celebes2006-02-12

マカッサルを拠点として、周辺の地方都市に向かう場合、いろいろな交通手段が考えられます。スラウェシ科研では、まとまった人数がみんなで一緒に調査へ出かける際には、船や車を借り上げることがよくあります。船の場合は、遅沢の「チンタラウト」号を使うこともありますが、バランロンポ島の漁師さんの木造ボート、ジョロロを借り上げたりもします。ジョロロの場合は、一日の移動距離は、100㎞以下ですが、短時間で効率よく、島から島への移動することが可能です。車を借り上げる場合、自家用車としても人気の高い四輪駆動車のキジャンがよく使われます。ただし、乗車人数が6人を超えると、少々、窮屈。その場合には、観光用小型バスのコルトがもっぱら活躍します。さて、調査者一人もしくは調査協力者と二人くらいで移動する場合は、何を移動手段に使うでしょうか。
陸上での移動の場合は、マカッサルと地方都市を結ぶ大型バスがなんといっても快適で安全でしょう。目的地に最寄りのターミナルまで、途中に1〜2回程度の食事休憩などを含めて、7−10時間程度の距離を移動します。料金は5−6万ルピア程度で、バスは最新型のものが導入されるようになっており、ひじょうに快適です。5時間程度の移動であれば、パンテル(Panther)にぎゅうぎゅう詰めになって、運ばれる旅ができます。運転手を入れて、一台に最低でも10人が詰め込まれます。パンテルは、「パンサー」という自動車の固有名詞が、いつのまにやら普通名詞化されたものです。座席列が3列になっている四輪駆動車のこと。驚異的なスピードでもって、競争相手のパンテルに抜きつ抜かれつしながら、街道をひた走ります。そのスピードたるや、初めて乗った人は、とても生きて目的地に到着できないのではないかと思うほど。追い越しの技術は、確かに一級品ではありますが、怖がりの人は、次回も乗ろうとは決して思わないでしょう。まさに心臓が縮む思いをすることができます。
しかしながら、パンテルの旅は、病みつきになる楽しみもまたあります。街道筋の名産売り場には必ず停車して、小休止があるのです。季節の果物や名産物のある宿場町をゆっくりと楽しむことができます。短い時間に、売り子の人から、地方の情報を聞き出すのも、また楽しいものです。
また、猛スピードで走る車の乗客たちも、運命共同体のような思いを共有するからでしょうか、買ったばかりの名物などを分け合ったり、小さい子ども連れの両親を休ませるために、順番に膝の上に子どもを抱いたりと、和気藹々とした雰囲気も生まれてきます。こうなると、如何にして他の車に追い越されずに目的地に速く着くかを信条とするドライバーの気持ちも丸くなり、少しずつ、快適なスピードに落ち着いてきます。
先日の調査で訪れたマンダール地方では、季節のサラック、ドリアン、街道の名産であるダンゲ(ヤシ砂糖とココナツ、モチ米粉の焼き菓子)、ゴラ・カンブ(ヤシ砂糖とココナツの練り菓子)などを食べながら、どこからどこへと人が移動するのかという話に花が咲きました。普段、船の旅ばかりしていると、景色が次々と変わる陸上の風景が、とても楽しいものに思われます。
さて来年度は、スラウェシ科研の最終年度です。パンテルの速度よろしく、あっという間に駆け抜けたような気がしますが、どのような軌跡を残すことができたのでしょうか。今度の松山合宿では、そのあたりの話をじっくりとすることになりそうです。
(浜元聡子:京都大学東南アジア研究所)