長崎の土木作業員の祐一(妻夫木聡)は出会い系サイトで知り合った佳乃と待ち合わせをしていたが、彼女はその場所で他の男の車に乗って行ってしまう。
後を追いかけた祐一は峠で彼女を殺してしまうことになる。その後いつも通りの日常に戻った祐一は、ある日出会い系サイトで知った光代という女性と会い、刹那的な愛におちるのだが…
観賞日9月14日
【78点】
結論から言えば、「悪人」はいません。
誰かが「悪人」ではなく、殺人という事実だけが「悪人」を作り上げる。
この作品では、ある意味皆悪どいと言えば悪どい。
殺人をしてしまった祐一は勿論、殺された側の女も中々…
出会い系サイトで売春紛いをやる割に、金持ちイケメンの前ではやたらとしつこくウザく喋る。
金持ちイケメンも、自分が被害者が死んだことに因果関係がないと考えて、仲間たちと飲んで被害者を話のタネにする。
祐一の祖母(樹木希林)も、祐一の罪に目を背けるようにして逃げている。
被害者の父(柄本明)も、娘が売春していたことは後半では忘れている。
誰かに傷付けられた人間が、痛みから誰かを傷付ける時に悲劇は起きる。憎しみは連鎖する。
この役を熱望した妻夫木聡は、素晴らしかった。
祐一は殆ど自分から喋らない人間で、こちらが彼を理解しようとするには空気と表情から理解するしかない。
その表情が、正に完璧だった。こちらに解釈させる余白を残す…
これ以上のものはない。
爽やか俳優だと思っていると痛い目を見ます。
賞を授賞した深津絵里は、いわゆる尽くす女,光代を演じる。
だが、彼女は祐一の渇きを癒すと同時に彼を側に引き止めてしまう。
そして愛を知った彼に自分を自覚させる。
祐一と光代は互いに凄まじい孤独にあり、出会い系であっても真の出会いを求めていた。
何度か交わるシーンがあるが、互いの渇きを必死になんとかしようとする泥臭さが凄まじい。
この映画は、夜中に孤独を感じたりしたことがある人は確実に共感出来る。
孤独という「寒さ」が、この映画からはひしひしと伝わってくる。
冬という季節設定もよりそのイメージを強くさせている。
わからなければ、逆に今までの人生で孤独感を味わったことが無い、幸せな人だろう。
2人が辿り着く灯台は、
最初は祐一にとって孤独の象徴であったが、
2人でこの場所で過ごし、時間をともにしたという点で、
最終的に祐一に一筋だけでも光を照らしてくれた場所になったと言える。
柄本明演ずる被害者の父親は、若者に問いかける。
「あんた大切な人はおるね?」と。
大切な人がいなく、何でも出来ると思いこむ現代に鋭く突き刺さる言葉。
この作品の中での一貫したテーマがはじめて表にふと表れた瞬間だった。