buveryの日記

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2011-05-20 ECRRの福島リスク計算は妄想の産物

ECRRは「今後10年間で10万人が癌で死亡する」と主張 09:25 ECRRは「今後10年間で10万人が癌で死亡する」と主張を含むブックマーク

ECRRのクリス=バズビーはこのとんでもないリスク計算なるものを発表しています。

ECRR Fukushima Risk Calculation p9

Assuming that no one moves away and that the contamination remains at this level, using the Tondel et al 2004 regression coefficient of 11% cancer increase per 100kBqm-2 and assuming the same spectrum of radionuclides and pathways for exposure the cancer increase in the 100km population is 66% and these cancers will be manifest in the next ten years.

誰も退避せず、汚染が減衰しない事を仮定し、トンデル2004の100kBq/m2に対して癌の増加の再帰係数が11%であることを使い、放射性核種の種類と被曝の経路が同じであると仮定すると、100km内の集団での癌の増加は66%になり、この癌はこの10年以内に発生する。

参考文献として、

ECRR Fukushima Risk Calculation p13

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こいういうようにTondelの論文が引かれています。

もとの論文の表題を見てみる。 09:25 もとの論文の表題を見てみる。を含むブックマーク

もとの論文は、J Epidemiol Community Health 58:2011, 2004 です。

私は普通こういう論文の表題だけをコピーするなどということはしないのですが、今回は例外です。

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何か、ECRRが参考文献に載せているものと違いませんか?普通に注意力のある人には、

ECRRのクリス=バズビーが参考文献をひいた時に『due to the Chernobyl accident?』を消している

ことが分かります。なんで、ECRRはこういうショウモナイことをするのか。もとの論文が断定してないことを、さも断定的に取り扱うために、ハテナを削っているのです。こういう程度の低い団体の相手は本当はしたくありませんが、騙されている人がいるので仕方ない。

トンデルの論文の主張 09:25 トンデルの論文の主張を含むブックマーク

トンデル論文の主張を簡単に書くと、こうなります。

1986年から1987年の値を基準にして、種々の補正を加えた結果、1988年から1996年のスウェーデンでの癌の発生率を調べると、セシウム137の100kBq/m2放射性物質降下に対して、癌の比率は11%(95%信頼度:3−20%)増加した。白血病甲状腺癌は増加していない。

まず、セシウム137の降下をスウェーデンで調べて汚染地図を作り、汚染の程度に応じて地域を分類します。

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その実際の数字、1988−1996年の癌と死亡の実数と、人口はこの通りです。

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左側、人口の所を拡大すると、

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右側、癌の比率と死亡率を拡大すると、

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トンデルのデータそのままでは、汚染濃度60−79kBq/m2のところでは癌はちょっとだけ減る。 09:25 トンデルのデータそのままでは、汚染濃度60−79kBq/m2のところでは癌はちょっとだけ減る。を含むブックマーク

ここで問題が出てきます。この場合、データを載せているので計算ができてしまいます。生データからそのまま計算すると、60−79kBq/m2のところでは0−3kBq/m2のところに比べて、発癌比率がほとんど同じ。男は、102.3%ですが、女は97.6%。図では分からない程度ですが、男女合わせると、99.6%で、少しだけ減っています。

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トンデルのデータそのままでは、汚染濃度60−79kBq/m2のところでは、死亡者数は1割減る。 09:25 トンデルのデータそのままでは、汚染濃度60−79kBq/m2のところでは、死亡者数は1割減る。を含むブックマーク

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これが、全死亡になると、もっと変なことになって、増えているのは、40−59kBq/m2と、80−120kBq/m2のところだけ。残りの死亡率は減っていて、『問題の』60−79kBq/m2のところは1割以上も減っています(0−3kBq/m2のところと比べて88.9%)。『低レベル放射線は体に良い』と放言していた人がいましたが、これではまるでその通り、放射線ホルミシスです。これで困ったので、彼等は数字を*補正*することを思いつきます。

都会に住むだけで癌は5−16%増える。 09:25 都会に住むだけで癌は5−16%増える。を含むブックマーク

これがトンデルの出してきた、補正一覧です。

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左側の拡大。最初の欄Aをみると、人口密度が40人/km2以上になるだけで癌のリスクは1.09から1.10になります。

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ちなみに、トンデルはもっともらしい数字を出そうとしてこんな補正を出してきたのでが、トンデルの主張を両方とも真に受ければ、『100kBq/m2放射能汚染によるリスク(11%の増加)は、都会に済むリスク(10%の増加)とだいたい同じ』。ECRR風に言えば、『都会は人間で汚染されている』ということになるでしょうか。二番目の欄BのH regionというのは、コミュニティの分類(農村とか、都会とか)によっておこる癌のリスク。三番目のCは、肺がんのリスク。これで大気汚染とか、喫煙のリスクとかを代表させていると主張しています。4番目のDは、86−87年の全癌のリスク。

右側の拡大はこんな感じ。

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補正を重ねた数字に、有意差なし。 09:25 補正を重ねた数字に、有意差なし。を含むブックマーク

 放射能汚染で癌がおこるためには、『問題の』60−79kBq/m2のところでも癌が増えてもらわねばなりません。それで前述の補正を重ねて出してきた数字がこれです。

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左側を拡大する。60-79kBq/m2の所に注意。

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右側を拡大すると、60-79kBq/m2のところが線量に応じて危険率が上がるようになっているのは、様々な補正を全て加えた後であることに注意。しかも、括弧内の95%信頼度のところは全て1を含んでいる。ということは、別に1(=対照としたところと同じ)であっても不思議はないということ。

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この表をよく見ると、60−79kBq/m2の領域の数字が1を越えて、もっともらしく癌のリスクがあがると結論づけるためには、全部の条件による補正が必要だったことがわかります。ところが悲しいかな、この数字すべて有意差がありません。95%信頼範囲をみると、全部偶然であるといっても良いのです。ところが、この数字をポワッソン分布だと仮定して再帰曲線を書くと、11%という数字が出てきました。ただし、これの信頼度95%の範囲は、3−20%です。計算の綾で、ぎりぎり正の相関が出てきていますが、もとにしているデータの有意差がないことを考えると信頼にたるものとは思えません。

独立していない数字で補正しているのは、ほどんど漫才。 09:25 独立していない数字で補正しているのは、ほどんど漫才。を含むブックマーク

 しかも、この補正、よく考えるとおかしなことが分かります。人口密度によるリスクと、コミュニティの分類によるリスク、肺がんのリスク、全癌のリスクは独立なんでしょうか?こんなの独立な訳はありません。

 昔聞いた漫才で、お父さんはよく働いている、というのがありました。『お父さんは1年365日よく働いている』『でも1/3は寝ているから、123日は働いてない』『分かった、お父さんは242日よく働いている』『でも土曜、日曜があるから、土日で102日休んでいる』『分かった、140日働いている』。この後、国民の祝日、風呂、食事、テレビを見る時間など引き算して行くと、1日も残らない。

 もちろん、これは土日などと、寝てる時間を二重に数えているから、こんな馬鹿げた引き算になっているわけです。独立していない補正で数字をいじっているのは、ほとんど漫才です。それで踊っているECRR、さらにそれに踊らされている人などは、踊る阿呆に見る阿呆の世界ではありませんか。

120kBq/m2程度の汚染では、癌のリスクは他の環境因子の影響よりも小さくて問題にならない。 09:25 120kBq/m2程度の汚染では、癌のリスクは他の環境因子の影響よりも小さくて問題にならない。を含むブックマーク

では、このトンデルの論文から分かる事は何か。それは、セシウム137の120kBq/m2くらいの汚染がおこったスウェーデンでは、癌や死亡率などは他の環境因子(例えば都会に住むことなど)の方が大きく、少なくとも10年くらいの観察では、問題にならない大きさだということです。小児甲状腺癌の増加がないことも、私の結論が妥当である事を示していると言って良い。実際、この論文の表7はこうなっています。

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左側を拡大すると、それぞれの地域での甲状腺癌の比率がでています。例えば、40kBq/m2以上のところでは、十万人あたり1.84。

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右側を拡大すると、その同じ地域の甲状腺癌が1.55に下がっています。

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ロシアウクライナベラルーシでは、小児甲状腺癌が10年でざっと100倍程に跳ね上がったことを思い起こすと、10倍程度でもあがれば簡単に分かった筈です。ところが、スウェーデンでは甲状腺癌は実数でほぼ同じか減っていることが分かります。*1しかも、9歳以下の小児甲状腺癌はゼロ。*2一番感度の良い、被害のよく分かる甲状腺癌ですら影響が出ていないのだから、他の癌で目に見えるような変化がないのは不思議ではありません。

トンデルの論文と、LNTを使ってECRRは10年で10万人という福島リスク計算を出している。 09:25 トンデルの論文と、LNTを使ってECRRは10年で10万人という福島リスク計算を出している。を含むブックマーク

元に戻ってECRRは福島リスク計算をどうやって出したのか。

  1. Sv/hで100キロ圏が一様に汚染され、全部セシウム137だと仮定した。
  2. 空間線量のデータから逆算して表面汚染の崩壊数を計算した(空間線量と表面汚染の関係は以前に書きました)。
  3. 放射性物質は崩壊しても減衰しないと仮定した。
  4. 人は退避しないと仮定した。
  5. 表面汚染による外部被曝と癌の発症の増加比率は比例すると仮定した=ほぼLNT。*3
  6. 癌の死亡は10万人あたり462人を使った。
  7. 100キロ範囲の人口338万人を使った。
  8. その係数にトンデルの論文の100kBq/m2で増加比率11%という値を使った。

以上です。これらのうち、どれが間違った仮定であるかは、ここまで読んできた人には分かると思いますが、一番の肝はトンデル論文です。これが上に述べたようにガタガタです。そもそも、トンデルのいう係数は補正をしないと2番目に高濃度に汚染されている60-89kBq/m2の地域、90−120kBq/m2に隣接した地域、にすら当てはめることができない。その計算をなぜ福島なら当てはめられるのか。従って、

ECRRの数字は妄想から繰り出したもの

であると言えます。

*1:減っているのも統計的には変化があるとは言えません。

*2:小児甲状腺癌の定義は15歳以下。

*3:ただし、ICRP99での放射線による癌の増加はトンデルの言っている増加比率ではない。被曝した集団の癌確率=p 被曝していない集団の癌確率=q、線量をD、定数である係数をβとすると、トンデルは、(p-q)/q=βDと仮定しているのに対して、ICRP99は、p-q=βDと仮定している

red5red5 2011/05/21 14:22 はじめまして、現在20キロ県内の牛や豚が全国に出荷されてはじめております。
青森に引き取られた被災牛からも、出荷段階の検査でにセシウムが検出されました。
産地も変わってしまうので、一苦労しています。
また福島の原乳も各社牛乳に使われてはじめています。
(子供たちの給食で出ています)
buveryさんは食材についてどのようなお考えをお持ちですか?

あんのうんあんのうん 2011/05/23 22:42 今日の『BSフジプライムニュース』という番組で、がんセンターの院長さんや医療ジャーナリストの方がECRRの分析データをもとにお話をされていました。
今回の福島の原発事故で40万人ががんになるとかなんとか。
このブログを読んでいたおかげで「ああ、この専門家騙されてるな」と見抜くことが出来ました。
しかし、ECRRがトンデモ組織だってことは専門家にも知られていないのでしょうか?

ssssss 2011/05/25 11:23 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1732641/pdf/v058p01011.pdf
ここで元のレポートが見れますが、棒グラフのデータはどこから来たのでしょうか?
宜しくお願いします。

buverybuvery 2011/05/25 12:43 棒グラフは、Table 1から計算しています。PDF自体が私の見たのと同じものなら、ここに載っているものと同じです。数字はそこにありますから、検算してみて下さい。

はらほれはらほれ 2011/05/27 14:14 わかりやすいです。ありがとうございます。このような形で見せていただくと納得できます。

mizumizu 2011/05/27 19:17 ECRRでは、

ECRRモデルでは、より低い放射線量で高い放射線量よりもリスクが大きく
なるという2相モデルを採用しているようです。

http://www.csij.org/01/archives/radiation_001.pdf#page=10

正直、低線量の影響を大きく見積もるために無理矢理作ったような印象があります。

京都大学の今中氏も、

ECRRのリスク評価は、「ミソもクソも一緒」になっていて付き合いきれない。
ECRRに安易に乗っかると、なんでもかんでも「よく分からない内部被曝が原因」となってしまう。

と痛烈に批判しています。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No99/imanaka041215m.pdf#page=15

なぜこのECRRモデルが注目を浴びるのかがよく分かりません。

twitterよりtwitterより 2011/05/28 10:56 twitterには以下のリンク先のような意見が出ています。

同意見+補足 (おそらくこの補足は重要)
http://twitter.com/#!/Mihoko_Nojiri/status/73975650708496384
http://twitter.com/#!/Mihoko_Nojiri/status/73975983635574784

この批判の仕方は間違っているという意見
http://twilog.org/jun_makino/date-110527
の posted at 21:20:39 以降

tu-tatu-ta 2011/05/28 19:44 この問題については、まったくの素人なのでわからないところは多々あるのですが、とりわけ、ECRR全体の問題なのか、そのなかのクリス=バズビーの問題なのかがよくわかりませんでした。

やまやま 2011/05/29 17:54 こんにちは.
トンデル氏の論文をきちんと読解した上で反論をしている方は多くないので,
とても参考になります.
トンデル氏は,buveryさんが引用されている2004年の論文の後,2006年に次の論文を発表しています.
http://www.ippnw.org/pdf/chernobyl-increased-incidence-malignancies-sweden.pdf
読んでみたのですが,専門外なものでイマイチよく分かりません.
環境被曝,人口密度,肺癌,悪性腫瘍について補正をしているようです.
(人口密度と肺癌に恣意的なものを感じますが.)

お時間のあるときにでも読んで頂いて,ブログ等で解説して頂けると幸いです.
お忙しいと思いますので,あくまで一読者からの希望です.

buverybuvery 2011/05/31 04:21 この @jun_makinoという方は、勘違いしています。

このトンデルの論文では、『こういう放射線の影響がある』という主張をしていて、95%信頼度で出しています。私が書いているのは、このトンデルのデータを使っても、トンデルのいう主張はできない、ということです。

で、この人の書いているのは、あたかも『私が放射線の影響はまったくない(=0)と主張している』かの如く仮定して、それで誤差の大きな値のところで『影響がないとは言えない』と言っているのです。似ているようだけれど、違うのは分かりますか?そりゃ、誤差が大きい所では、影響はあるかもしれないのは当たり前。ただ、データからは、あるとは言えないし、ないかもしれない。じゃあ、何がいいたいの?ということになります。

心理的には、『影響がある』と思いたいから、そういう言い方になるのだと思いますが、自分の願望を私に勝手に投射するのは止めてほしい。

大きくとらえれば、トンデルの出している種々の値に従っても、被曝による癌の死亡の変化は、他の要素と同じか低いくらいだ、というのが大事なところです。

buverybuvery 2011/05/31 04:40 『今回の福島の原発事故で40万人ががんになる』というのは、ECRRの福島リスク計算にのっている、ECRR固有の計算をした場合の物です。これは、被曝のうちの1/3を内部被曝とし、その効果を300倍として、線量計算をしたものです。

この『300倍』という数字はどこから出てきたのか分かりませんが、ECRRは別に福島で内部被曝を測っている訳ではないので(外部被曝すら測っていない)、言ってみただけです。私だって、十分大きな内部被曝の効果をでっちあげて、『一億四千万の日本人全員癌になる』とか言うだけなら言えますが、それが何になるのか。

ちなみに、このトンデルの論文自体、内部被曝も外部被曝も測っていません。

yojiturakuyojituraku 2011/09/09 08:39 スウェーデンの放射能降下量は6.6PBq(千兆ベクレル)と想定されるが
偶然か、福島ケースでも陸地降下量に限ると6.6PBqと推算される。
但し、残留性のあるセシウム137,134に限る。
国立環境研究所地域環境研究センターが、全大気放散の内の22%が陸地降下ということ
セシウム137の大気放散量は、15PBqとIAEAに6月報告している。
福島県内の高濃度汚染地区は、別として、ほぼ同レベルの放射能汚染であると言うことです。
但し、日本の食糧自給率は、39%ですから、内部被曝では、逆にスウェーデンの方が
厳しい条件となっています。 でもあれから25年になるが
特に内部被曝による障害もなかったようです。 スウェーデンは、北欧一の高寿命国を
維持しています。

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