RxRxHxの噂

はじめ白人看護婦を指して右の人さし指を一本たて、こんどは梨花を指して左の人さし指を一本立てた。そしてそれを向かいあわせにもってきて、ぴょこぴょこさげ、両方の指がしきりにお辞儀をしているような型をやって見せた。
 梨花は、顔をあげて、杉田二等水兵の指芝居をながめている。白人看護婦の方は、腕ぐみをしたまま、ちらと見て、
(わかっているよ、わかっているよ)
 と、頤をしゃくってみせた。
 杉田二等水兵は、尚仲直りをさせようとして、自分の両手をがっちり握りあわせて、しきりに上下にふってみせた。
「梨花、さっきお前がたのみにいった硝子屋は、まだ来ないじゃないか」
 そういった白人看護婦の話から察すると、梨花はもうかなり前にこの窓硝子を破ったものらしかった。硝子屋に至急壊れた窓硝子を入れかえるように命じてあるものらしい。
「じゃ。もう一度、さいそくしてまいりましょうか」
「そうおし。早くなおしておいてくれなければ、あたしがドクトルに叱られちまうじゃないの」
 梨花が、かしこまって、扉から出ようとした時、この扉の外からノックの音があった。
 白人看護婦は、はっと胸をおさえて扉の方を向いた。
 と扉があいて入ってきたのは、大きな硝子板を抱えた中国人の硝子屋だった。
「まあびっくりした。硝子屋かい。ずいぶん前にたのんだのに、来るのが遅いねえ」
「へえへえどうも相すみません。すぐに入れかえますよ、美しいお嬢さま」
 美しいお嬢さまと呼ばれて、看護婦はまあ――とうれしそうに眼を天井につりあげる。
 とたんに、がしゃんと大きな音。

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