映画『スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』感想 - 鳥と花が交差する演出

というわけでだいぶ出遅れましたが、映画『スマイルプリキュア!』感想記事です。
今作はTVシリーズでウェルメイドなエピソードを何本も手がけられている若手の黒田成美さんの
初長編監督作ということで期待していましたが、面白い作品になっていて楽しめました。
なので、今回は黒田成美さんの演出にフォーカスして感想を書いていこうと思います。
あ、ネタバレは当然入りますので、ご注意を。まあ、もう結構経ってるのでなんですが……。


本作はまず話がメタなところがあって、演出もそれを受けたものになっています。
絵本の作品内に入ってその物語を再演する展開であるとか、自身の物語を失って暴走する魔王やニコのドラマといった、プリキュア達が別な世界に入り込むストーリーはメタな構造が強い。
導入であるOPで変身前の姿のままTV版OPの5人のプリキュアそれぞれの決めカットと同じポーズや構図になる辺りや、ニコとの出会いのシークエンスが映画内で映画を見るみゆき達という構造になってる辺りなど示唆的ですね。
桃太郎の見得きりをれいかと本物双方同じ構図で見せるのもこうしたメタさが分かりやすい反復の演出になっています。
脚本の米村正二さんが『仮面ライダーディケイド』後半でメインライターになっていたキャリアなのもこの辺りのミソのひとつ。


黒田成美さんらしい演出でいえば、画面に空欄を作りつつ人物一人だけを映すカットなんかにそれを感じましたね。
スイートプリキュア♪』第33話で、母親に諭された響から、別な場所にいる奏へオーバーラップで場面を繋ぐ2カットの構図なんかがそうしたカットの使い方の中でも印象的なものでしょうか。
割とここって所で使う技らしく、本作でも作劇のひとつ大きな要素としてこのカットを要所で効果的に用いていました。
ひとつひとつが独立しているのでなく、シーンをまたいで映像の連なりとしての効果を発揮している感じですね。
具体的に見ていくと、中盤ではハッピーが←向き、ニコが→向きの配置でこのカットを使って描かれます。
黒幕が明らかになるシークエンスにおいて、高所に立つニコとともにこのカットがその画面の空白の大きさと相まって、ハッピーとニコの断絶を強く意識させます。
ニコが部屋で魔王と話す下りではニコが→向き、魔王が←向きの配置で魔王がニコに立ちふさがる形に。
そこからの回想でニコが逃げている向きは←です。つまり過去のニコの性質は今とは反対だった、という形ですね。
そして終盤、ハッピーをかばって魔王の前に立ちはだかるニコは←向きのカットで映されます。
ここでニコとハッピーは同じ方を向く仲となり、ウルトラハッピーはニコを助けるためニコの前に立ち魔王と対峙します。
また、ハッピーに振り向くニコと、ウルトラハッピーがニコに振り向くカットが反復によってつながる描写も良かった。
ハッピーによってニコがかつての物語を取り戻すことと、ニコがハッピーをウルトラハッピーに引き上げること、二つの物語の更新が一つの同じ動きによってつながる、上手い演出だと思います。


とはいえ劇場作品なので、もっと派手な見せ方をする演出というのもあって、こちらもまた良かった。
それというのはタイトルにもある鳥と花のモチーフが交差するような演出です。
鳥というのは肩に羽の意匠のついたプリキュアであり、髪が翼になっているニコであり、巨大な鳥の姿をした魔王でもあります。
また鳥そのもの以外でも、ニコと魔王が会話するシークエンスでの窓枠は鳥かごのようであるし、後半ニコが閉じ込められるのもまた鳥かごです。
鳥がモチーフであるが故に、ニコとプリキュアが対峙する際など、ニコと魔王はより空に近い高所に立ちます。
プリキュア側はフェニックスで応戦し、最後は巨大な翼を備えたウルトラハッピーが新たに誕生します。
花は花そのものだけでなく植物全般であり、魔王が世界中に伸ばす侵略の根、ウルトラハッピーが現れた際辺りに咲き誇る花々のことです。
絵本の世界中を侵略するための魔王の根と世界を救おうとするウルトラハッピーによって咲いた花はともに世界の色を表す象徴になります。
魔王が強い時は力強くも刺々しい根であり、プリキュアが勝つ時は辺り一面が花になる。
すぐに理解ができる描写として機能しますし、物語が思い描く通りに変わる絵本の世界の性質をはっきり表すものでもありますね。
この主要人物に貫かれる鳥のモチーフと、世界の色を印象づける花のモチーフは、魔王を救う場面で交差します。
ウルトラハッピー達の技によって魔王が幾重もの羽に包まれ、その羽が花の蕾を形作るシーンです。
これは肥大化して暴走する魔王を、プリキュアやニコ達が自分たちの知る元あった物語での姿に戻すために行う作業であり、絵本の世界を元に戻す作業でもあります。
魔王が世界の中で居場所があるように再生させるため、プリキュア達やニコのものである翼が世界に関わる植物の、花開く前の蕾を形作る。
二つのモチーフがクライマックスに重なるこの演出が見事でした。


本作の植物モチーフの使い方は何となく『セーラームーン』(特に劇場版R)っぽいなと思ったりもしましたが、
絵コンテや演出協力として『セーラームーン』シリーズで演出をされていた佐々木憲世さんが入っていたのも興味深かったですね。
複数人のコンビネーションというところの強いアクションの組み方やそれに応える作画も良かった部分です。