猿の惑星 創世記-ジェネシス-


サンフランシスコの製薬会社ジェネシスで働くウィル(ジェームズ・フランコ)は、アルツハイマー病への新薬を開発していた。

ある日、新薬の投与により1匹の猿が驚くべき知能の伸びをみせた。ところが突然の暴走により射殺されてしまう。ビジネスライクな所長からプロジェクトの中止を言い渡されるウィルだったが、猿の遺していた子供を預かることになる。

"シーザー"と名づけた猿の子供に、高い知能があることに気付いたウィルはシーザーを育てることにする…




観賞日

2011年10月11日





【85点】





猿の惑星 創世記』は、王道のSF作品の流れを汲みながらも、まさにシリーズの新たな旅立ちを予感させるワクワクする作品に仕上がった。

今までのシリーズを観ていなくても問題ないのも新しい"原点"として、素晴らしい点。

"親子"のドラマあり、派手なアクションあり、現実世界への皮肉あり、と構成する要素に事欠かない点も魅力的だ。













原題は『Rise of The Planet of the Apes』となっている。


原題と変えるとなんだか作品の意味がよくわからなくなるという指摘を様々な作品でしてきたが、今作はそういったことがない。

むしろ出色の出来だ。
というのも、原題も邦題も、作品内にかかっている部分がある。

邦題の「創世記=ジェネシス」は、ウィルが新薬を開発した会社ジェネシス社にかかっているのだろう。
そして観終わるころには原題の「Rise」がかかっている部分がわかるだろう。何気ない所だけども、その点に気がついた時には思わず「おお!」と声をあげたくなるほどだった。憎い演出に「やるなぁ」と。
















私が最も注目していたのは、猿の表現だった。


驚くことに猿はすべてCGを使用しているが、CG臭さはまったくない。


猿のシーザーには、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラムや『キングコング』でキングコングを演じたアンディ・サーキスが起用された。

いわゆるこの手法は、『アバター』などにも使用された、役者の表情や動きを正確にCGに落とし込むもので、"猿"に演技させることを可能にしている。もちろん、それには役者のリアルな演技が求められるけれども…だからこそアンディ・サーキスのすごさが際立つ。










この技術によって、私たちは表情から猿たちの感情を読み取ることができる。特に知能が発達したシーザーは豊かな表情をみせる。
ものは言えないが、行動や表情が雄弁に語ってくれる。この映画を観る際は、そこを見逃さないでほしい。

正直、シーザーには感情移入せざるをえないのがこの映画の"マジック"だろう。

そこには技術だけではなく、ストーリーの面も大きく関係している。














ウィルと認知症の父親の関係、そしてウィルとシーザーの疑似親子の関係。このふたつはどちらも独立していて、それぞれで物語としてしっかり確立している。
子の立場でもウィルを観ることができ、親の立場でもウィルを観ることができる点が秀逸だ。




シーザーの視点では、人間としても猿としても中途半端な立ち位置にたたされた彼の表情の切なさが記憶に残っている。

とにかく切ない。シーザーに関してはそう言えるのかも知れない。


この日は『ツレがうつになりまして。』と同時に観たせいで、非常に動物に対して良い印象になりました(笑)














ストーリーが単純という声や書き込みもみえたが、それはある程度予想できたことだ。
(昔の作品を知っている私はストーリー上のある"事実"に驚いたが)


そして今生きる私たちがそう思うのも無理はない、というのもこのシリーズの特徴だったりする。
なぜなら猿の惑星シリーズは、単純なわけではなく、毎回世相を反映したつくりになっているからだ。












たとえば、
初代猿の惑星の原作は、作者が日本軍に捕らわれの身になっていたことから着想を得たものであった。(要は、サルまねの得意な黄色人にとらえられていた経験を皮肉ったもの)





さらに映画に関しては、
1968年公開だった1作目『猿の惑星』は、核戦争を引き起こしかねない世界への警鐘であったり、当時キング牧師の暗殺によりより過激に活発化した黒人民主主義運動をあらわしているとも言われている。



2作目ではプラカードを持って戦争反対を唄うチンパンジーたちの姿がみられるが、そのままヴェトナム戦争のころを表している。











そう考えると、同時期の作品と題材とするものが似通うのも無理はない。


そして今作の契機が、新薬の開発というのもまさに世相的。昔だったら核戦争の危機あたりがフューチャーされるだろうが、現在の状況で考えると遺伝子という神の領域にまで踏み込みつつあるこのテーマがぴったりだ。

常に私達に問いかけてくる『猿の惑星』シリーズは、常に時代の鏡なのだといえる。







これから新たなシリーズが始まるかもしれないが、きっとまた私たちをワクワクさせてくれることは間違いないだろう。そしてまた私たちに警鐘をならすのだろう。







↓予告編
http://www.youtube.com/watch?v=U7rGu-GKZmE