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2007-07-13

[]市民を標的としたテロはわりにあわない、というお話

岡田斗司夫の「「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)」は、現代社会においていかに世界征服が非現実的であり、かつわりにあわないかを、PDACサイクルを用いつつ分析した良書*1。これまでTV番組やアニメで登場した様々な「悪の組織」の問題点を指摘しつつ、なぜ彼らが世界征服を実現できないのかを淡々と語る彼の口調が面白くて仕方なかった。目的と方向性を失った「悪の組織」へのコンサルティング本という視点から読んでも面白い。死ね死ね団の件では思わず爆笑してしまった。

三菱総研編「全予測2030年のニッポン―世界、経済、技術はこう変わる」のp34-36に「昆虫が兵器になる日」と題したコラムがある。2006年3月からDARPAが昆虫をサイボーグ化し、爆弾発見や偵察に使うという研究プロジェクトが始まったとのこと。蛹の段階で昆虫にMEMS(Micro Electro Mechanical System)を埋め込み、そのMEMSが埋め込まれた成虫をフェロモン等で操る、らしい。このサイボーグ化された昆虫はHI-MEMS(Hybrid Insect MEMS)と呼ばれる。当該コラムではこのHI-MEMSが人を殺傷する目的で活用される殺人兵器となり、これまでの戦争の概念を変えてしまう可能性を示唆している。

DARPAのサイトにHI-MEMSについての解説がある。さすがに生物兵器として利用する具体例は記載されていないが。

Hybrid Insect MEMS (HI-MEMS)

The goal of the MEMS, inside the insects, will be to control the locomotion by obtaining motion trajectories either from GPS coordinates, or using RF, optical, ultrasonic signals based remote control. The control of locomotion will be investigated using several approaches. These include direct electrical muscle excitation, electrical stimulation of neurons, projection of ultrasonic pulses simulating bats, projection of pheromones, electromechanical stimulation of insect sensory cells, and presentation of optical cues with micro-optical visual presentation. The intimate control of insects with embedded microsystems will enable insect cyborgs, which could carry one or more sensors, such as a microphone or a gas sensor, to relay back information gathered from the target destination.

HI-MEMS derived technologies will enable many robotic capabilities at low cost, impacting the development of future autonomous defense systems.

http://www.darpa.mil/MTO/Programs/himems/index.html

今後上記のような兵器が、これまでの大量殺戮を目的とした戦術根本から変えてしまう可能性は十分にある。

Bruce Schneirのブログ経由で興味深い論文を見つけた。

カルフォルニア大学政治学科で博士課程に在籍するMax Abrahmsがハーバード大学行政大学院にあるBelfer Center for Science and International Affairsでリサーチ・アソシエートとしてテロリズムについての研究を行った際に執筆した論文で、その名も"Why Terrorism Does Not Work"。

端折って内容を簡単に説明してしまうと、岡田斗司夫の「「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)」と同じことを、実在するテロリストを対象にやってしまったのである。これはすごい。

Abrahmsはこれまでの政治学におけるテロについての言説に疑問を持つ。

Terrorist groups attack civilians to coerce their governments into making policy concessions, but does this strategy work?(International Security 31:2 p42)

テロリスト集団は特定の国家の市民を攻撃し、彼らの政府に対して政治的譲歩を行うよう強要する。しかし、この方法はそもそも有効なのだろうか。彼はこのテーゼが果たして実証データに基づいた指摘であるかを疑問視する。そもそも、テロが強制手段として有効であり、テロを行った集団が政治的目的を達成したかを立証するためにこれまで十分な実証データが用いられたことはなかった(p42)。

To date, political scientists have neither analyzed the outcomes of a large number of terrorist campaigns nor attempted to specify the antecedent conditions for terrorism to work.(International Security 31:2 p43)

The notion that terrorism is an effective coercive instrument is sustained by either single case studies or a few well-known terrorist victories, namely, by Hezbollah, the Tamil Tigers, and Palestinian terrorist groups.(International Security 31:2 p45)

そこで彼は2001年以降米国国務省によってFTO(Foreign Terrorist Organization)と認定されたテロリスト集団のうち28集団の状況を基に集計を行い興味深い2つの発見をしている(p43)*2

  1. これら28集団の42個ある政治的目的のうち、部分的にでも成功したのは僅か7%であり、その成功度合は標的選択に依存している。
  2. テロリスト集団がどのような政治的目的を持っているかに関係なく、軍事関係者ではなく市民を標的としたテロが行われた場合、その目的が達成されることは無い。

つまり、彼らはその政治的目的を達成することが極めて少なく、その成功率はテロの手段そのものに依存しているらしい、のである(p43-44)。

彼はまずテロリズムを

  1. 政府に対しその政策を変更するよう強制するstrategic terrorism
  2. 金銭や囚人の取得を目的としたredempive terrorism

に分け(p46)、前者のみをリサーチ対象とする。後者は政府の政策変更を要求しないからである。また、テロ攻撃が行われた影響を

  1. テロ攻撃の実施によって発生した物理的な被害の度合であるcombat effectiveness
  2. テロ攻撃そのものの成功の如何に関係なく、政治的目的の強制的変更を実現できたかを計るstrategic effectiveness

の2つに分け(p46)、後者がどれだけ実現できたかを検証する。前者は物理的被害を発生させるものの、テロリスト集団が目的とする政治的目的の達成とは関係がない副次的影響とこの論文では捉えているからだ。また、この研究ではテロリズムが対象政府の政策変更を実現できたかを測ることを目的としているため、たとえば国際的な注目や協力を集めるといった中間的な目標は除外している(p47)*3

テロの成功度合を測るスケールとして以下の4つを採用している(p48)。

  • total success:テロリスト集団の政治的目的が完全に達成された状態
  • no success:テロリスト集団の政治的目的実現への前進が全く無かった状態
  • partial success/limited success:上記2つの中間にある状態を影響の度合いによって定義

p49とp50に、テロリスト集団のリスト、目的、標的(軍事関係者/市民)、結果のテーブルがあるのだが、そのほとんどはNo Successで、特に標的が市民となっているものは全ての結果がNo Successとなっている。

28集団の42個ある政治的目的のうち、total successあるいはpartial successであったものが3件で、割合にして7%。limited successを加えたとしても17%の成功率、である。経済制裁の成功率は34%であることを考慮すると、この割合はあまりにも低い(p52)。テロリズムは強制手段として有効ではない、ということになる*4

では、なぜ市民を標的にしたテロ攻撃は政治的目的の達成に失敗してしまうのか。そして、なぜ冒頭で私は生物兵器が戦争の在り方を変えてしまう可能性について示唆したのか。

後半へつづく(予定)

*1:実際にPDACサイクルがこの本のなかで使われているわけではないが、仮にコンサルタントが同じことをやろうと思ったらこのフレームワークを使った方が簡単に分析できるはず

*2:ちなみに、このFTOのリストにはオウム真理教も含まれている

*3:この研究ではオウム真理教も研究対象としてカウントされている。オウム真理教が1995年3月20日に行った地下鉄サリン事件は、その規模は大きく被害も甚大であったものの、彼らの政治的目的:Establish utopian society in Japanは実現されなかった(p49)

*4:ちなみに、この論文のタイトル、"Why Terrorism Does Not Work"は、テロ攻撃が政策変更のための有効な強制手段だと論じたRobert A.Papeが1997年にInternational Securityに投稿した"Why Economic Sanctions Do Not Work"を皮肉ったものだと思われる。

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