かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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圧巻の「北朝鮮版クレムリノロジー」/『北朝鮮の指導体制と後継―金正日から金正恩へ』(平井久志)

北朝鮮の指導体制と後継――金正日から金正恩へ (岩波現代文庫)

北朝鮮の指導体制と後継――金正日から金正恩へ (岩波現代文庫)

冷戦期ソ連を分析する手法として西側の研究者やジャーナリストが用いたものに、クレムリノロジーというものがあります。モスクワ・クレムリンの中で誰が力を得つつあり、また誰が脱落したか―などについて情報を得るのが難しかったため、赤の広場での儀式や行事の際、誰がどの位置に座っているか(あるいは「いない」か)で、内部の権力の推移を推し量るというものです。
この本は、北朝鮮版クレムリノロジー、言わば「ピョンヤノロジー」に特化し、金日成時代から金正日死去直前までの平壌の「宮廷」内の人的構成や人事から、この国の体制について説明を試みています。お察しの通り、金正日死去と張成沢らの粛清という人事上の大事件の前に出されたものとはいえ、その手の仕事としては圧巻と言っていいでしょうし、今後にわたってもどのポスト・どの人物に注目すればいいのか、そういう見方を学ぶ上でも有益だと思います。特に個人的には、北朝鮮の挙動などについて分析する上で「平壌の宮廷内のことは分かりませんwww」で通してきたきらいがあるので、「宮廷の覗き方」をじっくり教えていただいたなあという感想です。あと、体制維持のための「先軍思想」が自己目的化することで、民生を圧迫し国際的孤立を先鋭化させてしまうため、かえって「強盛大国」化を妨げてしまう、という指摘は、言われてみれば当然ながら納得させられました。
一方で指摘せざるを得ないのは、やや冗長で、恐らく4分の3くらいの分量でも同じ情報量を盛り込めたろうことや、誤字を含めてやや怪しげな日本語が多いことは目を瞑るにしても、クレムリノロジーも大展開がウリであり、また著者自身も「人物や人事のデータブックとしても活用していただければ」と考えているなら、なぜ人物と事項(少なくとも役職名)の索引を付けなかったのかということ。そこさえあれば、今後平壌でどんな政治変動が起きようとも参照できるような本だと思うので須賀…。