マンスリー・ブリコメンド(2011年10月前半)

10月前半のブリコメンドです(コンセプトはこちら)。さて今回の目玉はなんといってもKYOTO EXPERIMENTフリンジ企画「GROUNDP★」。そこで我らがブリコメンドも「そうだ、京都行こう、秋の特別篇」としてお届けします。カトリヒデトシさんが今年も滞在観劇(!)されるので、プレビューをお願いしました。この豪華なラインナップ。いくつか再演も含まれていますが、おそらく初演とは全然異なる味覚の作品になるはず。地面も砂だし……。Q(*日夏ユタカさんは今回、秋の本業がお忙しいため、お休みとなります。ご了承ください。また、10/6に鈴木励滋さんによる『R&J』プレビューを追加しました。)


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■子供鉅人『⌒☆☆子供鉅人のプレイ小屋!〜はらじゅくじゅくじゅく篇⌒⌒☆』
■小嶋一郎+黒田真史+弓井茉那『250km圏内』
■マームとジプシー『Kと真夜中のほとりで』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。twitter:@hinatsugurashi


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
■四つ子『四つ子の宇宙』
■山田せつ子『オドル/反復 流転 169分』
■ 第11回全国障害者芸術・文化祭埼玉大会『R&J』


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】
■KYOTO EXPERIMENTフリンジ企画「GROUNDP★」各作品


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
■オフィスコットーネプロデュース『赤色エレジー
■ 第11回全国障害者芸術・文化祭埼玉大会『R&J』
■マームとジプシー『Kと真夜中のほとりで』










四つ子『四つ子の宇宙』

10月1日(土)〜16日(日)@アトリエヘリコプターhttp://4go.main.jp/

「演劇界最強の四つ子が宇宙の謎にせまる問題作!」というコピーがチラシにある。五反田団の前田司郎の思いつきから生まれた企画らしいが、岩井秀人(ハイバイ)と松井周(サンプル)と江本純子毛皮族)との四人で書いて四人で演出して四人で演ずる、四本の寄せ集めではなく、ひとつの作品。
じつは前田には勝手に大きな恩義を感じていて、それは2005年の「ニセS高原から」という平田オリザの『S高原から』を四人の演出家でぐちゃぐちゃするという企画公演を彼が数年かかって実現させたことに対してであるのだが、それ以来ほぼすべての公演を観つづけることになる三条会関美能留が『S高原から』以外で唯一演出している現代劇でもある前田の代表作のひとつ『いやむしろ忘れて草』も四人姉妹の話だったし、今回も江本に岩井と松井を誘って「四人芝居やったら楽しそうじゃない?」と声をかけたと言う前田司郎にとって、「四」という数字は重要なんじゃないかという謎が、個人的には「宇宙の謎」より興味がある。というのはウソなんだけれど、「演劇史の教科書があれば太字で記されるような公演になる」と思うのは自由と前田が豪語した「ニセS」に次ぐ、彼の偉大な企画になるであろうとほんとうに期待している。(励滋)


子供鉅人『⌒☆☆子供鉅人のプレイ小屋!〜はらじゅくじゅくじゅく篇⌒⌒☆』

10月8日(土)@原宿VACANThttp://www.kodomokyojin.com/

8月に、ブリコメンジャー鈴木励滋にくっついて子供鉅人『バーニング・スキン』を観に大阪まで行った。東京での同公演を見逃していたので。で、ほんとに行ってよかった!!!、と思いました。枠にとらわれないイメージの連鎖。客席をシームレスに巻き込んでしまうジョイフルな感覚。また新たに、才能を持った人たちに出会えたなあ、と感動したのでした。
さて今回の『プレイ小屋』は、どちらかとゆうとパーティイベント的になりそう。快快ではお馴染み、VEGEしょくどうの美味しいフード。そしてその(海外帰りの)快快はなんとオノマトペプロレス(?!)で出演。蓮沼執太も成河(!)も出るし、長尾謙一郎はVJやるし、とにかく楽しそうだね!(フジコ)



フィスコットーネプロデュース『赤色エレジー

10月8日(土)〜12日(水)@下北沢ザ・スズナリhttp://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/

あがた森魚は70年代にフォークソング一世風靡した人で、最大のヒット曲である『赤色エレジー』の「愛は〜愛とて〜何になる〜」という暗い一節は、私の記憶にもある。のだけれど、90年代に出したアルバム『バンドネオンの豹(ジャガー)』は、一音一音が弾むのに哀切なタンゴのメロディにストーリー性ある歌詞を乗せ、しかもそれを軽やかに歌ってみせて、そこには時代遅れの匂いなど微塵もなかった。その次に遭遇したのは、なんと蜷川幸雄演出の舞台『エレンディラ』(07年)で、なぜか彼は郵便屋役として舞台上を自転車で走り回っていた。で、その姿もまた、年齢に似合わない軽やかなものだった。
林静一原作の同名コミックを、少年王者館の天野天街が脚本・構成・演出という点だけでは観たい度40%の私だが、あがた森魚緒川たまきの名前をキャストに見つけ、観てみたい度が一気に上昇した。(徳永)


山田せつ子『オドル/反復 流転 169分』

10月9日(日)日暮里サニーホールhttp://cbc-method.co.jp/dance/

10月3日から9日までの一週間、荒川区ムーブ町屋と日暮里サニーホールという場所を「ダンスの作業場」として提供された山田せつ子が、“場所”“からだ”“時間”“音楽”そこから“ダンス”を問い直すために、「劇場の発見」と題して連日トークセッションやワークショップを繰りひろげる。趣旨に賛同したダンサーや音楽家や哲学者たちが、それぞれ興味深い発信をする一週間。だからこそ最終日のこの公演には「ディスカッションダンス」なる副題が添えられているのではなかろうか。
宇野邦一がテキストを書き、尺八や常磐津やパーカッションや歌の達者たちを港大尋が束ねる。トヨタコレオグラファーアワードを受けている鈴木ユキオと白井剛をはじめとする踊り巧者たち、そこに子どもからじいさまばあさまや障害がある人たちを見事に躍らせると定評のある新井英夫が交わる。他者の振付や音楽で踊ること、駆け引き/遣り取りとしてのセッション、影響し影響されること。喧々囂々となるか、ダンスの何かが見えてくるのか。(励滋)



第11回全国障害者芸術・文化祭埼玉大会『R&J』

10月9日(日)〜10日(月)@彩の国さいたま劇場 小ホールhttp://www.saitama-artfes.com/rj.html

Choice!( http://www.next-choice.com/data/?cat=10)でもお薦めしたのだが、そちらに書ききれなかったことを、こちらで補足。演出のジェニー・シーレイという女性は、自身もろうあなのだが、興味深いのは彼女が芸術監督を務めるグレイアイ・シアター・カンパニーという劇団だ。イギリスで80年に設立されたこの劇団は、9つの使命を掲げていて、そこには「プロフェッショナルのろう者や障害のある演出家、俳優、劇作家、作曲家、舞台美術や衣装デザイナー、照明デザイナー、舞台監督などの持つスキルや才能を証明すること」と、「国内外の主要な劇場に認められる革新的な演劇を創ること」が並んでいる。当然と言えば当然のことだけど、ちょっとハッとさせられた。手話と音声描写を効果的に使い、年齢や国を問わず楽しめるというシーレイの演出を通して、その具体例を知りたい。
『R&J』はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』が原作。出演者はオーディションで選ばれた日本人キャストだ。(徳永)

ジェニー・シーレイは、2007年にシアタートラムで、ロルカの『血の婚礼』を翻案/構成した作品を上演した。手話と口話、しかも英語とイギリス手話を交えた舞台は、おそらくすべてを理解することができた人はいなかったであろうが、それは作り手として不親切であろうか? 観客として不満を感じるべきことなのか?
わたしはその演出/設計によって、かなり多くの人に対して開かれた作品となったのではないかと思っている。舞台の情景(俳優の位置や動きや風貌)を言葉で伝えるAD(Audio Description)は、もちろん見えない人たちを助けたはずだが、単にト書きを読むというのではなく、ひとつの型として成立していた。それは、ADとは別のものとして、会話とは異なるトーンで客席に向かってなされるOF(Out Front)と名付けられた発話法がADとそれ以外の部分のつなぎとして機能していたからだと思う。
ともかく、彼女の手がける作品では、さまざまな違いがある作り手たちが、たがいの垣根を超えるべく遣り取りを重ねながら、さまざまな違いのある観客たちに届くようなものを上述のように築き上げていく。そのすべてを理解できないことによって、自分の見て/聞いている世界がとても限定された一面にすぎないという当たり前のことに気づかされるかもしれない。そこでは障害が負の意味だけではない可能性すら覚えるかもしれない。隣の人が感じている美しさに想いを馳せてちょっと悔しくなりつつも、ひとりひとり違うことの尊さを、あらためて思い知る機会になるかもしれない。(励滋)

小嶋一郎+黒田真史+弓井茉那『250km圏内』

10月14日(金)〜16日(日)@RAFThttp://skyfish07.blog33.fc2.com/blog-entry-62.html

昨年のF/T公募プログラムで『日本国憲法』『自殺対策基本法』を発表した小嶋一郎のひさしぶりの新作。タイトルは、明らかに原発からの距離と、そこに含まれている東京の住人たちを想起させるけれども、この作品での「圏内」とは、「今まで経験したことのない出来事に遭遇した時に(…)そうした出来事に対処できるまでの時間」であるという。その捉え方が面白いと感じた。引き延ばされたような身動きできない時間の中にいるわたし(たち)にとって、身に迫る問題作になるかも。(フジコ)



マームとジプシー『Kと真夜中のほとりで』

10月14日(金)〜24日(月)@こまばアゴラ劇場http://mum-gypsy.com/

マームとジプシーは今年、驚異的な速度で作品を発表しつづけてきた。おそらくはその速度だからこそ見えてくるもの、更新されるものがあったのだ。そしてその情熱はすべて作品に注ぎ込まれてきた。そんな彼らがたどり着く「真夜中のほとり」とは、いったいどんな場所だろう。
今回も瞬く間に前売り完売になったけども、当日券のチャンスも僅かばかりあるでしょう。もちろんのこと、彼らの活躍は今後も様々な形で観られるだろう。でも、今の、この生成期でないと見られないものもきっとあるはず。類いまれなる才能の挑戦を同時代に目撃できるのは、かなり(かなり!)稀少な体験だと思うのです。(フジコ)


経済的状況とか仕事の都合とか様々な事情があって「やりたくてもできない」という人をたくさん知っているし、責めるつもりはまったくないのだが、表現と渇望はどうしたってくっついているだろう、とは思う。何かのふるいに掛けられた時に最後まで残るのは、物凄く運の強い人間か、物凄く渇望している人間ではないか、とも。
坂あがりスカラシップに選ばれ、恵まれた形で稽古ができるマームとジプシーだから、再演も含めたら今年6作目というハイペースで公演が打てる、というのはやはり外的環境で、動き続けるエネルギーは内側から湧くものだ。とはいえ創作の甘いカタルシスなどとうに枯れ、あふれ出る渇きはすでに苦行の域だろう。でも人間には、肉体の痛みや酷使を通してしか確認、昇華、納得できない感覚がある。そしてその追い込み方ができる時期は、ほとんどの場合、限られている。その時間を観に、私は出かける。(徳永)



KYOTO EXPERIMENTフリンジ企画「GROUNDP★」案内 byカトリヒデトシ

http://fringe.kyoto-ex.jp/

今年も京都にKYOTO EXPERIMENTを見に行く。今年は本体よりも、杉原邦生コンセプトによるフリンジ企画、「GROUNDP★」がたのしみ。2週間という日程の中になんと9団体、新進気鋭団体と銘打たれているが、既にご存じという人気団体が多く参加している。同一日に複数見ることも出来る日程なので、私などにはお得感満載である。会場は昨年と同じアトリエ劇研(★1)木屋町筋のすぐ脇に立つ、元・立誠小学校(★2)である。グランドは小学校の校庭と「場」と重なり、「P」はPLAYで演劇と遊びのそれぞれダブルミーニングしているらしい。去年劇研をピンクに塗りつぶした杉原は今年は砂を引き詰めるそうである(笑)。

10月4日(火)- 5日(水)は岡崎芸術座『街などない』が★2で。上田遥(ハイバイ)、坂倉奈津子、斎藤淳子(中野成樹+フランケンズ)、石澤彩美と今年春の横浜公演とは全く異なる新キャストによる上演である。

10月5日(水)- 6日(木)がロロで先日SNACでやった『夏も』を★1で。ここもすぐ東京で「常夏」がある。岡崎ロロはこの後東京にもどってそれぞれ別作品でF/Tに。

KENTARO!!『雨が降ると晴れる/小学校バージョン』を10月7日(金)- 9日(日)★1で。

青森の劇団野の上が京都初お目見えするのもたのしい。魅惑の津軽弁芝居。『臭う女〜におうひと〜』を10月8日(土)- 9日(日)★1で。

とりわけおすすめなのはキラリふじみレジデントのモモンガ・コンプレックス。いつもながら力がぬけつつも素敵なタイトル『とりあえず、あなたまかせ。』をなんと和室で上演。10月8日(土)-10日(月・祝)★2で。

10月11日(火)- 12日(水)地元の人気劇団悪い芝居『猿に恋』で参加、ファンキーでエネルギッシュな溌剌さを。★1です。

10月11日(火)- 13日(木)は20年安泰。直後の「宇宙冒険記3D」でも気を吐いた範宙遊泳『ガニメデからの刺客』★2で。ガチャガチャだけではなく、作品性も現れてきたので楽しみ。

桜美林大学生出身のBaobabは昨年に続きフリンジ参加。『Relax★』で新しい集団ダンスを見せてくれるだろう。10月14日(金)- 16日(日)★1。

最後はカルトなオタク団体からその集団の力、組織力という今までの団体とは違うコンセプトで文字どおり殴りこむ、バナナ学園純情乙女組『バナ学バトル★☆熱血スポ魂 秋の大運動会!!!!!』を10月15日(土)- 16日(日)★2で。

杉原邦生は「演劇は遊び場だ」というハッピーを今年も見せてくれるだろう。(カトリ)