2008年読んだ本 ベスト16(8位〜4位)


第8位
「僕の妻はエイリアン 『高機能自閉症』との不思議な結婚生活」
泉 流星


僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活 (新潮文庫)

僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活 (新潮文庫)


自閉症アスペルガー症候群を書いた本は
「裁かれた罪 裁けなかった『こころ』―17歳の自閉症裁判」
「ぼくには数字が風景に見える」などの
良作を何作も読んだけど1作を選ぶならこの本。


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“高機能広汎性発達障害”(自閉症スペクトラム障害)というものを
その障害を持つ人、持たない人、両方の視点から
明らかにするという書き方も秀逸だが、
その障害を持つ当人が、自分の特性を見つめ、
前向きに考え、行動していく姿に感銘を受けた。


高機能広汎性発達障害という言葉はこの本で知ったが
そういう障害を持つ人には過去に何人も会っている。
「変わった人」として避けられていた彼らが
「そういう障害を持つ人」として正しく認識されれば良いな、と思う。






第7位
磯崎新の「『都庁』―戦後日本最大のコンペ」  平松剛


磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ


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コンペという戦いの面白さと
深く、広く、多種多様なイメージを
建築というこれ以上無いほど具体的なものに結実させる面白さ。
この本を読んでから建築というものへ
「この設計者のイメージはなんだろう?」
などと見る目が変わってしまうことに。


磯崎親分が設計した
岡山西警察署も見に行ってしまいました(笑)。






第6位
 「モリー先生との火曜日」 ミッチ・アルボム


普及版 モリー先生との火曜日

普及版 モリー先生との火曜日


 スポーツコラムニストとして活躍するミッチ・アルボムは、
偶然テレビで大学時代の恩師の姿を見かける。
 モリー先生は、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵されていた。
 16年ぶりの再会。モリーは幸せそうだった。
 動かなくなった体で人とふれあうことを楽しんでいる。
 「憐れむより、君が抱えている問題を話してくれないか」
 モリーは、ミッチに毎週火曜日をくれた。
 死の床で行われる授業に教科書はない。
 テーマは「人生の意味」について。


 
 スポーツライターとして成功しても、
満たされない思いを抱いている著者。
 それがモリー先生との授業で徐々に変わっていく。
 著者の心の変化、それに平行し、
モリー先生の病状も進み、死へ近づいていく。
 毎回「死について」「家族について」「老いの恐怖」「かね(金)について」
…など散漫ではなく、
決まったひとつのテーマという講義も読む者の心に残る。
 そして各章の最後に収められる、
大学生時代の著者とモリー先生との心温まるエピソードも。



 モリー先生は語る。


 「誰でもいずれ死ぬことはわかっているのに、誰もそれを信じない」
 そして
 「いかに死ぬかを学ぶことは、いかに生きるかを学ぶこと」

 人生に意味を与える道は、人を愛すること、
 自分の周囲の社会のために尽くすこと、
 自分に目的と意味を与えてくれるものを創り出すこと


 モリー先生の言葉には「愛」という言葉が多く語られる。
 正直に書くと、私には理解しがたいものがほとんどだった。


 レヴァインの言葉を引いた
 「愛は唯一、理性的な行為である」


 …なんてのをすぐ理解できる人がどれほどいます?
 (解説での曽野綾子さんの文章が理解のための補助線となるが)


 自分へするように人を許し、与えること。
 キリスト教信者ではないモリー先生が病の後に得た結論は
キリスト教のそれと似ている。


 読んですぐ心の深くに残る言葉と
その意味はすぐ理解しがたいが何度も反芻し
考えることによって染み込んでいく言葉。
 どちらも、とても大切な言葉だ。

 対立物の引っ張り合い、人間はたいていその中間で生きている。
 どっちが勝つかって?
 そりゃ愛さ。愛はいつも勝つ

 モリー先生の人生を懸けた言葉の数々。
 これからの人生、長くそばに置いておきたい本。







第5位
ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎


ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー


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本屋大賞も受賞した本作。
ラジコンヘリの爆弾による首相の暗殺事件で
犯人と仕立てられ、
警察をも巻き込んだ壮大な陰謀の冤罪に陥った主人公の
2日間の逃走劇、という筋。


もう、「読書する喜び」というものをここまで味わせてくれたことに脱帽。
エンターテイメントでありながら
伊坂作品には底に毒があって
常に「自分で考えろ!」というメッセージを伝えてくる。


ラストも洒落が効いていて、記憶に残ったなあ。
映画化はいつですか?(笑)







第4位
「死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う」
森達也


死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う


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死刑に対して森達也氏の3年にも及ぶ調査の本。
まず日本人の80%が死刑に賛成だということ。
私もその賛成派の一人だが、
多くの割合が賛成していることにみなさんはどう感じただろうか。
私は安堵よりもかえって、
自分の死刑賛成という考えに疑問を持ってしまった。


死刑反対派の森氏が提示するものは真っ当だ。
マスコミの偏向報道、冤罪の可能性等々・・・。


この本を読み終えた後も私はやはり死刑賛成派だが
単純に「賛成で当然でしょ」とは言えなくなった。
世間で多数とされている考えと自分の考えが同じでも
疑問に思い、その根拠を求め続けること。


「死刑」への是非だけではなく、
人が何か意見を持つことそのものに対し、
森氏の本は優れた姿勢を示してくれる。




(続きます)

2008年読んだマンガ ベスト11(5位〜4位)


第5位
「おもいでエマノン」 鶴田謙二(原作:梶尾真治


おもいでエマノン (リュウコミックススペシャル)

おもいでエマノン (リュウコミックススペシャル)


1967年2月24日、九州行きのフェリーで
僕はひとりの女性に会った。
エマノンと名乗るその女性は
地球に生命が生まれてからの30億年の記憶があった・・・。



泣きたくなるほど懐かしい日本SFの名作が
名匠:鶴田謙二の手によってコミックに!
そのエマノンの姿はさすが原作者の梶尾真治氏が
「以降のエマノンを執筆するとき
 私の中でのイメージは鶴田さんのエマノンになっています」
…と語るだけはあります。


エマノンに限らず鶴田氏が描く女性って
ちょっとファニーな顔なんだけど
なんとも言えない魅力があるんですよねえ。
女性特有の柔らかさ、というか
肌のあたたかみ、血が通っている感じがする。


思春期の空想好きな少年にとって
「ミステリアスな女性」というのは
非常に大きなものを占めるイメージなのではないでしょうか。
「おもいでエマノン」、
原作も久しぶりに読み返してみたくなりました。






第4位
「空色動画」 片山ユキヲ


空色動画(1) (シリウスコミックス)

空色動画(1) (シリウスコミックス)


題材がアニメと聞き、この絵を最初に見て、
「ケッ、ミニスカとアニメくっつけて出来上がりか、安いなー」
…などと思ったのをお許し下さい。


奔放な帰国子女とバンド少女、という
アニメーションと関わりが全く無かった2人が
孤独なお絵かき少女の教科書に書いたパラパラマンガをきっかけに
自主制作アニメーションへハマっていく、というお話。


とにかく楽しそうにアニメを作っていく姿、
紆余曲折あって3人が「仲間」へなっていく過程に
“じん”と来てしまう。


あと、一口に「アニメ」と書いてしまったけど
このマンガで扱っているアニメは
絵がディスプレイ上で動くだけのものでは無く
(もちろんそういうアニメを否定しているわけじゃないです。
 マンガでは「ハックス!」という良作もあるし)
写メで撮った画像を繋げて作ったアニメだったり
(ピクシレーションという実写コマ撮りのアニメだそう)
夏祭りの走馬灯を自作してみたりする。


この作者はアニメという言葉から
多くの人が思うようなイメージを飛び越えて
世界に大きく関わっていくようなアニメの表現を目指しているよう。





現在2巻まで出ていて、
その続きが文化祭でのアニメ上映シーンなんだけど
見せ方のアイディアがこれまた凄いんだ!(3巻マダー)


何かを仲間と作る喜び、
表現というものの可能性を
こんなに楽しく感じさせてくれる「空色動画」、良作です。


あとこのマンガで紹介されていたピクシレーションの傑作
「Tony vs. Paul」、是非観て下さい。いいよ!楽しいよ!!



この作者の新作「Put It To Use」から
「空色動画」はかなりインスパイアされているみたいですね。




(続きます)

全国大会:一般の部感想 <その5>


東京都(東京支部代表)
混声合唱団鈴優会(混声21名)


課題曲G1。
やや細めながら芯のある旋律。
とても練習を積んだことが分かりサウンドもクリア。


自由曲1曲目はスヴィデル「Requiem aeternam」。
バスのリズムの面白さが印象的な曲。
2曲目はチョピ「Pie Jesu」。
優しいだけではなく、その裡にある力強さも伝える、
大変良い雰囲気の演奏。


あ、「あれこれ」で「手を切りそうな緊張感」
…などと書きましたが、
今回の演奏はそういう緊張感は感じさせず、
それでもしっかり「鈴優会ワールド」を作っていましたよ。
出場し続けることで、
緊張感を感じさせなくなる何かがあったのでしょうか?





東京都(東京支部代表)
Combinir di Corista (混声29人)


初出場おめでとうございます。
男声が黒いシャツに赤ネクタイというのが面白い(笑)。
課題曲はG3「全身」。
最初の音でぶっとびました「声がいいな!」。
それがいわゆる「美声」の人たちが集まっているのではなく、
優れた合唱表現へ向けて、声を磨き上げたという印象。
音圧がありすぎるのでもなくクセがあるのでもなく、
発語も含めて大変好み。


そして音楽がこれまた素晴らしかった。
この課題曲は高校生や一般で散々聴きましたが、
コンビニの課題曲が私の中で一番です。


音楽の主と従をしっかり理解し
フレーズ起点の繊細さと巧さ。
暗から明へのグラデーション。
どれをとっても高度な完成度だったと思います。


聴きながら「うんうん、わかるわかる」と心で頷きながら聴き、
チェリスト:ミッシャ・マイスキーの演奏を
聴いた時のことを思い出していました。
その演奏が「わかるわかる!」と思うときは、
演奏者がその音楽の狙いを充分に理解し、
そして自分たちの能力を客観的に把握し、
さらに音楽を聴衆へ伝える方法を具体的にし、曖昧さを全く無くさないと、
「わかるわかる!」には決してならないはずなのです。


そういうところに指揮者:松村先生の音楽性、知性等の
能力の高さを実感しました。
もちろん、その要求に
しっかり応えられた団員のみなさんの努力も褒められるべきでしょう。


自由曲はミシュキニス「Ave Maria Nr.3」から
「2.Adoamus」「3.Regina Coeli」。
そのサウンドへの高い意識、音の充実、
弱音での繊細なニュアンスの表現、
一瞬で雰囲気を変える見事さ、とこちらも素晴らしいもの。
男声が特に良かった!


今年はいくつか初出場の団体が出ましたが、
間違いなくコンビニは
「最優秀新人賞!」でしょう。
それも近年稀に見る期待の大型新人です。


結果は金賞。しかもシード2位!凄いですねえ。
来年もコンビニの演奏を期待し、楽しみにしています。
(団名「コンビニ」だから、
 品揃え…選曲の幅の多いところ、見せて下さいね♪)





東京都(東京支部代表)
CANTUS ANIMAE(混声32名)


課題曲G2。
なんて優しい音楽なんだろう!
旋律の細やかさも含めて
楽曲へ対する愛情がひしひしと伝わってくる演奏。
…ただ、ハーモニーがやや崩れていたり
響きの充実という面では足りないところもあったりで、
なかなかその世界へ没入させてくれないのが残念なところ。


しかし、この課題曲の演奏で
他団体は「音を置いていく」という
ある意味一本調子な曲想だったのに対し
CAは中間部から音楽を変化させ、
自在なシューベルトの世界を作り上げていました。
指揮者:雨森先生の力を感じるとともに
歌い上げる団員さんたちの能力の高さにも感心。


自由曲はジョリヴェ「Epithalame(祝婚歌)」からII。
一聴しただけで
この曲の世界観を掴めたとは到底言えませんが、
まず単純に声、歌、というだけではなく
どこか“妖しい”空気、雰囲気を作りだしていること。
効果のような表現でも、効果じゃない。
ちゃんと、どこまでも“歌”になっている。それが素晴らしい。


その不思議な雰囲気から、「どこが祝婚歌?」という疑問も湧いて。
(詩も後で読ませてもらったところ、
 妻を賛美する内容、なんだけど…
 その言葉が到底実在しないような崇高な対象に値するもので。
 ・・・ジョリヴェの奥さんって女神か2次元だったんじゃね?
 などと話したのは全くの余談ですスイマセン)


テナー早口のフランス語もがんばってました!
あとソプラノが弱声から強い音まで
繊細な表現から大胆なものまで幅広い表現の巧さを感じさせました。
“声”そのものだけでは無く、
表現としてはCAのソプラノが
一般の部では一番良かったんじゃないかな。


全体では残念ながら傷がところどころにある演奏で、
コンクール的にシェンヌやコンビニが
上位へ位置するのは納得だけど
演奏全てにおいて無機質に感じられる音がひとつも無い。
音すべてに“歌”が入っている、という演奏でした。
それはやはり「魂の歌」という団名に恥じない演奏だったのです。




(続きます)