穏便ではなく:毎日新聞

『特急内で強姦 乗客沈黙』


 4月22日、日曜日の朝に毎日新聞を広げた人は、その穏やかな気分に冷や水を浴びせられたかもしれない。


 『大阪府警淀川署は21日、JR北陸線の富山発大阪行きの特急「サンダーバード」の車内で昨年8月、大阪市内の会社員の女性(当時21歳)に暴行したとして、滋賀県湖南市(中略)植園貴光被告(36)を強姦容疑で再逮捕した。』とのことで、『当時、同じ車両には約40人の乗客がおり、一部の乗客は異変に気付いたものの、植園容疑者にすごまれ、制止できなかった』という記事が目に飛び込んできたのだから。


 一般紙の1面としてはタイトルも衝撃的だが、内容も詳細にわたっており、『昨年8月3日午後9時20分ごろ、福井駅を出発した直後に、(中略)女性の隣に座り、「逃げると殺す」「ストーカーして一生付きまとってやる」などと脅し、繰り返し女性の下半身を触るなどし』、さらに『京都駅出発後の午後10時半ごろから約30分間にわたり、車内のトイレに連れ込み、暴行した疑い』で、『女性は車両前方のトイレに連れ込まれる途中、声を上げられず泣いていたが、付近の乗客は植園容疑者に「何をジロジロ見ているんだ」などと怒鳴られ、車掌に通報もできなかった』と伝えている。
 植園容疑者は、これ以外にもJR湖西線の普通電車内や同線の駅トイレで別の女性たちを強姦した容疑ですでに逮捕されており、被害者からの告発を受けて再逮捕にいたったようだ。


 だが、この事件に関して、他紙の動きはかなり鈍く、同日は東京新聞が社会面のベタ記事で報じたのみ(共同通信の配信)。
 読売と朝日は翌日の社会面で、いずれも毎日新聞の書き写しのような記事を掲載した。産経新聞は、23日現在で報じていない。
 各紙の対応を一覧にすると、こうなる。

新聞 掲載日 タイトル スペース
毎日  22日  1面  特急内で強姦 乗客沈黙  7段囲み(105行相当)
東京  22日  社会面  電車内で女性乱暴の男逮捕  本文32行
読売  23日  社会面  特急内 女性を暴行  本文52行
朝日  23日  社会面  特急内で女性に乱暴  本文32行
産経  なし  -  -  -


 毎日以外の各紙タイトルは、いずれも「暴行」または「乱暴」となっており、性的暴力がなかば公然と行われ、なおかつ本人による告発を待つまで半年以上も、何事もなかったことになっていた事実がきちんと伝わっていないように思う。


 強姦被害を受けた女性は、取調べなどにおいて「セカンドレイプ」を受けている可能性があり、これを紙面にすることは、「サードレイプ」あるいは、致命的な打撃を被害者にもたらす可能性がないとは言えない(もちろん、このブログも「加害」の立場にある可能性がある)。
 しかし、それでも事件発覚直後に、1面での7段囲みという異例の扱いで、しかもタイトルに「強姦」と明記した毎日新聞の判断を支持したい(ただし、本文は「暴行」との用語で一貫しているが)。


 バージニア工科大学や長崎、あるいは町田での銃撃事件ですら、対岸の火事としてきた私にとって、「その時、自分はどうしたのか」が鋭く問われる、穏便でない紙面作りになっていると感じるからだ。