マンガのコレクター、米アイオワ州で逮捕される。

ひさしぶりの更新がこういう内容なのはちょっと不本意だが、しばらく前から噂には聞いていた事件の経緯が(少し)紹介されていたので一応書いておこうと思う。


日本のマンガを多数所持するアメリカの38歳の男性が猥褻物所有で逮捕された。

アメリカにおいて「子供のもの」とされるコミックスの性的表現規制は日本よりも厳しく、書店員が逮捕されるなど過去にもコミックス販売を巡る事件は多く存在するが*1、今回の事件が過去の事例と違うのは、ひとりのコレクターが個人的な所有に関して逮捕された点。「表現の自由」を著しく侵害しているというのが弁護側の見解だ。

ちなみに下の記事の冒頭に出てくる「コミック・ブック・リーガル・ディフェンス・ファンド(the Comic Book Legal Defense Fund)」)(以下CBLDF)というのはコミックブック業界によって設立された、業界人を対象にした法的問題に関する支援基金。例えば成人向けコミックスをIDを確認せずに販売したなどの理由でコミックス専門店の店員が逮捕された時など、弁護士を派遣し、裁判を戦う際の資金援助などをする。サンディエゴのコミックス・コンベンションなどでは、このCBLDFに資金を調達するための大規模なオークションが行われることもある。

↓下はアメリカのコミックス、玩具などのエンターテイメント業界サイトICv2による記事「CBLDFが猥褻罪事件で逮捕されたコレクターの弁護に立つ(CBLDF in Manga Obscenity Case: Assisting Defense of Collector)」(10月10日)の要約。

日本から取り寄せたマンガの所有を理由に最高20年の禁固刑の罪で起訴されたアイオワに住むコレクター、クリストファー・ハンドリーの訴訟に関してCBLDFが弁護側顧問に就任することが決定した。現在事件は「ユナイテッド・ディフェンス・グループ」のエリック・チェイスが担当弁護士をしており、CBLDFは米国憲法修正第1項(言論の自由)の専門家に加えて専門的知識を持った弁護側証人を選ぶ際の金銭的援助も行う予定にしている。


38歳のハードリーは、未成年の性的行動を含む猥褻描写があると政府が主張する本の所持のため、PROTECT法(児童虐待に関する法律)のもとに起訴された。


CBLDFのチャールズ・ブラウンステインによると、今回の起訴には特に問題がある。「今回の事件で政府は絵の所持を理由に個人のコレクターを起訴しました。CBLDFは過去に表現の自由を守るため販売員やマンガ家を弁護してきましたが、今回のようにコミック本を持っていたという理由で連邦政府が一般市民から自由を奪おうとするケースを経験するのは初めてです。」


ハードリーは1200冊のマンガのコレクションを所持し、その中の一握りの本の中の描写によって起訴された。CBLDF所属の弁護士であるバートン・ジョセフは状況をこう解説する。


「CBLDFとその依頼人の弁護をしてきたわたしの長いキャリアの中でも、個人の家において個人が私的に楽しむための絵の所有で、一般の消費者が逮捕されるという状況に出会ったことはありませんでした。この起訴は絵と絵を描く人にとって、そして特にコミックスという創造的で新しい試みをする分野にとって、表現の自由の規制という点で大きな影響を持つでしょう。歴史的に見ても、前衛芸術の性質を誤解し、猥褻罪を曲解するものです。」


既に裁判官がPROTECT法の一部は違憲だという判決を出したため、その時点でエリック・チェイス率いる弁護団は表現自由の勝利を得たとも言える。しかしハードリー自身は、違憲と判断の出ていない部分を根拠に起訴されたままだ。つまりこれから問題の本が猥褻の判断基準となるミラー・テストの3段階に該当するかを陪審員がチェックし、法的に猥褻かどうかが審議されることになる。

ミラー・テスト

  1. 一般的の人が見て性的な欲望を喚起するか
  2. 性的行動が、特に適用される州法の定義にてらして、明らかに不快な描き方をされているか
  3. 全体として文学的、芸術的、政治的、科学的価値がないか


陪審員が被告を有罪とするには、問題の描写が上記3つの全てに該当すると判断を下す必要がある。

*1:過去のコミックス関連の逮捕事件は例えばコチラ