自衛隊の実力と課題 解説:佐藤常寛(元海将補)
自衛隊の戦闘部隊としての実力とは?
Q:自衛隊の戦闘部隊としての実力については、どうお考えでしょうか?
A:第5回の「日本の防衛力の課題」で言及したとおり、自衛隊に欠落している「核戦力」と「敵策源地を遠隔攻撃する能力」を除けば、自衛隊の実力は高いと判断できます。
限られた防衛予算の中で、逐年整備してきた戦闘装備の数は少ないものの、最先端の兵器を揃えていると判断して間違いありません。
イラク戦争で明らかになったように、近代戦は最新・最先端技術を採り入れた兵器に対して、技術的に劣った旧兵器では対抗できません。この事実を認識した主要国は、軍装備の近代化に真剣に取り組んでいます。装備の近代化は、所要の国防費がなくては実現できないのも事実です。
- 作者: 井上和彦
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2010/07/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 18回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
SIPRIが公表(2010年3月)した主要国の国防費 ※緑文字はSIPRI推定値
国 名 | 2008年国防費 | 対GDP(%) | 2009年国防費 |
---|---|---|---|
アメリカ | 6,160億7,300万米ドル | 4.3% | 6,632億5,500万米ドル |
ロシア | 583億米ドル | 3.5% | 610億米ドル |
中 国 | 862億米ドル | 2% | 988億米ドル |
イギリス | 656億1,500万米ドル | 2.5% | 692億7,100万米ドル |
フランス | 660億900万米ドル | 2.3% | 673億1,600万米ドル |
ドイツ | 467億5,900万米ドル | 1.3% | 480億2,200万米ドル |
インド | 323億3,400万米ドル | 2.6% | 366億米ドル |
日本 | 462億9,600万米ドル | 0.9% | 468億5,900万米ドル |
日本とドイツの対GDP比がほぼ1%前後であるほか、米国を除いた中で推定値ながら中国の国防費が突出していることがわかります。特に注意を要するのは、中国の実際の国防費は、この推定値の約2倍だと見積もられる点です。
中国の軍事力増大に懸念を抱く諸国は、国防費の透明性を求めるのですが、中国がこの要求に応じない姿勢が問題です。一衣帯水の隣国が近年の経済発展を梃子に軍の近代化を促進しながら、わが国の領海を侵犯しては、外洋海軍への能力を拡大している現実は、海洋国として看過できない問題だと理解してください。
- 作者: 呉軍華
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/08/09
- メディア: ハードカバー
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
2時間でわかる図解 日本を囲む軍事力の構図―北朝鮮、中国、その脅威の実態。アメリカの軍事覇権の将来は? (2時間でわかる図解シリーズ)
- 作者: 田岡俊次
- 出版社/メーカー: 中経出版
- 発売日: 2003/09
- メディア: 単行本
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
A:わが国の装備のほとんどは、米国の最先端技術開発に基づいた、ライセンス生産、輸入、あるいは、技術供与による国産で占められます。
イージス護衛艦、P−3C対潜哨戒機、F−15戦闘機、SM−3ミサイル、ペトリオットPAC−3、等は最新鋭の能力を保持しています。
- 作者: 北村淳
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2009/05/15
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 27回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
自衛隊の実力を支えている、いまひとつは「優秀な隊員」、すなわち人的資源です。最先端技術の結晶である新装備を支障なく操作する能力に長けた隊員は、米国との共同訓練、また、米国本土等での試験発射において好成績を収めています。
さらには国際貢献現場での無事故は、この優秀な隊員の厳正な「規律」、旺盛な「士気」によって達成されています。海上自衛隊が毎年派遣する遠洋航海での無事故記録も、外地で事故が多発する列国海軍からは羨望と感嘆の目で見られているのも事実です。
以上の検討結果からは、実戦の経験はないものの、優秀な隊員が支える自衛隊の近代装備による戦闘能力は高いと判断できます。
- 作者: 菊池雅之
- 出版社/メーカー: かや書房
- 発売日: 1996/04
- メディア: 単行本
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 阿川尚之
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/02/01
- メディア: 新書
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
自衛隊が抱える本質的な課題とは何か?
Q:自衛隊の本質的な課題についてはどのようにお考えですか?
A:本質的な「課題」は、自衛隊の地位、言い換えるならば、日本が選択している議会制民主主義体制の中での「位置づけ」を明確にすることです。自衛隊が「軍隊」であるか否か、他国から見れば大変奇異に感じられる論争が、永遠と56年間も続けられる政治風土こそが、本質的な問題です。
「国を守る」根本が、国民の生命財産であり、領域であり、そして、主権、すなわち、国民が選択している体制であるならば、守るべき体制を代表する政治こそが、自衛隊を正しく認知し、国民に「国防」の重要性を説いて然るべきなのです。
- 作者: 井上和彦,福原雅也
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2009/06/02
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
- 作者: 石破茂,原望
- 出版社/メーカー: あおば出版
- 発売日: 2007/01/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 19回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
A:平成21年(2009年)1月の世論調査の結果では80.9%の国民が「自衛隊に対してよい、又は、悪くない印象」を持っていることが明らかになっています。こうした国民感情を無視して、「通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものと考える」組織として、自衛隊を位置づけている政治の現状こそが異常なのです。早急に見直しを図るべきです。
もし仮に「憲法九条」を隠れ蓑として、奇妙な解釈を今後も継続した場合、国内での地位に不安を抱く若者が、自衛隊への入隊を忌避し始めることが一番の問題です。口々に「平和」を唱え、周辺に実在する脅威には積極的に目をつぶる。そうした「無責任平和主義者」は、このような忌避事態こそ望むものだと小躍りするかもしれません。
しかし、そうした平和ボケした「無責任」な考えが蔓延し、ひとたび日本の権力の中枢に位置し、支配することになれば、日米同盟が大きく揺らぎ、結果として日本周辺の領空・領海で頻発する紛争や大規模な武力攻撃を抑止する軍事力が衰えることになります。
その結果、日本の領土周辺に軍事的な空洞、空白が増えることを待つ脅威国家に利することになるという事実すら理解していない。これは大問題です。直接間接を問わず武力による侵略が現実に起こってからでは、もはや後の祭りなのです。
- 作者: 佐瀬昌盛
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2001/05
- メディア: 新書
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
- 作者: 豊下楢彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/07/20
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 23回
- この商品を含むブログ (18件) を見る
A:少子化は今後さらには進む傾向にあるでしょう。自衛隊の隊員確保が近い将来、より一層困難になることは避けられません。非婚化、未婚化、少子化は国家の大計を揺るがす問題です。こうした国力の低下が国際競争の現実の中で相対的な劣化につながることも憂慮されます。
少子化問題の専門家ではありませんが、安易なばら撒き福祉政策ばかりでは問題は何ひとつ解決しないのではないかと思います。いまの日本にとって最も重要な政策課題のひとつとして、安心して子どもを産み、愛情豊かに育てることができる環境、そのために必要なインフラ整備に取り組むべきではないでしょうか。
少子化克服への最終処方箋―政府・企業・地域・個人の連携による解決策
- 作者: 島田晴雄,渥美由喜
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2007/02/02
- メディア: 単行本
- クリック: 50回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
- 作者: 内閣府
- 出版社/メーカー: 佐伯印刷
- 発売日: 2009/04/30
- メディア: 大型本
- クリック: 48回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 作者: 湯沢雍彦
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2001/12
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 70回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
これまでこの連載で再三取り上げてきた沖縄と普天間基地移設問題に関する記事の中でも申し上げましたが、老若男女を問わず、広く国民的議論を喚起したいと思っています。
まず政府はもっともっと情報を開示し、正しい知識を増やすことにつながる情報発信も必要です。胸襟を開いて話し合い、歴史を知り、痛みを分かち合うことの意義を議論すべきだと思います。こうした議論を丁寧に繰り返すことが命の尊さを知る絶好の教育機会につながるのです。
- 作者: ケント・E.カルダー,Kent E. Calder,武井楊一
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/05/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 44回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
A:「国防」を考えることなく平和に暮らせる理想の世界を実現することは、日本周辺の脅威の実情を見れば、現実問題として不可能です。夢や理想と現実を混同せず、リアリズムに徹することも「国防」を考えるうえで重要です。
軍事費の伸びをもとに脅威を煽るような単純な議論ではなく、国防を考えるときは、軍事費の増大が創り出す対象国の新たな戦力(能力)、その能力の運用目的(意図)を冷静に分析する必要があります。さらに対象国の国家軍事戦略、それを支える経済戦略など多角的かつリアルに現実を見据え、正確なデータを把握しなければなりません。
そして想定しうる限りの事態に正面から冷静に対応できる勇気、文字通り「抑止力」が機能するように、物心両面における「治にいて、乱を忘れず(備えよ、常に)」の姿勢そのものが、いまの日本に求められていると考えます。
私は「憲法九条」の見直しと「国防軍」としての自衛隊の位置づけを「憲法」に明記することが、自衛隊を希望する若者を勇気づけ、優秀な隊員確保を可能にすると考えています。人的資源の確保こそ、わが国の防衛体制をより確かなものにし、国防力の強化につながる重要課題なのです。
こうした本質的な問題を解決した後で、「専守防衛」の中で「遠隔攻撃力の保持」、米国の「核の傘」の下で「核問題」の解決に向けた現実的な努力を払うべきだと考えています。
- 作者: 井芹浩文
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/05/16
- メディア: 新書
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
- 作者: 中曽根康弘,松本健一,西部邁
- 出版社/メーカー: ビジネス社
- 発売日: 2004/09
- メディア: 単行本
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (3件) を見る