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2007-12-22

コミックシュリンクをしないとどうなるか?(その2) コミックにシュリンクをしないとどうなるか?(その2)を含むブックマーク コミックにシュリンクをしないとどうなるか?(その2)のブックマークコメント

さて、ここでシュリンクの歴史を紐解いてみましょう。そもそもコミックのシュリンクはいつ誰が始めたものなのでしょうか?コミックのシュリンクを書店業界で一番最初に始めた人は「こうしたほうが売上があがる」と必ずや考えていたはずなのです。そりゃそうですよね。では、その方のお話を聞いてみることにしましょう。

「シュリンクを始めたきっかけはね、コミックが猛烈に売れ始めた当時、コミックを買いにきてたお客さんは、ほとんどみんな雑誌で連載を読んでから来てたんですね。当時はコミック雑誌の種類も少なかったこともあって、今とは比べ物にならないくらい雑誌がよく売れてたし読まれてたんです。だから本屋にコミックを買いに来るお客さんは、基本的にみんな内容を知ってたんやね。一回読んだやつを買いに来てるわけ。じゃあ、コミックコーナーで立ち読みをしてる人たちはどうかというと、彼らは絶対に買わへんわけですよ。一回読んだやつをまた立ち読みしてるというのは買う意思がないわけなんやから。そうなると、立ち読みしてる人たちは本を汚すだけで本屋にとってお客さんやないから、買う人にとっては邪魔なだけやったんです。そこで読めへんようにしようとしてメーカーさんと一緒に開発したんがシュリンクなんです」

こう語っていたのは97年当時京都七条伝説的な漫画専門店「BIGBOSS」を経営されていた石田さん。シュリンク創始者の一人です。さくまあきら氏の十年前の日記奇跡的に写真付で登場していたのがウェブ上に残っていたのでリンクはっておきます。(http://sakumania.com/diary/nikki/971230.html

このBIGBOSSはすでに閉店して存在していないのですが、私は一度だけ訪問したことがあります。でも私が行ったとき、BIGBOSSでは実はコミックのシュリンクはしてなかったのです。これは何故なんでしょうか?

「やはり時代が変わりました。もうシュリンクする時代やないと思います。最近のお客さんはコミック雑誌で連載を読んでないんですよ。どれ読んだらええんかわからんくらいいっぱい種類出てるしね。そうなったらね、お客さんはそのマンガ自体を知らないわけですから、店に来て面白いかどうか探して買うしかないんです。立ち読みしとる人たちと言ったら昔は邪魔もんでしかなかったんやけど、今はお客さんかもしれへんわけです。だからシュリンクは外したほうがいい。シュリンクを始めた私が言うんだから間違いないです」

なるほど、シュリンクの創始者は完全にシュリンク否定派になったわけですね。でもそんなことしたら売上さがるんじゃないですか?

「よく売上さがるんじゃないかと言われるんですが、実際に私は前にいた店で実験したことがあるんですね。結果、シュリンクを外しても売上は変わりませんでした。むしろ若干あがったかあがらんかぐらいの実績でした。ただ、その店ではしばらくシュリンクははずしてたんですが、今は復活してます。売上どうこうというよりね、立ち読み客が増えたことでお客さんのマナーが悪くなってね、メンテナンスもでけへんし、お客さんが安心して買えないような店になってしもたんです」

なるほど。これが1997年当時の現実だったわけですね。この話からわかることを整理してみましょう。まずシュリンクというのは、売上効果云々を考える前に元々は美本を販売するというお客様へのサービスから始まっていたということ。シュリンクをはずしても売上はほとんど変わらないということ。コミックを店舗で購入されるお客様は3種類の客層にわけることができるということです。

3種類の客層というのはこういうグルーピングです。

まずは、シュリンクしてなきゃ嫌だ、というグループですね。このグループをを仮にAとしましょう。Aの方は、コミックの単行本を「モノ」としても評価する傾向が強いので、きれいなモノでないと満足しません。シュリンクをしていない本は誰かが読んだかもしれない=「キタナイ」と評価を下すグループです。基本的にもう買うタイトルは決まっていて、「目的買い」中心のグループです。

逆にシュリンクをしている本は買わないグループもあります。このグループをBとします。Bの方は、コミックの単行本の「モノ」としての価値にはどちらかといえば無頓着で、中に何が書かれているかという「情報」を重視するタイプです。Bグループの人にとっては、コミック=「エンタテイメントコンテンツ(情報)」であり、パッケージば美しいかどうかは評価の優先順位として低めです。ちょっと読んでみて面白そうだったら買うという「衝動買い」が中心になります。シュリンクされている本は、読めないので「衝動買い」の対象にならない、ということになります。

最後にCグループの人たちです。Cグループの人たちは、AやBの人のようなコミックに対してのこだわりがそこまで深くない無党派層です。そこの書店がシュリンクしてるから買うとか買わないとかではなく、単に家から近いから買いに来ているだけで、シュリンクの有無のために、わざわざ隣町のお店に買う店を変えるような面倒くさいことはしません。ただし、軽度のAとか軽度のBとかは混じっていて、CからAになる人とかBになる人、のようにABグループの母集団であるという性格ももっています。もちろん、人数としては圧倒的にCグループが多いんです。

これを石田さんの話にあてはめるとこうなります。最初シュリンクをしているとき店の顧客は、A+Cでした。シュリンクをやめると、顧客からAが離れてBが加わりB+Cになります。A+CからB+Cに変わっても売上が変わらなかったということはA=Bだったということですね。で、Aに比べてBのマナーがよくなくて、Cにも影響が出てきた、と言ってるわけです。

私は翌年の98年、このABCの比率を自店でアンケート調査をして調べてみました。A>Bであれば、シュリンクをやめれば売上が下がってしまいますからね。設問は二つでしたが、驚くべき結果でした。

「あなたは、きれいな本を購入するために、コミックはビニールパックされているほうがよいですか?」

YES90%、NO10%。

「中身を読めるようにするために、コミックのビニールパックは無いほうがよいですか?」

YES90%、NO10%。

うわ!全く同じ人に対して聞いているアンケートなのに、シュリンク賛成反対のどっちも90%という結果になってしまいました。両方ともYESという、この一見矛盾している回答が出来てしまうのはCグループの方であると判断すると、Aが10%、Bが10%、Cが80%ということになります。

やはりA=Bでした。実際、この年に私の店を含めて10店舗でおこなわれたシュリンク無し実験は「シュリンクがあるかないかと売上には、相関関係は認められない」という結果に終わったのでした。結論から言うと、90年代後半は、本当に売上がかわらなかったのでした。

しかし、時代は21世紀に移り、劇的な変化を見せるようになっていきます。この「売上が変わらない」という法則が、崩れ始めてきたのです。(つづく)

urashinjukuurashinjuku 2007/12/23 03:37 あーBIGBOSS懐かしい!かつてさくまさんの漫画家予備軍本の影響を受けてでしょうか、僕も一度訪れたことがあります。小規模ですが、いいお店でしたね。

foofoo 2007/12/23 11:13 で、Dグループ(ネット書店)ができてABCの母数激減ですか。
Dは、汚れない(A)、中身分かる(B)、近い(C)のすべてを合わせ持っとるしね。
中身分かるってのは、amazonのユーザ評価や2ちゃんのレスとかの口コミ材料のことね。

gmaxgmax 2007/12/23 11:57 口コミと実際の中身を見て感じる印象って時としてかなりのギャップがありませんかね?勧められたけど合わなかった経験って皆さんあると思うのですが……単に話題になっている本を読みたいというだけであればそれでもいいのかもしれませんけど。

greygrey 2007/12/23 23:29 そのDグループ(ネット)の
「中身分かる」(B)はP2Pの違法ダウンロードで読んでる人も入るかもしれませんね
それならハズレに当たっても大してダメージはありませんし
ネットで落として試し読みしてネットで買う、(または買わない)とか

 う う 2007/12/25 00:43 平積みされている新刊や売れ筋限定で一番上の本だけシュリンクをしてない本屋が知っている範囲で二件あります。一番上の本だけは完全に立ち読み用になっています。そう何冊も入荷しないようなものは新刊でも立ち読みできないみたいですが。

匿名匿名 2007/12/25 14:19 その2待ってました。消費者として興味深いです。つづきも楽しみにしてます。
ABCの比率を調べるアンケートの設問が恣意的なので、その集計結果でA=Bとは言えないと思います。設問は単に「コミックのビニールパックをどう思いますか?」としておいて「要/不要」を選んでもらい、それぞれの理由は自由回答してもらうか、思いつく範囲で選択式にすれば良かったのでは?
とは言え、誰でも気付きそうな話なので、その3ではこの点も織り込み済みでしょうか。

AAAAAA 2008/01/03 14:17 あまり参考にならないのかも知れませんが雑誌では私の家の近くのコンビニではマンガ雑誌にビニールするようになって確実に買って行ってる量が減ってますね、以前は発売日の夕方にはほとんど無くなっていた雑誌が最近では大量に置いてありますし・・・まあ売れるので仕入れる量が増えたからなのかもしれませんが・・・・

石田家末っ子石田家末っ子 2008/01/10 21:42 はじめまして なんとなく父について調べているとこちらにたどり着きました。BIGBOSSを経営していた石田んとこの娘です。父がシュリンクに携わっていたことは知っていましたが、そんなことを語っていたとはびっくりしました。ちなみに今日本人に聞いたところ、「創始者じゃなくて(そんな大層な人ではなく)俺は広めただけや!」と言っとりましたよー。(けど創始者でも広めただけでも、父がホラ吹いてるようにしか聞こえないのは私と父が身近すぎるからでしょうね)けど、10年も前のことなのにB・Bを取り上げてくれはって、伝説的やら(というか伝説的だったのか!!と驚きでいっぱいです)、懐かしいやらと知ってくれはる方がいてくれてはって、ほんとに嬉しいです。記事の内容とは特に関係のないレスなのですが、あんまりにも嬉しかったので書かずにはいられませんでした。本人ではなく娘からですが、ありがとうございます。