動画"第二次大戦各国死亡人数”と鴻上尚史「不死身の特攻兵について」


テレビの下の棚に二冊ぶ厚い雑誌が…文藝春秋の三月号と四月号でした。母が大腿骨骨折で入院していて、ちょうど父から月後れでやってくる本が二冊たまってたようです。その三月号の巻頭のエッセイ集のところに見つけたのが、鴻上尚史氏の「不死身の特攻兵について」です。その前日、TBSの日曜劇場で「この世界の片隅に」の第一回が放送されました。アニメ版の主役をのんさんが務めた”すずさん”役は、朝のNHK連ドラ「ひよっこ」で東北娘を好演した松本穂香さんでした。夫役を松坂桃李さん。お義姉さんを尾野真千子さん。なかなか期待の持てる初回でした。今、戦争を見直すことはとても大切なことだと思います。

内田樹氏のツィッターで知ったこの動画。
第二次世界大戦で死亡した人数を国別に並べています。
少ない順ですが、こんな風に比較して見たこと、考えたことがなかったので、ショックでした。
日本が300万人ぐらい、アジア全体で2000万人ぐらいと覚えていましたが・・・
ブラジルの2000人からスタートする衝撃の2分数十秒でした。

禿禿
@tutu20170228 7月15日


第二次世界大戰,
各國死亡人數⋯⋯⋯
云中岳
★動画:https://twitter.com/i/status/1018436373253181440

●というわけで、戦争関連、それも特攻関連の本の紹介です。読んでいない本の紹介ですが、これを読んで私も読みたくなりました。

文藝春秋三月号より

不死身の特攻兵について

          

          鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)<作家・演出家>


 九回特攻に出撃して、九回生きて帰ってきた佐々木友次さんについての本『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書を去年上梓しました。
 ありがたいことに好評で、版を重ねています。


 もともと、佐々木さんのことを知ったのは2009年、ある本の短い描写からでした。
 陸軍第一回の特攻隊『万朶隊』の一員だった二十一歳の佐々木さんは、出撃のたびに、「特攻」せず、爆弾を落として生還しました。そのたびに、上官は「次は必ず死んでこい!」と叫びました。
 二度、大本営は軍神として発表しました。新聞で大々的に報道され、天皇にも上奏されていたので、生きていては困るのです。
 それでも、佐々木さんは生きて帰りました。一度は大型船に爆弾を命中させ、もう一度は揚陸艇に至近爆発の損害を与えました。
 それでも、上官は体当たりを求めました。爆弾を命中させたら、その後で体当たりをしろとさえ言いました。
 けれど、二十一歳の佐々木さんは上官の命令に従わず、九回出撃し、九回生還したのです。


 こんな日本人がいたことに僕は衝撃を受けました。今までの「特攻」の常識を覆すような存在でした。けれど、二○○九年、佐々木さんの存在は遠い歴史の彼方だと思っていました。
 ですが、佐々木さんは生きていました。僕は二〇一五年、それから六年後にさまざまな偶然を経て、札幌の病院でお会いします。佐々木さんは目が不自由になっていましたが、意識ははっきりしていて、第一回の出撃の日にちまで正確に記憶していました。
 僕は五回お会いして、四回、計五時間近くインタビューをお願いすることができました。


 佐々木さんは小柄な人でした。身長は160センチ足らず。この人が、九回も上官の命令を無視して生還したのかと思うと、その秘密をどうしても知りたくなりました。


 初期の特攻隊は、ベテランのパイロットが選ばれました。
 国民の戦意昂揚や時局打開のために、どうしても特攻を成功させる必要があったからです。けれど、ベテランパイロットであればあるほど「爆弾を命中させるのではなく、体当たりしろ」という命令は技術の否定であり、パイロットのプライドを傷つけるものでした。彼らは、毎日、激しい急降下爆撃の訓練を積んでいました。事故で殉職するパイロットも多くいました。だからこそ、爆弾を命中させたいと思っていたのに、上層部はただ一回だけの体当たりを命令したのです。

 佐々木さんも、万朶対の体調である岩本益臣大尉も反発しました。けれど、多くのベテランパイロットは、命令に従うしかありませんでした。それが、軍隊です。けれど、佐々木さんは生きたのです。


 どうしてそんなことができたのか、なぜ途中で上官の命令に自暴自棄にならなかったのか、なぜ二十一歳という若さで死刑にも相当する軍規違反を続けられたのか。僕は何度もベッドの佐々木さんに聞きました。


 「特攻隊」を調べていけば、そこには「日本」が浮かび上がります。初期はまだしも、後期、沖縄線になると特攻の成功率は著しく低下します。けれど、誰もやめようとは言いだしませんでした。却って、精神主義的に美化が進みました。実態とかけはなれた美化に、当事者である特攻隊員は苦悩します。


 本書が五万部を突破した頃から、あきらかに読まないまま批判する言葉がネットに出てきましたツィッターでは直接、暴言をなげかけられました。読めば、僕は特攻隊をムダ死になどとは一行も書いてないことが分かります。それは日本人が忘れてはならない厳粛な死なのです。
 けれど、「特攻隊を冒とくするな」とか「アジア解放戦争の意味を分かってない」といわれます。そんな文章を見ながら、厄介な時代に僕達は生きていると思います。


 読んだうえで批判するのなら分かります。けれど、予断とイメージだけで対立していくのは、不毛なことだと悲しくなるのです。それは、特攻隊の時代の精神主義とまったく同じです。実証的なデータで効果を分析するのではなく、ただ観念で断定していくことなのです


 ネットでさまざまな中傷を受けながら、それでも僕は佐々木友次さんの存在を日本人に伝えなければいけないとあらためて思います。そのためには「読まないままの批判」にも負けず、発信を続けようと思っているのです。

アマゾンの書籍紹介を:

●金曜デモでお世話になっている「特別な1日」さんのブログはプロ並みの映画評と書評でおなじみですが、昨年のブログでこの本について熱く語っておられます。ぜひ、こちらも併せて読んでください:http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20171225
☆書評の中から最後の一節を:

細部はともかく、この本の主旨『''いのち''を消費する日本型組織にどうやって立ち向かうか』は非常に重要です。これは努めて現代的なテーマだし、残念ながら今後 一層 大事なテーマになってくると思います。軍隊だけの話ではありません。ここで書かれていることは企業や町内会でもまったく当てはまることだからです。
世界の変化から目を背け内向きの排外主義がはびこり、閉塞感が溢れているのが今の日本です。戦前の暗黒時代に佐々木さんのような人がいた、ということを知るだけでも勇気が出ますし、何よりも、日本型組織にどうやって立ち向かうかを考えるための優れた材料をこの本は提供してくれます。このような時期に出版されたということも含めて、大変良い本だと思います。

◎猛暑の東京五輪、福島の原発事故後の再稼働、西日本豪雨の際の政府の対応、そして炎天下行われる甲子園の高校野球・・・日本型組織の持つ様々な問題は、あの戦争中の軍隊での理不尽極まりない非科学的で非民主的な精神主義や事大主義を引きずっていはしないか…考えてみたいです。
(写真は昨日の芦原公園。一番下:新宮晋さんの葦のモニュメントに夏の日が反射)