2011-11-20
■[読書日記]古井由吉『蜩の声』読了
「子供の行方」。震災を契機に、ということなのだろうか、幼年時の空襲体験を「視覚・聴覚」を鍵にして語っている。記憶の中には、映像は強烈に残っているだが、そこに音はない。思い返すほどに無音になる。無音というのは虚無に通じる。視界まで消えたら本当の虚無、あの世に行くしかないのだろう。
近年の他の作品と比べると、全体的に緩やかな息づかいで季節とともに生きる感覚が濃厚。これが老年の境地なのだろうか。ここで繰り返し、さまざまな形で語られる男女の性愛やある種の極限的状況、それらはすべて、破滅や自壊に向かっているようにも思えるというのに、不思議と絶望感がない。というよりも、絶望することを、やんわりとではあるが、拒否している。この姿勢から紡ぎ出された言葉たちは、棘はないのに不思議と刺さる。そして読む者の過去の経験を無理やり総点検させようとする。これまたやんわりと、ではあるのだが。
とかく、妙な魅力に包まれすぎた問題作。「これが生涯最後の作品」と言われても納得してしまうほどの味わい、そして終幕感がある。
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/28
- メディア: 単行本
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