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2007-12-25

[]花とアリス  (ネタばれあり)

私の大好きな作品の一つである。岩井俊二作品の中では一番好きかもしれない。

この作品の感想を映画感想レビューサイトでもたらロリコンでキモイキモイとキモイを連発している人がいた。人の意見なのでそう感じてしまったのなら仕方ないが確かにこの映画にはロリコン的要素がある事は否定できない。

「花とアリス」はファンタジー映画と言っていい。そして漫画的である。実際映画の中で漫画を題材にした地名とかでてくる。駅の名前が藤子とか石ノ森とかだったり花(鈴木安)が所属する落語研究会でつけられた名前が花家ピュンピュン丸。(花のピュンピュン丸という漫画があるのです)他の落研のメンバーも漫画をもじった名前だし。そういった細かいお遊びを岩井は映画が「ファンタジー」であることをわかるようにしているのだが、役者がみんな巧くてファンタジーの世界に現実感を与えてくれる。

物事の発端は仲良しの花とアリス(あだ名。本名は有栖川徹子。演じるは蒼井優)がいっしょにつるんでるうち花がある男子に一目ぼれする。宮本先輩(郭智博)だ。この宮本先輩が頭を強く打って朦朧としている時に花が「記憶喪失になって私と恋人だったこと忘れてしまった」とウソをついて無理矢理思い込ませてしまうことに始まる。もうこの設定だけで漫画と言うかファンタジーなのだが思春期のあの空気と岩井の演出でなんとか納得して観続けてしまえるのだ。やがてそのウソがバレそうになった時花はつじつまを合わせるためにアリスが「宮本先輩の元彼女はアリスで・・・」とウソにウソを重ねていくうちに困った事に宮本先輩がアリスのこと好きになってしまうのである。

このややこしい三角関係と岩井ワールドの演出、役者の巧さがものすごくいいバランスで展開していくと思う。

「花とアリス」だが実際はアリス役の蒼井優がものすごい演技力と存在感で鈴木杏を食ってしまったと思う。もちろん鈴木杏も演技は巧いのだが蒼井優がすごすぎる。この間で振り回される宮本先輩の存在感なんて物語の小道具に過ぎない。

蒼井優ってすごい、と思わされたのがこの映画の中でいくつもあるのだが演技だけのシーンなら平泉成とのシーンである。アリスの親は離婚していて平泉は離れて暮らす父である。そして父のとは離婚後不定期に会ったりしている。(ちなみにアリスが離婚前に名乗っていた父親の姓は「黒柳」つまりアリスは元黒柳徹子。岩井俊二遊びすぎ!)この「久しぶりに会う父と娘」の空気を実に巧く演じている。ベテランの平泉が巧いのはもちろんだが蒼井の微妙にギクシャクした感じから食事してだんだん打ち解けていく演技がすごくいい。別れ際で父を慕う娘の今度いつ会えるかの不安やいらつき、照れくさい愛情表現も観る側にしっかりと伝わってくる。

この数分間の「親子の再会」シーンだけでも寸劇として成り立ってしまうほど二人の演技が冴えている。

またこの映画をロリコン映画と思わせてくれる要素の一つに花トアリスがバレエを習っていると言う設定だ。友達の文化祭の発表する写真のためにバレエ教室のみんなでチュチュ(バレエの衣装)を着てはしゃぐシーンがある。これは確かにロリコンっぽいといわれても仕方ないかと思う。ついでにバレエ習っている娘というのは太くても細くても「バレエ筋」みたいなものができあがっていてバレエやっています、っぽい体つきになるのだがやはり鈴木杏だけは撮影のためのやっつけバレエという感じでバレエ教室の中で一人だけ浮いている。あとこのバレエ教室の娘達岩井がバレエできる娘をオーディションで選んだと見えて柔軟性はもちろんちょっとしたポーズも巧い。やはりその中でポーズ一つとっても鈴木杏は浮きまくり。

この物語は宮本先輩との三角関係を含めつつも花は宮本先輩にウソを隠し通すこととアリスはスカウトされて(このスカウトする芸能事務所のふせえりがまたいい味出してるんだ)タレントを目指してオーディションを受けまくるが全然自分をアピールできずにオーディションに落ちまくる日々が平行して進んでいく。

そしてアリスと宮本先輩の間の中で全てのウソがばれる日が来る。そのウソがばれた以上花に内緒でデートしていた事ができなくなる。アリスと宮本先輩の別れのシーンだが、これが実に美しい。アリスのセリフのが父親とのやりとりでの伏線が生かされているところもいいしそのセリフを言う時アリスがずいっと宮本先輩に近寄る。宮本先輩がちょっとドキッとしてしまう距離まで。あの距離はキスできる距離だ。十代の男子であの距離まで女の子に迫られてうろたえないやつはいない。そして公園で緑の中に舞う細かい虫さえも演出の効果とまで思えてしまう。岩井ワールドにおける岩井マジックだ、これは。

この映画のラストの持って行き方もよくできている。花とアリスこの二人は花は宮本先輩へのウソ、アリスはオーディションで自己アピールできない自分というそれぞれの抑圧を持っている。その両方をラストでいっぺんに開放するのだ。その演出も花は文化祭の舞台の幕袖の暗い中で背中で浴衣の帯を結んでくれている宮本先輩に(浴衣の帯を結べる男子高校生がいるのかいな、と言う疑問があったが)べそをかきながら顔のアップのみでウソを告白する。片やアリスはオーディションで光差し込むスタジオの裏で自分から特技・バレエというプロフィールから「踊ってもいいですか?」と画面の隅から隅までいっぱいにつかってバレエを披露する。おなじ「開放」のシーンであっても花は「静」アリスは「動」と上手く分けている。分けつつも両方の自己の開放シーンに必ず全く無関心な人のシーンをカットインして二人の自己解放が「静」と「動」でありつつも同じ「開放」であるということを示唆している演出もうまい。(花は落研先輩の舞台での落語、アリスはオーディションに立ち会った編集者が携帯でどうでもいい話を外で話しているシーンが入る)

でもやはり最大の見せ場はアリスのバレエのシーンであろう。それは舞台ではなく撮影スタジオの裏で、バレエの衣装ではなく制服で(あざといね、ここらへん)トウシューズがないので紙コップとガムテの即席トウシューズで(こういうとこ岩井はアイデアマンですよね、映画の他の小物も含めて)踊る蒼井優が輝いている。最後のアラベスクがあまりにもぶれないのでスローにしているのかまた見えないように支える小道具が仕込んであるのかと思ったがスローにしたって安定しているしメイキングDVDで何も細工していないのがわかった。蒼井優の身体能力である。もちろん何度も取り直して一番きれいなアラベスクを編集で選んだのだろうけれどそれにしたって美しい。このバレエシーンですべて映画のハイライト蒼井優がかっさらっていったといってもいい。

この映画細かい演出一つ一つ言っていくときりがないくらい細部にこっていて本当に面白い。カメオ出演している役者も豪華だし今でもよく観返す。私が大好きな映画の一つです。

ただロリコンキモイとかリアリティねえよとか気に障る人には全然合わないと思います。ファンタジーとして観る分には最高ですが。


あと、この映画音楽も岩井俊二が作っている。いい映画は音楽もいいというのは鉄則で(音楽で台無し、と言う映画もあるがたいていつまらない映画は劇中の音楽もひどい)岩井はミュージッククリップ出身の監督だから映画の構想を練りながら頭の中で音楽も流れているんだと思う。(リリイ・シュシュなんてまさにそうだ)「花とアリス」は音楽もすごくいいです。サントラ買っちゃいました。

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