152.木挽町の路地裏で蕎麦を喰う。喉越しで梅雨払いも粋だね。

湯津上屋

 銀座歌舞伎座の裏辺り、木挽町界隈はなんとも長閑な裏通りである。コロッケパンが美味しいチョウシ屋や割烹おさき、老舗の酒蔵秩父錦など、佇まいその物が素晴らしく「木挽町」と云う町にしっかりと馴染んでいる。
 此の辺りは、まるで時が止まったかのようにひっそりとした路地が多い。何度歩いても、知らない路地を見つけたり、「こんな処に、こんな店が在ったのか」と云う発見も多々ある界隈なのだ。
 新富町に程近い銀座一丁目の小さな路地裏に一軒の蕎麦屋が佇んでいる。それにしても、一体誰がこの路地を通ると云うのだ。此れはもう偶然通らなければ決して見つける事が出来ないのじゃなかろうか。それでも、店はいつも混んでおり暫く外で待つ事になる。
 手打ちそばの「木挽町 湯津上屋」は元々在った日本家屋を綺麗に改築したのだと思うが、実に可愛らしい佇まいだ。外の風が気持ち良い昼どき、玄関が開け放たれて暖簾の向こうに中が見渡せる。外観からもある程度想像は出来たが本当に小さな店だ。小さなカウンター席の向こうでは、ご主人が黙々と蕎麦を茹でている。キリッとした女将さんのてきぱきと働く姿も清々しくて実に気持ちが良い。
 此処は、塩原の蕎麦屋「湯津上屋」の息子さん夫婦が東京に開いた店だそうだが、実家でみっちりと修行を積んだのか、それはもう素晴らしい蕎麦だ。田舎蕎麦の様な色合いだが、太過ぎず、細過ぎずの絶妙な蕎麦はコシも有り喉越しも良い。 
 まずはもりそばだが、この季節にオススメなのは「冷やかけすだち」そばである。初めて食べた時の驚きと感動を是非お裾分けしたいと思う一品である。冷えたそばつゆに浮かぶすだちの香りが蕎麦の味わいを際立たせ、食後の爽快感だけがずっと残りまた味わいたくなる蕎麦なのだ。
木挽町 湯津上屋 中央区銀座1-22-14
03-3567-0838