buveryの日記

 | 

2011-07-16 アップルペクチンはセシウム被曝を軽減するのか?

ペクチンは、果実や海藻などに含まれる複雑な多糖類です。セシウムは腸管から再吸収されて体内を循環すると考えられていますが、アップルペクチンは腸管内のセシウムと結合して再吸収を阻害し、便としてセシウムを排泄すると考えられています。よく知られているプルシアンブルーはそうに働きます。

さて、私の好きな@qualquelleこと赤ペン先生までもが、アップルペクチンの話を書いていたので、驚きました。NHKのせいらしいのですが、これは世の中に相当浸透した話のようです。このアップルペクチンは子供に食べさせて、セシウム被曝を軽減できるのでしょうか。

結論から書けば、アップルペクチンはセシウム被曝を軽減するという報告もあるが、全く効果がないという動物実験もある。

ペクチンはジャムなどに使われていて、特に害があるという話はないので、それで気が済むなら食べさせても良いのではないか。

ただ、汚染されていない食物をとる方が本質的であって、それだけでもセシウムは下がる。というより、もともとセシウムが貯留する方がおかしい。

となります。

アップルペクチンの話はBELRADからの話。 08:55 アップルペクチンの話はBELRADからの話。を含むブックマーク

アップルペクチンが体内からのセシウム排泄に効くという話を出しているのは、バンダジェフスキーや、ネステレンコたち、ベラルーシのグループです。ベラルーシでは、アップルペクチンからヴィタペクトという製品を作っています。BELRADで使ってるアップルペクチンはこのヴィタペクトのことです。

汚染された自作の食べ物を食べている子供の内部被曝が高い。 08:55 汚染された自作の食べ物を食べている子供の内部被曝が高い。を含むブックマーク

Relationship between Caesium (137Cs) load, cardiovascular symptoms, and source of food in “Chernobyl” children – preliminary observations after intake of oral apple pectin

Bandazhevskaya, SWISS MED WKLY134:725, 2004

この論文は、先日のユーリ=バンダジェフスキー奥さんである小児科医のバンダジェフスカヤの論文です。出している雑誌は、先日のバンダジェフスキーのセシウム論文を出した所と同じ。大意は、16日間ペクチンベラルーシのゴメルの子供に食べさせ続けると、体内からのセシウムが排出され、心電図などを測ると心機能が若干向上した、ということです。ペクチンを摂取して問題がでた子供はいなかったと言っています。実験の時期は正確には書いていませんが、『チェルノブイリから17年後』と言っているので、2003年頃となります。この論文は、『予備的な*1』とあるように、ペクチンに対するコントロールとしての偽薬*2がないので、論文としては不完全です。

この論文で興味を引かれるところは、アップルペクチンそのものの話ではなくて、子供のセシウム被曝の程度です。

f:id:buvery:20110716084432j:image:w640

表1にあるように、著者等は、子供達(平均年齢11−12歳)を3つのグループに分け、その子供達が『自分のところで作ったものをを食べているのか』を調べています。彼らが高度汚染グループと呼ぶ子供達(平均122±18.5 Bq/kg)は、全員が自分のところで作った食物をとっており、中度汚染グループ(平均38±2.4 Bq/kg)や、低度汚染グループ(< 5Bq/kg)では自作の食物をとっている子供の割合が減ります。これから分かるのは、

  • そもそも、一部の子供達の食事はコントロールされていなくて、汚染された農村の地元の食べ物を食べさせていること、
  • 5Ci/km2(=185kBq/m2)以上の汚染地域からの子供で、高度汚染は100Bq/kg強であること、

また

  • 彼らの全身被曝計測器(whole body counter)の感度は5Bq/kgであること

です。従って、先日のユーリ=バンダジェフスキーが出していた、平気で数百ベクレルや数千ベクレルを越えている臓器を持っていた子供は、平均的な例ではないのではないかと思います。

アップルペクチンは効いているみたい。 08:55 アップルペクチンは効いているみたい。を含むブックマーク

さらに、Nesterenkoたちが次のものを出しています。

Reducing the 137Cs-load in the organism of “Chernobyl” children with apple-pectin

Nesterenko, SWISS MED WKLY 134:24, 2004

出している雑誌は、上と同じ。

この論文の大意は、ベラルーシの汚染地域であるゴメルの同じ地域の農村の子供達に、汚染されていない食事を与えると同時に、子供達を二つのグループに分け、21日にわたり、一方は偽薬、一方はアップルペクチンを与えると、アップルペクチンを与えた子供達の方がセシウムの排出が速かったということです。いつ実験を行ったかは書いていないのですが、おそらく2003年ではないかと思います。

この論文には、個別の測定値が書いてあるので、検算できます。

YOB=誕生年、average=平均、stdev=標準偏差、Before=実験開始前のセシウム137の内部被曝(Bq/kg)、After=実験終了時のセシウム137の内部被曝(Bq/kg)です。

f:id:buvery:20110716084520j:image:w640

これが、ペクチンを与えず、偽薬を与えたグループ。

f:id:buvery:20110716084551j:image:w640

これが、ペクチンを与えたグループ。このうち、5人の印をつけた人たちは、なぜか終了時に非常に低い値をとっているので、はずれ値ではないかと思います。

f:id:buvery:20110716084638j:image:w640

実験開始前と終了時の内部被曝をグラフにすると、きれいに一時近似(近似からはずれ値を除いていますが、結果はあまり変わらない)できます。ペクチンを与えた方(●)が、ペクチンを与えなかった方(○)より、ばらつきは大きいのですが、それは、値が検出限界の5Bq/kgに近づく程、測定誤差が増えているためだと思います。t-検定をしても、余裕でペクチンを与えた方が、体内セシウム137は速く下がっています。

f:id:buvery:20110716084716j:image:w640

残存割合と開始時のセシウム137でグラフを書いてみると、残存割合は確かに開始時のセシウム内部被曝の量に依存せず、一定であることが分かります。これは、セシウムの排出速度が体内濃度=Cに比例することを意味するから、

dC/dt=-aC ここでaは定数

なので、要するに、体内に残るセシウムは放射能の崩壊と同じく指数関数に従います。

C= c x exp(-at) ここでcはt=0での体内濃度

つまり、

a= -(ln(C/c)/t)

ここで、日数は21日、最小自乗法でもとめた残存割合から、

ペクチンなし:ln(C/c)= ln (0.8261) = -0.1910

ペクチンあり:ln(C/c)= ln (0.3274) = -1.1166

だから、

ペクチンなし: a= -(-0.1910)/21 = 0.0091

ペクチンあり: a= -(-1.1166)/21 = 0.0532

半減期で表せば、

ペクチンなし: 76.2(日)

ペクチンあり: 16.1(日)

ということです。

なんだか、アップルペクチンが効いているようですが、そもそも、ちゃんとした汚染されていない食事を与えていれば、半減期2ヶ月半程でセシウム137はどんどんなくなって、セシウムが蓄積などする筈がないことが分かります。

BELRADからのもう一つの論文 08:55 BELRADからのもう一つの論文を含むブックマーク

アップルペクチンについては、ほとんど同内容の600人規模での論文をBELRADのNesterenkoとドイツの会社との共同で出していて、

Hill, Radiation Protection Dosimetry 125: 523, 2007

STUDIES ON THE CURRENT 137CS BODY BURDEN OF CHILDREN IN BELARUS―CAN THE DOSE BE FURTHER REDUCED?

この雑誌は、Swiss Med Wklyほどマイナーではなく、放射線の測定関係の論文がよく載っている雑誌です。ほぼ同一グループが出してきているものです。ここでの内部被曝は、17−600Bq/kgで、平均は50Bq/kgとなっています。ここでは、ペクチンなしの半減期を69日、ありで27日と計算しています。だいたい再現性はあるようですね。

ただし、ラットを使った別のグループの動物実験では、ものの見事にアップルペクチンが効いていない。 08:55 ただし、ラットを使った別のグループの動物実験では、ものの見事にアップルペクチンが効いていない。を含むブックマーク

Gall, Biochemie 88: 1837, 2006

Comparison of Prussian blue and apple-pectin efficacy on 137Cs decorporation in rats

フランスのグループがラットを使って動物実験を行ったものですが、プルシアンブルーとアップルペクチンを比べたものです。

セシウム137を静脈注射して、同時にプルシアンブルー、アップルペクチンを与えたもの、何も与えないものの3つのグループで比較しています。プルシアンブルーでは、理屈通りに糞便へのセシウムの排出がすすみ、尿中への排出は減るものの、総合すると11日間での結果は、アップルペクチンと何も与えない場合はセシウムが等しく50%くらい残っているのに対して、プルシアンブルーでは25%くらいになる、というのが論文の大意です。

f:id:buvery:20110716085240j:image:w640

図3をみると、アップルペクチンと何も与えていないグループの値は見事に一致し、

f:id:buvery:20110716085315j:image:w640

表1。

f:id:buvery:20110716085334j:image:w640

表1の左の拡大。

f:id:buvery:20110716085347p:image:w640

表1の右の拡大。

表1で、個別の数字を見ても、プルシアンブルーは調べた全ての臓器でセシウムを排出促進しているのに対して、アップルペクチンは何も与えていないグループと見事に一致しています。アップルペクチンは役に立たない、という結果です。

ただし、

  • このグループの使ったアップルペクチンはシグマから買ったもので、BELRADが使っていたVitapectと同じものではないので、いろいろなペクチンによって効果が違うのか*3
  • ラットと人では効果が違うのか
  • 一気に静脈注射した場合と、ずっと体にたまっているセシウムを排出する場合には効果が違うのか

分かりません。

ペクチンもものによっては効かないかもしれませんが、プルシアンブルーは効きます。ただし、プルシアンブルーは急性の重症患者に使うもので、あるかないか分からないようなセシウムの内部被曝を防止するためには使われていません。これについては後日。

以上が最初に述べた結論の理由です。

おまけ。 08:55 おまけ。を含むブックマーク

断片的ながら、Nesterenkoの論文(2004)にはこういう部分があります。全体の分布はよく分かりませんが、非常に高い汚染もあるようです。汚染されていないものを食べさせるだけで、セシウムの蓄積は防げるものですから、最終的には投下する金の問題になるのではないか。

ベルラド放射能防護研究所の移動チームは、子供の臓器のセシウム137の蓄積を測定した。いまのところ16万人を検査している。この地域(1Ci/km2=37kBq/m2以上の汚染地域のこと)の子供達の70−90%の子供達のセシウム137は15−20Bq/kg(体重あたり)を越え、200−400Bq/kgに達する村も多い。測定した最高値はナロブリヤ地区の6700-7300Bq/kgであった。*4

*1:preliminary

*2placebo

*3:ペクチンは複雑な多糖類の総称で、単一の化合物ではない

*4:The mobile teams of the Institute for radioprotection BELRAD measured the 137Cs load in the children’s organism. So far 160000 were checked: the 137Cs levels of 70 to 90% of the children of these regions exceeded 15–20 Bq/kg bodyweight (BW). In many villages the 137Cs levels reached 200–400 Bq/kg BW, the highest values being measured in the Narovlya district with 6700–7300 Bq/kg BW.

 | 
ページビュー
1124334