術、幻惑術、防御術、時間術の5つがある。
通常術は、その名前の通りなので飛ばすとしよう。禁術は、呪文で直接VPを得てしまうものである。禁術と呼ばれるのは、これは本来、人として取るべきでない道筋だということだろうか。実は非常に若い番号の2番に禁術封じの静寂の呪文と言うのがある。これを誰かが唱えてしまうと、禁術は全てそれより後の呪文なので、無効になってしまう。番号2番は、早くカードを取れるため有力なので、これを誰かが唱えている可能性は結構ある。したがって、禁術でVPが取れるかどうかは、かなり水物なのである。
幻惑術は、本ゲーム中で攻撃的な呪文群である。この呪文は、いちばん多くのキャラクターを持っているプレイヤー、いちばん多くのVPを持っているプレイヤーから一部を奪い取る呪文である。こうした攻撃的な呪文が存在することで、ゲームは独走になりにくくなっている。
防御術は、攻撃的な幻惑術に対抗する防御の呪文である。しかし、これには防御効果以上のものがなく、番号も中途半端に大きいので非常に選びにくい。
最後は時間術である。これはゲームの基本的な仕組を変更して、呪文番号の大きい順にプレイ順を決めるようにしてしまう。
この呪文は、それ自体が大きな順番を持っているので、大抵は順番を逆転させて自分が早い順番を取れることになる。
ところが、この時間術には他人に迷惑な副作用がある。
たとえば禁術封じは2番なので、大抵の場合は他のプレイヤーが禁術を唱える前に封じてしまう。ところが、時間術が存在すると、順番が遅い禁術が禁術封じより先に解決されてしまい、結果として禁術封じはまったく効果がなくなってしまう。もちろん順番も反転して遅くなってしまい、踏んだり蹴ったりである。
同様に防御術は、幻惑術より若い順番なので防御効果を発揮できるのだが、時間術が存在すると逆転して効果を失ってしまう。相手の作戦を読みきって防御術を張ったにも関わらず、時間術の余計な副作用で幻惑術を喰ってしまうことがあるのだ。
唱えられる呪文の範囲が徐々に拡張していくこともあり、ここらへんの呪文の綾、結果として作戦の綾もゲーム中に徐々に様相を変えていく。この辺りも本ゲームの独特の魅力の一つになっている。
先程、事情によりデックが枯渇すると書いたが、呪文の一つに捨札の山からカードを3枚取得する呪文というのもある。捨札の山は誰も選ばなかったクエストカードだから、基本的には価値が低いのだが、キャラクターによっては他の人に価値が低いカードも有用だったりするので、状況によっては有力である。また、これによりデックが急速に枯渇して、ゲームが収束するようになっている。