出版状況クロニクル

出版状況クロニクル

出版状況クロニクル

さすがに、この本について言及しないわけにはいかないので、思ったことをちょこっと書きます。
一応ご存知ない方のために申し上げますと、出版状況クロニクル(http://www.ronso.co.jp/netcontents/chronicle/chronicle.html)は、小田光雄氏が出版業界の時事ニュースを定期的にとりあげて独自の視点から論評をくわえたもので、論創社のサイトで時々更新されています。今回のこの本は、2007年8月から2009年3月までの業界情報の総集編+ちょこっと対談という感じで、普段からサイトをチェックしている人にとっては、目新しい情報はほとんどありません。が、こうしてまとめて読むと、改めてここ数年は本当に出版業界にとって激動の年だと感じ入った次第です。しかもその激動っぷりはまだまだ続きそうですし、逆に言うと続かずに停滞していては、この業界の未来は本当に消滅してしまうことでしょう。
さて小田光雄氏といえば、80年代の郊外型書店増殖のプロセスとその背景を分析した名著「出版社と書店はいかにして消えていくか」が有名なんですが、人文系の出版をずっとやっていらっしゃるからなのか、抽出してくるニュースの背景分析はさすがなのですけれども、その解釈となると、これはもう小田史観と言っていいぐらい非常にバイアスのかかった解釈をされてる気がします。
出版業界が危機に瀕してるのは、80年代に増殖したTSUTAYAブックオフと組んで業界を食い荒らしたからだ。新しく登場したこれらのエンタメ型の過剰な消費型書店が、旧来からあった人文書のような良書を売る書店を駆逐してしまったのだ。だから文芸社の血液型の本みたいな低俗な本がベストセラーになるのだ。しかしレンタルと音楽セルが今後落ち目だから、ツタヤももう長くないはずだ。次に警戒しないといけないのはアマゾンだ。みたいなのが、全編のコメントを通して伝わってくる小田氏の主な主張(だと思う)。
何となく、この主張には、一番大切なお客様という視点が欠落しているような気がしてます。小田氏にとっては人文書が書店で売れなくなったのは、郊外型書店のせいだ、なのかもしれませんが、実際のところは、人文書は売れなかったから郊外型書店には置かれていないだけであって、単にその書店はお客様に合わせて品揃えをしているだけのことなんじゃないでしょうか。人文書が売れる書店であれば、ジュンク堂のように品揃えをするだけのことですし、実際そうしてます。お客様の需要があってこそ、品揃えがあるわけで、血液型の本やケータイ小説がベストセラーになるのは、それを求めるお客様が増えただけのことだと思います。それすらツタヤやブックオフの問題に帰納させてしまうのは、ちょっと解釈が歪んでいるようにしか思えません。
ツタヤやブックオフやアマゾンが伸びているということは、それだけ多くのお客様の支持を受けているということですが、その理由は本書で指摘されているような日販+CCCの陰謀論めいた話だけではないはずです。そこにはもっと本質的な商売上のサービスの違いがあるはずなんです。出版業界は、彼らを敵視してる場合じゃなくて、もっと彼らから学んでいかないといけないはずなのです。そこを間違ってしまうと永久に前に進めないことになります。
そういう意味で、どうもこの本は意図的に視野を狭くして論を進めているようにも見えますので、小田氏には、一度業界の内部だけを分析するのではなく、一般読者のライフスタイルの変遷を分析していただいた上で、今出版業界が何を求められているか、もう少しお客様の足元に立った視点から発言してほしいなと思ったのでした。