グラビアという百魔1 相澤仁美、どこでもグラビアアイドル

breaststroking2007-05-10


「なんかデカくなってねえか?」

今年2月、近所のコンビニの奥であるエロ本の表紙を見た自分は目を疑った。『月刊ザ・ベストスペシャル』(KKベストセラーズ)3月号の表紙は、オイルまみれで巨乳を寄せ合いながらこちらを見つめる相澤仁美愛川ゆず季カップリンググラビアだった。つい最近まで、オイルで身体をテカらせた水着グラビアは、殺しの一手というか、キメ技的な演出の一つだったはずだが、このごろは衒いも遠慮もなく表紙写真であぶらテカテカ塗ってることも珍しくなくなった。東京の主要駅前で朝、無料配布される『コミック・ガンボ』の創刊号で、特殊なグラビアアイドルである滝沢乃南の特殊な巻頭グラビアが掲載されていたときも、秘めやかでオルタナティヴなグラビアの世界が、無差別に路上頒布されている事態にめまいがしたが、それと同様の現象である。

自分の目をひいたのは「オイルまみれ」+「カップリング抱擁」という二要素をふまえたグラビアが表紙になっていることではなくて、冒頭に書いたように、「あれ、相澤仁美ってこんなデカかったっけ」というおどろきであった。デ○の手前ギリギリで踏みとどまっているようにさえ(その写真では)見えた。試みに『ザ・ベスト』表紙(右)と『DVDマックス』(セブン新社)VOL.7の表紙(左)と見比べてみよう。『マックス』は2005年12月の発売(「買ったのか?、『月刊ザ・ベストスペシャル』」と野暮なことを聞かぬよう。なぜなら買ったから)。

気持ち悪がられるから詳しくは述べないが(もう手遅れだが)、乳と腰回りがボリュームアップしているように見える。また、『マックス』の写真はくびれが目立ち、あばら骨がうっすら浮いていたが、現在の写真ではくびれを強調したものを見ない。

いま出ている『SPA!』5月15日号の「グラビアン魂」でも相澤仁美が取り上げられている。<オレこの一年、いろいろ悩んで、この人が一番好きだってことがわかったんだ。……もうオレのエロスクラップ、ここんとこずっと「相澤政権」ですよ。>と熱弁をふるうみうらじゅんの推薦で二度目の登場になったそうだが、ここでポジティブに指摘されているのは、やはり相澤の肥大化である。

リリー(以下、L) 最近このコ、すっごい露出してますよね。
M それでえらいことになってますよ。体全体、特にオシリが凄いことになってて。……
L ……確実に排気量が上がりましたね。
M 一昨年、グラビアン魂に出てもらったときより、今のほうが断然いいよ。どんどんよくなるって、なかなかないことですから。いい意味で太ったよね。男好きする太り方っていうの?

友人のTヤマさんは以前、自分へのメールで相澤の魅力についてこう書いた。

相澤はいくら雑誌露出が増えても、「もう相澤はいいから他のアイドル見せてよ」って気にさせないから凄いよな。毎回新たな発見があるっていうか。


2007年1月の私信

指摘の通り、相澤仁美のグラビアは、毎週どこかしらで目にするものの、なぜかいっこうに飽きることがない。佐藤寛子は相澤と並んで、2007年のグラビア界を牽引しているヴェテランでありエースであるが、彼女のグラビアは、マンネリ感もふくめて毎回きっちりと良い仕事をしているという安心と充実感を与える、中間小説的なグラビアだと感じる。いっぽう相澤は逆で、毎回画期的な手法や多彩なシチュエーション、ポーズで<新たな発見>をもたらす、エッヂの立った現代文学的なグラドルだと感じる。

楽天ブックス安藤哲也は、どの店舗に行っても品揃えに代わり映えがしないチェーン書店を、<金太郎飴書店>と呼んだが、これに倣えば、どの雑誌でもバリエーションに乏しい表情やポーズで露出し、事務所のパワーやよく判らない人気に支えられてグラビアを粗製濫造しているグラビアアイドルは<金太郎グラドル>である。異見はあろうが、ほしのあき小倉優子熊田曜子南明奈、そして点を辛めにつけるなら山崎真実などがこれに入るだろう。相澤は金太郎さんみたいな格好でグラビアを飾ることはあっても、決して<金太郎グラビア>を濫造しない。

体重の増減について言えば、それはポーズやシチュエーション、衣装などの外的な演出を越えた、究極の自己演出である。
映画俳優で、「役作りのために体重を増やした/落とした」という人がいる。そして大抵彼らはそのストイックさから名優と呼ばれる(最近なら『カポーティ』のP・シーモア・ホフマン、そして『大帝の剣』の阿部ちゃん)。相澤は自分の持ち味を知り抜いて、自らの体重を効果的に増やすことに成功した。たとえ話ばかりだが、その姿は、シーズンに向けてキャンプ中に下半身を集中強化するプロスポーツ選手にも似ている。清原は肉体強化それ自体に没入してバランスを崩したが、相澤はコーチなしで、理想的に自身のフィジカル面を強化することに成功したのだ。

そんなグラビアンアスリート=相澤の成功の理由とは、そしてその才能とは何か。


相澤仁美は1982年8月、東京に生まれ、四人兄妹の末っ子として育った。特にいちばん上の兄や母とは仲が良く、家族の愛に包まれて育った。家族愛はすぐれたグラビアアイドルの必須条件といってよく、眞鍋かをり広末涼子なども家族との仲の良さをたびたび語っている。すぐれたグラドルの条件としてもう一つ、「中学高校時代に水泳部に入っていたこと」があるのは、よく知られている(眞鍋、小林恵美相武紗季佐藤和沙など。眞鍋は『ウォーターボーイズ』での水泳部顧問役も印象的である→12日追記。おれは嘘書いてた。眞鍋は放送部でした。http://www.jp.playstation.com/scej/title/shibaimichi/taiken3.html グラビアの見すぎで虚実ないまぜになってしまったおれ)。相澤の場合は水泳ではないが、小学校でバレーボール、中学でバドミントンをやっていた。初めてのアルバイトは高校時代、スーパーのレジ打ち。最初の給料は5万円くらいだった。高校を出てからはいくつかの職業を経験するが、2004年8月、若槻千夏の所属する事務所にスカウトされる。奇しくもその日は相澤の誕生日だった(以上『フラッシュ・エキサイティング』2006年4月号を参照)。

冗長すぎて飽きて来ちゃった。急ぎ足でいこう。

一部の職人的グラドルをのぞいて(事務所にノウハウがないのか商売ッ気がないのか。佐藤和沙松金洋子平田裕香ほか、立派な仕事をしている/していた人々)、グラビアアイドルは常にグラビアの外を目指す。テレビに行く人もあれば、最近ではアダルトビデオに行く人も出てきた。テレビのなかのグラドルが、とてもちんけに見えて、悲しくなってしまうことはとても多い。グラビアに大量露出する熊田も夏川純もテレビではバラエティの添え物だし、グラビアでうるさがたも認めるキャリアを築いた安田美沙子森下千里も、テレビに来たら輝きをうしなって、やっぱり同じようなものになってしまう。期待していた日本人投手がメジャーに行ってパカスカ打たれているような、わびしい感じである。

ただし例外もいる。才女としてバラエティの司会、スポーツ番組のキャスター、ワイドショーのコメンテーターに進出したグラドルも、少ないけれどいる。眞鍋、白石美帆、優香らが代表格。女優で言えば、NHKの『まんてん』だけだったけど宮地真緒(ドラマ出演後、『月刊宮地真緒』での人造おっぱいをつけたフィギュアみたいなグラビアは強烈だった。朝の連続ドラマで上がった人がまた降りてきて、しかもプラスチックおっぱいだからな。なんだこの上下運動は)、酒井若菜、相武、綾瀬はるか、そしてグラビアをやっていたころは、だれがこの展開を予想したかという沢尻エリカら。バラエティで成功した人でいえば、若槻千夏中川翔子雛形あきこ(グラドルのバラエティ進出の嚆矢?)、小池栄子、一時の井上和香などがいる。

サンプルが少ないのではっきり言えないが、水着グラドル出身のタレントがテレビで成功するには三つの条件があると思う。ひとつは事務所がしっかりしているか。つぎに頭の回転がよいか。最後に、水着グラビア出身という出自を視聴者に忘れさせることができるか。水着グラドルというのは一般には卑賤階級なのか。

グラビアを出ていくアイドルはこのように大雑把に分類できる。では相澤仁美は果たしてどうかというと、全く新しい第三の道を行っているという気がする。

4月から放送されている、サントリーの新しい清涼飲料水「ビンゴボンゴ」のテレビCMは、強烈な印象をあたえる。草むらに相澤仁美の写真集が落ちていて、高校生がそれを思わず拾う。すると写真集とおなじ、まぶしいくらいに黄色いビキニを着た本物の相澤が目の前にぼんと現れて、高校生にしなを作る。途端にびゅっと飛び出す鼻血、間髪入れずなぜか大勢の人に胴上げされる高校生。商品コピー<ラテンがビンビン>をうまく表現したCMだ(ラテンかどうかは判らないがまあとにかくビンビンだ)。

http://www.suntory.co.jp/softdrink/bingobongo/cm/index.html

ユニークなのは、CMのなかで、相澤仁美は「グラビアアイドルの相澤仁美」役で出ているということだ。しかも野外なのにビキニ姿。つまりいつもグラビアでやっていることとなんも変わらない。畳みかける展開とあわさって、アイドルグラビアが突然テレビに乱入してしまった、その奇襲感覚がこのCMの面白さだ。

面白いことに、このCMにかぎらず、相澤がテレビに映るとき彼女はいつも「グラビアアイドルの相澤仁美」として出演している。たとえば昨年3月6日放送の「くりぃむナントカ」の、<告知済み寝起きドッキリでアイドルの演技力を審査!>という特集(?)があった。相澤のほかには中川翔子ほしのあき堀越のり岡本夏生が出演した。相澤は二番手として登場。部屋に潜入したくりぃむしちゅーが布団をひっぺがすと、寝起きドッキリなのになぜかビキニを着ていてポージングまでしている相澤。しかも狸寝入りをしたままポーズを変えたり、上田にカメラを渡して撮影を強要したり、巨乳グラビアアイドルという自分の肩書き、そして周りの期待どおりの動きを見せた(ちなみにほしのは水着でなく体操着だった。そういえば、テレビではほしのは水着を着ない)。

また、今週9日の「ゴッドタン 神の舌」(http://www.tv-tokyo.co.jp/god/)では、相澤が熱心なファンの部屋をおとずれ、そこでいろいろ扇情的な言動をするのだが、ファンはぜったい目をあけて見たらダメで、開けた途端にパイを投げつけられるという趣向の特集だった(ちなみに相澤の前には佐藤寛子が出た。最高だぜゴッドタン)。やらせだろと思ったが、塾経営をしてるというおっさんの萌え方がガチすぎて笑った。曰く、相澤の魅力はおっぱいそのものであることもさりながら、おっぱいとおっぱいの間、つまり昨今「乳間」と言われている部位の美しさにもあるという。まったくその通り! このコーナーは来週も放送されるのだが、その予告シーンで相澤は、着ていた服を脱ぎ、ビキニになって蠱惑的なポーズで目を閉じて悶えるファンを刺激・肉迫していた!

見てきたように、一般のグラビアアイドルはテレビにおいて、ボケやつっこみや笑えるトークを披露したり(バラエティ系)、気の利いた意見やテンポのいい進行、頭のキレるところなどを見せたり(MC系)して注目を浴びようとする。これらの行為は彼女たちがグラビアのなかで発揮してきた才能とほとんど関係がない。極端に言えば素人がなにかやっているのと変わりがない。

一方で相澤は、グラビアのなかでもテレビのなかでも、やっていることにあまりちがいがない。どこにいようと、グラビアアイドル相澤仁美をただ懸命に演じ続けること。彼女はそれに徹する。だからグラビアで発揮している能力がそのままテレビでも活かされて、テレビでの相澤は決して埋没しない。先に示した例は、単に相澤がディレクターの指示通りに振る舞っただけだと言う向きもあるかもしれない。だがそうであっても、自分が要求されているものがなんであるか、おそらく相澤はきちんとそれを理解している。何がおいしいとされるか判っているから、水の中の魚のように自由闊達にグラビアアイドルを演じることができる。

また、人によってはテレビのなかの彼女の姿を、どこに行ってもビキニが取り憑いて廻る気の毒なグラビアアイドルとして憐れむかもしれない。しかしグラビアとは技能職なのだ。磨いた技を一定の人気とともにグラビアの世界に放置して、裸一貫でテレビで闘うほかのグラドルたちの無防備さこそ、憐れむべきものではないか。

相澤はどこに行っても、グラビアアイドルであることから逃げない。唄を歌っても、バラエティやCMに出ても、グラビアアイドルとしての自分を最大の武器にしているから活動がブレない。その潔く美しい姿勢で相澤仁美は、日本グラビア史のなかで10年後も回顧される存在になることだろう。