2007-05-31
六花亭vs.田中義剛の道産小麦バトル
お菓子メーカー道内大手・六花亭社長の小田豊と、タレントで花畑牧場を経営する田中義剛が『道新』紙上でバトル、と言っても、小田の文章に田中が紙上やサイトで反論しただけなのだが、その内容がなかなか興味深い。
六花亭は以前から『道新』夕刊の1面下に定期的に全2段広告を掲載している。「社長の思い」という小田がしたためた小文をイラストとともに乗せたもの。問題の5月16日の分には「41」とナンバリングしてあるので、相当前から連載していると考えられる。この日の文章は、「内麦外麦」というタイトル。一部を引用する。
「内麦外麦」「道産小麦使用」。パンやうどん、最近では、お菓子にもこんな表示を見かけるようになりました。地元の良質な作物を使うことは大いに結構ですが、ときに「地産地消」をイメージだけで使っているのではないか、と首を傾げることもあります。(中略)納得のいくお菓子をつくろうと思えば、当然、原材料の厳選から始まります。私どもは、それぞれの製品に適した原材料を世界中から探し、使い分けています。例えば、『マルセイバターサンド』のビスケットに使う小麦粉は、北米産です。(中略)残念ながら、今のところ、私どものお菓子には道産小麦の出番はありません。(中略)地産地消にこだわりすぎて、製品の「おいしさ」をないがしろにしては本末転倒です。
これに対し、田中は5月23日付け『道新』夕刊で、毎週水曜日の夕刊に連載しているコラム「花畑通信」で反論している。こちらも抜粋して引用する。
「『社長の思い』を読んで 「出番がない」に苦い思い/一体、その真意は何?」先日の北海道新聞に道内大手菓子メーカーが「社長の思い」と題した広告を載せていた。その中に気になる部分があったので、酪農家として一言いいたい。(中略)素晴らしい小麦を使って、味を追求するのはけっこうだ。だが、気になるのは次の部分だ。《残念ながら、今のところ、私どものお菓子には道産小麦の出番はありません》オレの住む十勝管内中札内村には、百五十軒以上の畑作農家がいて、みんな小麦を作っている。昔から土づくりにこだわって一生懸命に取り組んでいる。そこに「出番はありません」と言われて、友人の一人は嘆いた、「生産者の苦労がわかっていないのだろうか」(中略)「出番がない」という言葉に、オレは苦い思い出がある。青森から北海道に来て、二十二歳で札幌のラジオのオーディションを受けたとき、若いディレクターに言われた。「つまんないよ、あんたの出番はないな」中略)今回の広告を読んで感じることはいろいろある。北海道を代表するお菓子が、実は道産小麦でなく北米産小麦だけで作られているということを知って、意外な気持ちになった人もいるのではないか。お土産にするときに、迷うことはないか。畑作農家の中に「われわれのことを応援してくれないのか」と感じる人がいるだけではないと思う。読んだ人をこんな複雑な思いにさせることを、わざわざ広く知らせる真意はどこにあるのだろうか。
私としては田中の言い分に賛意を表したい。美味しいお菓子を作るために原材料を厳選するのは、解かる。そのために世界中から探すのもいい。だが、「道産小麦」を「出番がない」と否定する必要がどこにある? それより、六花亭は国内最大の小麦産地である地元・十勝の小麦を試したことはあるのか。地元産小麦でおいしいお菓子を作ろうと努力したことはあるのか。小麦農家と協力して六花亭のお菓子に適した小麦を作るべく取り組んだことはあるのか。そうした努力を重ねて、なお、道産小麦ではダメだというのなら、納得もしよう。小田の文章には、「地元の良質な作物を使うことは大いに結構」とか、「残念ながら、今のところ(出番がない)」とか、「材料を生かすことができれば万々歳ですが」といっているように、「本心では道産小麦を使いたいのだが…」というエクスキューズが見え隠れしているのだが、それでも「出番がない」と言われた畑作農家は立つ瀬がない。田中はこの問題を花畑牧場のサイト内の「花畑牧場通信」にも書いており、その中で向井亜紀は、「出番はないというのではなく、出番は作るものではないのですか? 地元の小麦農家さんと力を合わせて、すばらしい菓子ができるのを期待する」としている。まったくその通りだ。
確かに小田が書いているように、イメージだけの「地産地消」や、美味しさを蔑ろにした「地産地消」も氾濫している。売らんがためのイメージづくり。それは「北海道」を冠した数々の製品にも言える。「北海道」は今や高いブランド価値を持つ。特に食品においては、パッケージに「北海道産」と打つ商品が各メーカーから続々と発売されている。だが、そのほとんどは、単に北海道にある工場で作っているだけだったり、原材料のごく一部に北海道産の農作物を使っているだけだったり。ホンモノの北海道産はごくわずかだ。だが、「地産地消」をイメージだけで使っていることを批判するなら、例えば『マルセイバターサンド』を含む詰め合わせ商品「十勝日誌」や、「大平原」「十勝春秋」「十勝酒種ぱん」「十勝マルセイバタ」はすべて北海道産の原材料を使っているのか。これは「十勝」を冠したイメージ戦略ではないのか。
一方、田中のコラムにも気になる一節がある。「われわれのことを応援してくれないのか」。畑作農家の気持ちを田中が代弁した部分だが、はっきり言えば、(応援してほしいとは思うものの)六花亭に畑作農家を応援する義理はない。畑作農家がそのことを恨みがましく嘆く必要もない。わざわざ高い広告料を払って「道産小麦に出番はない」などと言う必要はまったく認めないが、そんな菓子メーカーは放って置けばよろしい。他の菓子メーカーと組んで、あるいは自分たちで知恵を出し合って、道産小麦を使った(『マルセイバターサンド』より)美味しいお菓子を産み出せばいいではないか。
既存の品種がダメならブレンドや新しい品種の改良という方法もある。小麦にもいろいろな品種がある。十勝産の小麦の主力は「ホクシン」という品種で、グルテンが少ないため麺に適し、パンやお菓子には向かないとされてきた。ところが品種改良により「キタノカオリ」というパンづくりに適合した小麦の出荷が始まり、「ホクシン」とブレンドして100%十勝産小麦のパンが作れるようになり、学校給食にも供給されるようになった。まだ生産量が少ないため、ごく一部の普及に留まっているが、消費が増えれば作付けも拡大するだろう。
お菓子づくりのことは良く知らない。パンは強力粉、麺(うどん)は中力粉、お菓子類は薄力粉を使うそうで、薄力粉に向く小麦がどういう品種なのか、北海道・十勝で栽培可能なのか、私にはわからないが、ニーズがあれば研究や生産も進むだろうし、「理解してくれない」と嘆くだけでなく、「ならばお菓子に適した品種を作ってやろうじゃないか」という気概を持ってほしい。何も六花亭を相手にしなくてもいい。他にも菓子メーカーはたくさんあるのだから。