アフリカに医師として赴任しているアントン(ミカエル・パーシュブラント)は、その地での子供達に歓迎を受けながらも、理不尽な暴力の傷跡を目の当たりにし苦しんでいた。
かたや、母を亡くしたクリスチャンはデンマークへ移り住み、学校でいじめをうけているエリアスと出会う。エリアスは父であるアントンを慕っているが、夫婦間は別居状態にあり、弟と母と暮らしていた。
エリアスを救うために暴力によって報復を試みるクリスチャン。
日々の大人たちの振る舞いに、「目には目を」の考え方で行動するクリスチャンには、どうしても納得がいかなかった…
観賞日
2011年8月22日
【78点】
アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞受賞作品。
邦題は『未来を生きる君たちへ』というこの作品。
デンマーク映画というわけで、本当の題名は邦題とは違う。
『HAEVNEN』というのが原題で、訳は「復讐」。
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aeを合体した文字
さらに英題は変わり、『IN A BETTER WORLD』。
そして其処から今の邦題『未来を生きる君たちへ』へと変化したようだ。
この変化だけをみると、「また原作汚し邦題かよ…」と思った。
(割と最近そういう作品が多いから(笑)
だが実は、この題名の変化は作品自体の持つ、両面性を示唆する素晴らしい題名なのだとわかる。
いや、むしろ全ての題名が作品の題名としてふさわしい。全て考慮に入れて観賞することをオススメしたいほどだ。
「復讐」から「より良い世界」とは何なのかを学び、「未来へ生きる君たちへ」と繋げたい。そういった、ある意味タイトルによるリレーが繰り広げられている。
北欧独特の静かな、だが飽きない映画。
徹夜明けでいつでも寝落ちできる状況ながらも、最後までしっかりと観れた点は特筆に価する。ハラハラドキドキではなく、じっくりと考えながら観れる。
カメラワークのズームアップがうるさい印象を持つ部分もあったのは残念だが、カメラは人物の苦悩をしっかりと捉えきれていた。
ストーリー自体は、原題の意味「復讐」が示すとおり、
「復讐」というものがキーポイントとなる。
母親を亡くし、父親への不信感を募らせるクリスチャンは、常に「目には目を、歯に歯を」を信じるようになっていた。エリアスへのいじめをやめさせるために相手を警棒で滅多打ちにし、ナイフで脅すほどに。
これでいじめは確かにやんだ。クリスチャンは「力」によって自身の正当性を得てしまった。だが結果的には「復讐」の「力」のみによる正当性。
やりすぎの感もあるクリスチャン。
観ている側にとっては、明らかにこれは間違っていると思う。
しかし、手段を持たない(知らない)子供にとっては最善なのだと思えてしまう。
「なぜダメなのか?」そう問うクリスチャンに対して大人たちは理知的な言葉を並びたてようとするが、母親の死によって言葉のリアリティを無くしてしまった彼にとっては言葉は綺麗に見せようとする嘘に見える。
「やられたらやりかえす」という論理は正しいのだろうか?
正しくない。そう、頭ではわかっている。
だがそれは頭の中で。頭が理性的に働くときだけ。
自分の大切な"もの"を傷つけられたときにその論理を守り続けることが出来るだろうか?
相手を赦すことが出来るだろうか?
「復讐」ではなく、「赦す」こと。
この映画は様々な「復讐」を通して、それを私達に厳しく問いかけてくる。
大人ですらも、時おり感情により「赦し」を遠ざけてしまう。劇中ではその例がちりばめられていて、ひしひしと伝わるリアルさをもつ。だからこそこの映画のテーマは説得性をもつ。
ただ少年が間違いを犯して、反省して、終わり。なんていうのではただの綺麗ごと。
この映画では明確に正しいか、正しくないかは提示されない。
状況によっては「復讐」が正しいようにも見える。
だから私たち自身が受け止めて、考える必要がある。
「鋼の錬金術師」のテーマの中でも
「やったらやりかえされる」ということはしばしばテーマにされた。
内戦によって民族を殲滅された人間や家族を失った人間。その心の痛みは計り知れない。
ハガレンでもその痛みを知る人間が、「耐えねばならんのだよ」「理不尽を赦していないだけ」などの台詞を喋っていたことがすぐに頭に浮かぶが、ここで読者に問いかけられたのは今回の映画と同じだ。
1人が1人を「赦す」ことが、In A better worldへと繋がる。
それを未来へとつなげていかなければいけないと身につまされる、勉強になる映画だった。
↓予告編はコチラから↓
http://www.youtube.com/watch?v=rKve7ltH8Co
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