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2010-08-14 国防最前線 いまここにある危機の本質<第十三回>

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核兵器廃絶への長い道のり 解説:佐藤常寛(元海将補)

| 12:11 | 核兵器廃絶への長い道のり 解説:佐藤常寛(元海将補)を含むブックマーク 核兵器廃絶への長い道のり 解説:佐藤常寛(元海将補)のブックマークコメント

先週は核兵器をめぐる現実についてお話を伺いました。

今週は核兵器廃絶に向けた努力、解決策についてお話を伺います。

Q:NPTの悪用ともいえる原子力の平和利用目的を隠れ蓑にした核兵器開発という動きがあります。核の拡散がもたらす脅威について、いま一度お教えください。

A:核分裂を利用した「原子爆弾」には、ウラン235を濃縮して製造する「ウラン原爆広島投下型)」とウランの核分裂によって生成されるプルトニウム239を利用した「プルトニウム型原爆(長崎投下型)」とがあります。

ウランを濃縮するためには専用の「遠心分離機」が必要であり、原爆製造に必要な量のプルトニウムを生成するためには、原子炉で長時間ウランを核分裂させなければなりません。

このため「遠心分離機」の大量入手、IAEAの監視を逸脱した原子炉の増設は核開発の疑惑の原因となります。さらに疑惑を持たれる行動を呷(あお)るような国家指導者の過激な言動が、疑惑を一層深くさせているといえます。

イランシリアは、ブッシュ前米大統領が「テロ支援国家」と名指ししていました。こうした国家が核兵器を保持し「アルカーイダ」等のテログループに核兵器を渡すことになれば、曲がりなりにもNPTによって果たしてきた国際的枠組みの「核兵器管理」が崩壊し、テログループによる核攻撃が無差別に引き起こされる新たな脅威が生まれます。

さらに近年の科学技術は使用目的に応じた小型核兵器の製造を可能にし、プルトニウム原爆は1.5kgのプルトニウムの量で超臨界に達するようになりました。こうした「ミニ・ニューク」と呼ばれる小型核兵器が、テログループの手に入ることが最大の脅威といえます。

日経サイエンス 2008年 02月号 [雑誌]

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核兵器のしくみ (講談社現代新書)

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Q:やはり今日最大の脅威はテロリスト、テロ支援国家と呼ばれる国々の核兵器や生物化学兵器使用にあると思いますが、いかがでしょうか?

A:そのとおりです。米ソ冷戦時代には、東西間での大規模な核戦争の脅威がありましたが、世界破滅に至る結果を恐れた当事者間で最悪の事態を避ける妥協が図られました。キューバ危機1962年)における米ソの対応がその典型です。

しかしながら、冷戦構造が崩壊した後、突出した米国軍事力に対抗する新たな挑戦が、2001.9.11の「アルカーイダ」によるニューヨーク世界貿易センターへのテロ攻撃だったことは記憶に新しいところです。北朝鮮・イラン・キューバ・シリア等の「テロ支援国家」と「アルカーイダ」に代表されるテロリストに共通しているものは、集団的安全保障により「世界の平和と安定」を目指す「国連」の枠組みを無視する行動です。

倒壊する巨塔〈上〉―アルカイダと「9・11」への道

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Q:国際連合の取り組みはどういうものがありますか?

A:「国連」はNPTだけでなく「生物兵器禁止条約(BWC:Biological Weapons Convention)1972年(加盟163ヶ国)」「化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)1997年(加盟185ヶ国)」をそれぞれ成立させていますが、テロ支援国家のうち、北朝鮮、シリアがCWCに加盟していません。

また2004年パキスタンのカーン博士による「核闇市場」が摘発され、北朝鮮、イラン、リビアにウラン濃縮技術が供与された事実、さらにドバイを本拠とするブラック・マーケットで核技術が売買された事実が明らかになりました。こうした不法な取引によってテロ支援国家、あるいは、テログループが核兵器(ミニ・ニューク)、生物・化学兵器を簡単に入手する恐れは十分にあります。

この不法取引を防止するには、売買の資金を国際的に監視する体制を強化し、取引に利用されている銀行口座を凍結させる必要があります。北朝鮮が武器売買・麻薬密輸・偽札偽造で得た資金を、米国を中心とした国際金融システムによって凍結させ、同国の核開発・ミサイル開発への資金投入を阻止したような措置が必要です。今日の世界ではテロ支援国家あるいはテログループの大量破壊兵器の保持が最大の脅威なのです。

Q:日本では核攻撃、生物化学兵器に関する防衛を具体的にどのように考えているのでしょうか?

A:自衛隊の第一線部隊では「CBR(化学・生物・放射能)戦」の対策を採っていますが、有事想定の一般国民を防衛する「国民保護法」に「市民防衛(Civil Defense)」の思想が盛り込まれていないため、十分ではありません。

ノルウェーの例と比較してみるとその違いは明確になります。ノルウェー王国は小国ながら戦時の「市民防衛」体制が整えられており、防空壕を兼ねた洞窟内に地域住民全てを収容して、入り口を密閉することによってCBRに対処するように日頃から準備しています。

平時は洞窟内のプールや体育館を運動に、図書室や会議室をグループ活動にそれぞれ活用し、戦時にはプールを飲み水に、体育館・図書室・会議室は臨時の居住空間に転用する等、準備されています。

これは、第二次大戦中、ナチスドイツに占領された苦い経験から導き出した、「自分の身は自ら守る」との考えが根底にあるのです。この「市民防衛」の体制は「国を守る」意思が国民に定着しない限り、きわめて困難だといえます。

戦う!サバイバル

戦う!サバイバル

Q:核兵器、非人道的兵器開発を食い止める方策について、どう取り組んでいけば良いのでしょうか?

A:ここまで、大量破壊兵器の「現実」に目を向けましたが、現実対処と併せて「理想」についても言及したいと思います。

まず「核兵器の脅威」に晒されている我が国の現実対処について、「非核三原則」の国防方針を一部転換して、「非核二原則」にする必要を第五回で解説しました。

冷戦末期の欧州で、NATOソ連との間で熾烈な戦いとなったINF(中距離核兵力)全廃条約締結の経緯は、中国・北朝鮮の「核の脅威」に一方的に晒されている我が国にとって、参考になります。

暴走国家・北朝鮮の狙い

暴走国家・北朝鮮の狙い

INF全廃までの経緯

INF全廃までの経緯は次のとおりです。

1977年西ドイツシュミット首相(当時)は米国がソ連との核軍縮交渉でINFを含めないことを非難します。ソ連が欧州に配備したSS20ミサイルは全欧州を射程圏内に入れているにも拘らず、SS20がワシントンに届かないために米国がこれを脅威として扱わず、核軍縮の議題にしないことを非難したのです。

この後、米国のレーガン大統領(当時)はSS20に対抗して米国INFパーシング?の欧州配備を決断、各地で配備反対のデモが起こる(後年、ゴルバチョフ自らが、ソ連が背後で工作していたことを認めた)ものの、レーガンは配備を敢然と遂行します。この米国の対応にパーシングIIの脅威に屈したソ連のゴルバチョフ書記長(当時)は結局交渉のテーブルに着くことになりました。

ゴルバチョフファクター

ゴルバチョフファクター

そこでINF全廃条約が成立(1987年)し、西欧を覆っていた核兵器の脅威が取り除かれたのです。この時、西ドイツが決断した、パーシングIIの配備と配備完了後に米ソが同時にINFを全廃する提案はきわめて巧妙であり、また的を射ていました。

ゴルバチョフ回想録〈上巻〉

ゴルバチョフ回想録〈上巻〉

ゴルバチョフ回想録〈下巻〉

ゴルバチョフ回想録〈下巻〉

何故ならば冷戦崩壊後にゴルバチョフは朝日新聞とのインタビューの中で、

「ソ連にとって、NATOに配備された米国のINFは、こめかみに突きつけられたピストルのような存在だった。発射後二分でベラルーシに届くし、四、五分でモスクワに到達できた。ソ連のINFは米国本土までは届かない。NATO配備のINFはソ連の指導部や人口、経済の中心部を射程内に置いていた。これに対してソ連は何の防御手段も無かった」

と述べているからです(1997年12月18日付朝日新聞記事)。

Q:当時の西ドイツといまの日本が置かれている状況は似ているようにも思えますが、いかがですか?

A:そうです。当時の西ドイツが置かれていた軍事環境を現在の我が国に置き換えると、中国・北朝鮮の「核の脅威」に一方的に晒されている状況が酷似しています。西ドイツと大きく違うのは、我が国が一方的に宣言している「非核三原則」のために、同盟国の米国に対して、中国・北朝鮮の核ミサイルに対抗する手段に、米国の核巡航ミサイルを配備要請できません。

つまり、いまの日本では米国によって核巡航ミサイルを完全配備した後、中国・北朝鮮の核ミサイルを相互に撤廃しようという交渉にすら臨むことが不可能で、西ドイツのような対策が取れないのです。現在の「非核三原則」のままでは、非核地帯の日本が中国・北朝鮮の「核兵器脅威」の前に素手で立っていることになります。

Q:しかし核武装はできないとなると、具体的な対応策はありますか?

A:我が国が核武装しない理由は前回お話しました。そこで具体策として「非核三原則」のうち「持ち込ませず」の原則を破棄し、「非核二原則」に改めることが米国の「核抑止力」を担保する手段だと考えます。非核三原則を宣言した当時とは我が国周辺の軍事状況が大きく変化し、北朝鮮が核武装した現実にも柔軟に対応できるのです。

核兵器はなくせるか?―Yes,We Can!!

核兵器はなくせるか?―Yes,We Can!!

核廃絶への具体的なロードマップ、解決策

Q:核廃絶への具体的な提言をお聞かせください。

A:まず「核問題」解決の理想について、お話しましょう。

2009年4月5日、米国のオバマ大統領はチェコプラハで歴史的な核軍縮演説を行いました。この演説に「核問題解決の理想」が語られていると確信します。大統領は演説の途中、「核兵器を使用したことがあるただ一つの核保有国として、米国は行動する道義的な責任を持っている」として、広島・長崎への原爆投下に対する事実にも触れながら、21世紀の核兵器の未来について次のように述べています(要約)。

生声CD付き [対訳]オバマ「核なき世界」演説

生声CD付き [対訳]オバマ「核なき世界」演説

  1. 全面戦争の危険は去ったが、核拡散により核攻撃のリスクは高まっており、核兵器の無い平和で安全な世界を追求する。
  2. 国家の安全戦略における核兵器の役割を小さくするが、こうした兵器が存在する限り、抑止するための効果的なミサイル保有量を維持する。
  3. 核実験を禁止するため、包括的核実験禁止条約(CTBT:注1)の批准を直ちに、積極的に追及する。
  4. 核兵器に使用される物質の生産を終わらせるため、核保有国で使用される核物質の生産を検証可能な形で終わらせる条約(カットオフ条約:注2)の締結を目指す。
  5. 核拡散防止条約(NPT)を協調の基礎として強化する。民生用の核協力として「国際核燃料バンク」の新たな枠組みを提唱する。
  6. 北朝鮮がミサイル発射によりルール違反をしたが、世界的な管理体制を築くために団結して、北朝鮮に圧力を加えなければならない。
  7. イランが積極的な査察を伴うのであれば、平和的な核エネルギーの利用を認める。イランの核と弾道ミサイル開発が脅威である限りチェコとポーランドミサイル防衛(MD)計画を進める。脅威が無くなればMD計画は実施しない。
  8. テロリストによる核兵器入手を阻止しなければならない。これは世界の安全保障にとり最も差し迫った究極の脅威である。従って、世界中の無防備な核物質を4年以内に安全とする国際的な試みを宣言する。
  9. 闇市場を破壊し、運搬される物質を探知し、危険な取引を中断させるために金融的な手段を使用する。
オバマ国連総会演説[CD付] (オバマ大統領演説シリーズ)

オバマ国連総会演説[CD付] (オバマ大統領演説シリーズ)

  • 注1(CTBT:Comprehensive Nuclear−Test−Ban Treaty)宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止する条約。182ヶ国加盟(2010年5月現在:外務省資料)。発効要件国44ヶ国が指定されているが、このうち、米国が未批准、インド、パキスタンが未署名のため条約そのものが未発効状態である。この状態を打開して効力を発揮させる意図をオバマ大統領は宣言した。

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  • 注2(FMCT:Fissile Material Cut−off Treaty)「兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)」核保有国及びNPT非締約国(特にインド、パキスタン、イスラエル)の核能力を凍結することが目的の条約で、1993年9月に米国のクリントン大統領(当時)が国連総会演説で提案した。その後、1998年に核実験を実施したパキスタンの修正要求等もあって現在に至るまで条約交渉は進んでいない。この現状を打開して核兵器製造用の物質生産を終わらせるため、オバマ大統領が締結を宣言した。

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少し長い引用になりましたが、オバマ大統領が狙いとする「核なき世界」の実現に向け、NPT体制の強化、CTBTの発効、FMCTの締結を図る一方、核兵器が存在する限りにおいては、「抑止力」とすべき所要のミサイル維持を宣言して、現実の脅威対処に遺漏の無いことも強調しています。

また、世界の安全保障にとって究極の脅威を、テロリストの核武装と位置付け、核兵器の闇市場の破壊と取引阻止のために、国際金融機関で対処すべきだとしています。これらの対処方針は、現状における核兵器、非人道的兵器開発を食い止める方策を網羅しているといえます。

マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書)

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オバマ語録

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なお、最後に補足するならばエネルギーの活用について、化石燃料への依存を少なくするために、風や太陽エネルギーの活用を提唱している点が注目されます。現実に米国の風力発電は、2009年で世界の22%を占めており(エネルギー白書2010)、「風と太陽エネルギー」よる発電がやがて原子力発電を凌駕するようになれば、原子炉で生成される核物質に神経を逆立てる必要が無くなる時代が訪れるかも知れません。

もっとくわしく知りたい太陽光発電のすべて (NEWTONムック)

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風力発電機とデンマーク・モデル―地縁技術から革新への途

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<第十三回:了>(聞き手・構成:小関達哉)