偏差値40から良い会社に入る方法 感想

 本書は、上武大学教授の田中秀臣先生が、ご自身の10年以上にわたる就職指導の経験と、専門である経済学の知見によって書かれた、就活本としてはかなり変わった部類であろう本です。
 まず、やる気のある学生ではなく、就職に明確なイメージを抱けず、一歩を踏み出せないごく普通の学生に対して書かれている、というのが特徴的なところです。
 第1章、第2章では、客観的な事実で就活に関する間違いや、いい会社の見つけかたなどをくわしく解説しています。それ以外にも、大人なれしていない近年の学生のためには、人間は短期間では変われない、という見落としがちな観点から、教員や親の手助けを子どもが不幸にならないための合理的な手段として肯定しています。
 おそらく他の就活本では触れられてないような、当事者のことをよく考えた非常にプラグマティックな態度と言えるでしょう。また、内定の辞退のしかたや、公務員試験と一般企業への二股をかけることへの矛盾の指摘も重要なことです。
 第3章では面接におけるコミュニケーション能力の重要性ということで、日本語がしっかり使えること、企業をよく研究しておくこと、大学で何を学んだか、しっかり説明できるようにしておくこと、ということの重要性と、そのためには就活を早めに開始して多くの企業を受けるべきということが詳細に述べられています。
 第4章では、人が次々とやめていくような企業、たとえばチェーン系居酒屋のような企業にひっかからないようにするための注意が、これもまた実践的に述べられています。下手をすると、体や精神を壊しかねないので、ここも熟読すべき箇所です。
 第5章では、経済学的な知見に基づいて現在の就職状況の厳しさを解説しています。民主党政権の政策やリフレ政策に関してやさしく平易に解説しているので、経済学的な議論に関心のない人でも、なにが問題なのかわかりやすい内容になっているでしょう。
 そして終章では、田中先生の教育論とも言えることと、実際の学生さんの就活に関する話が語られます。暗くなりがちなテーマを扱っている本書ですが、この終章とあとがきでは、学生に対する優しいまなざしのせいか、何かさわやかな読後感が残りました。
 ただの優れた就活本というだけでなく、経済問題を考える入口としても、実に優れた本だと言えるでしょう。

偏差値40から良い会社に入る方法

偏差値40から良い会社に入る方法


id:J-S-5さんが簡潔で要を得た書評を書かれているので、そちらも読むのをおすすめします。
http://d.hatena.ne.jp/J-S-5/20091124/1259044825