2004-01-02 投稿作品
■[創作][ノベル] 〜炎海の遠き記憶〜

蒼海の中に不吉な黒煙があがった。
海上要塞と称された超弩級戦艦《エルシア》を圧倒的な兵力により包囲した敵艦隊は、怒涛のような砲撃を浴びせ、それでも《エルシア》はSTコーティングによる複層強化装甲を盾として砲火の嵐から同盟国艦隊を守りながらどうにか戦線をもちこたえていた。
だが、《エルシア》最終防衛ライン突破はイコール帝国滅亡と同義であった。その鉄の要塞が青い海のなかで炎上している。
「おいおいおい! いくら《エルシア》嬢ちゃんでもあんな攻撃じゃ長くもたねえぞ!! もう見捨てたっていいだろあんなお荷物!!」
「少し黙っててください――それができないからお嬢ちゃんが踏ん張ってるんじゃないですか――そう思うならもっと飛ばしてくださいよ少佐」
「黙れよ青二才―― がッ!」
とサウザーエリル少佐は罵声をたたきつけ、操縦桿を鋭く切った。
機体は水平にかたむきながら空をなめらかにスライドする。それまでいた空間を後方から放たれたレーザーがほぼ同時に薙ぎ払う。
数瞬おくれて、少佐の駆る戦闘機の後方にいくつかの火球が空に咲いていた。
「青二才が、いい腕してるじゃねえか。まあそれくらいやってくれねえと本当に単なる役立たずの青二才だがな」
「無駄口叩いてる暇があったらさっさと救出にいってください」
「おうよ!」
追撃機を瞬時に撃墜したナウル一等航空兵に答え、サウザーエリルは最後のブースターを点火する。
「これで飛んであと数十分だ。はん、もうエンジンもたねえよなやっぱ……マドリーゼ、生きて帰れたらたっぷり愛してやるからちいとばかしだけたのんだぜ……」
サウザー機を補足した敵艦隊から、迎撃の対空火器がむけられる。空は光線と火線の美しいショーと化しておそるべきたった一機の援軍を迎え撃つ。
「さあて、これから弾幕のキスの嵐だぜ。手厚い歓迎には思いっきり熱い情熱でこたえるのが男の流儀ってやつだ、若造! 横Gに気をつけやがれよ!」
ナウルはただ静かに照準を見据える。サウザーの操る戦闘機は、物理力を超えたとしか思えないシャープな連続横スライドで青いキャンパスに複雑な紋様をえがきだす。遠くからこの光景を見つめるものがいたとしたら、この飛行機雲と無数の弾幕により描かれた蒼穹の芸術にただ溜息をついたにちがいない。
「射程に入ったぞ!!」
戦闘機に積んだ《システム》が作動する。衛星軌道上空のあらゆる感知危機を妨害するジャミング装備も、この新システムの走査には回避する術をもたなかった。
天空から、幾条もの青白い光が舞い降りる。
それはさながら囚人に下された神罰のように。
的確に大艦隊を撃ち抜いていく軌道上からの衛星レーザーによっていくつもの水柱が作られていった。
「……また生き残りましたね、あのお嬢ちゃん。まさに奇跡の艦ですね」
「ま、運だけは強えからな、あの嬢ちゃんは。我等が勝利の女神に敬礼、ってな」
「ところで少佐、……墜落してます」
「おっといけねえ。まあいつものことじゃねえか。そんじゃ着水に備えとけよ!」
……もういいかげん慣れましたよ、とあきらめのつぶやいてをこぼし、ナウルを乗せた愛すべき機体はどこまでも広く遠い海の青へと吸い込まれるようにスピードを落としはじめた。
■[創作][ノベル][萌え]メイドさんといっしょ

秋の夕陽をカーテンで遮ると、ロココ調の椅子に腰かけたその人はすっと片足を上げた。サキコは椅子に座りながらタイツを脱ぎ、こちらをむく。
(……そんなわけない。気づいてるわけない)
必死で動揺をおさえようとしても目は釘付けになっている。
そういえばこのクローゼット、横に机があり、卓上には彼女の父親の写真が飾られていた。そちらに微笑んだのだろう。
(そもそもこんなのは神様が悪いんじゃないか。不可抗力だ。僕はサキコを呼びにきただけなんだから)
役にも立たない懺悔をいくら繰り返しても時間はけっしてとまらない。
クローゼットの隙間から見える光景はとても甘美で、タイツを脱ぎおえたサキコは、次に女給服のボタンに手をかけた。
「早く着替えないと、ぼっちゃまを待たせてしまう」
夕陽の朱に照らされたサキコはこちらを見つめると、また薄く笑った。


