『太平洋の防波堤/愛人(ラマン)/悲しみよこんにちは』

 この全集だけは読破するぞ、と今のところ思っているので、このいちばん苦手な感じのする巻もがんばって読みました。思春期の少女の複雑な心情、とか言われてもあんまり関心が湧かないもんな〜。娘でもいればまた違うんだろうけど。デュラスもサガンも今までスルーしてきて、こんな機会でもなければ一生読むこともなかったろうな。
 『太平洋の防波堤』と『ラマン』は作者の生い立ちを元にした、同じ背景を持つ小説なのだけど、同じ作者が書いたとは思えないほど全然違う印象を受けた。前者はデビューして間もない頃に書かれたもので、後者はだいぶ老成してからの作品だそうだ。『太平洋〜』の方は、濃いキャラの母親を軸として娘シュザンヌと息子ジョゼフが、母への愛としがらみに苦しみながらそれぞれの道を探っていくという長くて内容の詰まった読み応えのある小説で、『ラマン』の方は歳をとった主人公が、時系列もバラバラに詩のような流麗な文章で過去を綴っていくというもの。どちらが好みかと聞かれたら私は『太平洋〜』の方だ。ジョゼフが人妻リーナと知り合って関係を結ぶまでの語りの部分など、池澤さんの解説にもあったけどすごく面白かった。
 『悲しみよこんにちは』はトヨザキ社長と岡野宏文さんが『百年の誤読 海外文学篇』で「紙のムダ」とまで書いていたので、読むのが恐ろしかったのだけど、そこまでひどくないとは思った。文体などは凝っていて確かに巧いと感じた。けどセシルの言動には何の共感も感動も受けなかったな〜。ひとりの人間の人生をまるごと損なっておいて「たまに思い出して悲しみよこんにちは」ってなんなんだよそれ、と憤りを感じて、あ、これが年寄りの感想なのね、と・・。