本屋のほんね このページをアンテナに追加 RSSフィード

2015-01-26 プロダクトアウトとマーケットイン このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

店舗をつくるにあたっては、プロダクトアウトとマーケットインという考え方があるのですが、その適正な比率は何対何ぐらいなんだという宿題上司からいただきまして、さてさて、どうやって答えを導きべきかと考え込んでおります。

ちなみにここでいうプロダトアウトというのは、コンセプトワークから導き出して「こういう店をつくりたい」という発想ありきの考え方を指します。これを重視すると、店舗の作り手がやりたいことや表現したいものがそのまま売場にストレートに反映されるので、大抵は個性的な店になります。代表的な例としては「松丸本舗」が挙げられるでしょうか。あれは松岡正剛氏のやりたいことに100%振り切った完全なプロダクトアウト型書店でした。このプロダクトアウト型の店舗は、個性的で非常に素晴らしい店が出現する一方で、その多くが「顧客の需要」という商売の基本を軽視してしまいがちのために、さっぱり売上がいかず、経営的には苦しい店が多いという特徴があります。

反対概念であるマーケットインというのは、その店舗の立地に存在する顧客の需要にあわせて店をつくろうとする考え方です。これを重視すると、お客様の欲しがりそうな本の品揃えがどんどん強化されていくことになるのですが、それって要はよく売れるベストセラー本ばかりが揃えられていくということになるので、大抵は没個性的な店になります。代表的な例としては、そこらへんにあるチェーン店が大抵そうなんじゃないでしょうか。このマーケットイン型の店舗は、売上はそれなりに稼げるのですが、店は必然的に金太郎飴化するので、面白みに欠ける店が量産されるという特徴があります。

そこで通常店舗をつくる際には、この二つの考え方を組み合わせるわけですが、その比率は何対何がベストなのか、という最初の問いにもどるわけなんです。

そこでちょっとここで昨夏に出ました名古屋発の芸術批評誌「REAR」の32号をとりだしてみましょう。特集が「本をとどける」なのですが、何とこの号ではヴィレッジヴァンガードの菊地さんと、ちくさ正文館の古川さんという伝説のお二人が対談されているのです。WOW!

で、この対談のテーマタイトルが「芸術と通俗という葛藤の中で」なんですけど、これがまさにプロダクトアウトとマーケットインのバランスの話なんですよね。

なぜ菊地さんはヴィレッジヴァンガードを作ろうと思ったのか、ヴィレヴァンの真似をした店はどうして滅びていったのか、全国のSCに店舗網を拡大してかつて持っていた牙が抜かれてしまったような今のヴィレヴァンを菊地さんはどう思っているのか、これが本当に面白い

菊地 そうですね。でもイオンとか生活創庫にでて、立体BRUTUSじゃ立ち行かなくなったんですよね。基本的にはお客さんと対話しながらインターフェイスしながら品揃えしていきますから、立ち行かなくなった。そうすると中学生高校生も相手しなくちゃならない。それからファミリーもおばあちゃんおじいちゃんも相手しなくちゃならないってなった時に、ヴィレッジヴァンガードの猥雑さを残しながらも、BRUTUSのクールな感じが失われていって、つまり『BRUTUS』から『月刊宝島』になったんですよね。BRUTUSは公称2万部です。月刊宝島は最盛期は70万部。つまりそれだけマーケットを広げたんです。BRUTUSに僕がこだわっていたら今はないですよ。潰れていましたねえ。

そういう店よくあるよね。昔BRUTUSに載っててかっこいい店だなあってバックナンバー見て、行ってみようってなったらもうなくなってる。そういう店になってました。だから古田さんと、ちくさ正文館が生き残っているのは、本当にすごいことだと思いますよ。

昔のヴィレッジヴァンガードの社員芸能人連れてきて、コラボやったら引いたんですよ。今の若い子の傾向としては、「きゃりーはいい!」そういう感じなんですよ。僕もサブカル大好きで、クラシックよりジャズ歌舞伎より落語、が好きなんですよね。今のサブカルはきゃりーぱみゅぱみゅ。「原宿カワイイ」がサブカルチャーなんですよ。(中略)つまりそこを、ヴィレッジヴァンガードは取り入れないと、なかなか難しいんですよ。

今の自分肯定しないと先に進めないじゃないですか。僕はヴィレッジヴァンガードみたいなへんてこ本屋が各地にあるっていう社会性よりは、大きな雇用を生むことで彼らが住民税や所得税を払える、そういう社会性を帯びていることのほうが嬉しい。しかもうちでしか働けないような奴ばっかりの濃い雇用を生んでますから。

この対談では、ヴィレッジヴァンガードがプロダクトアウトな店舗から、マーケットイン型の店舗に移行していったことへの菊地さんの心情が語られていて大変興味深いですね。もっとも、世の中の一般書店的には、逆に現状のマーケットイン偏重からプロダクトアウト比重を増やしていくという、ヴィレッジヴァンガードとは逆の作業を必要とされているので、参考にならないかもしれないですけどね。

ところでここには書ききれませんでしたが、このREARの対談では、前衛的サブカルチャーは1981年頃にすべて出し切られて、あとは同じところを何周もまわっているだけ、今の若い人たちが最先端だと思っているものは実はもう何周もまわったものをおさらいしている状況なんだという、古田さんの展開するサブカルチャー論や、お二人のアマゾンに対する評価などもあって内容盛りだくさんで非常に面白いので、興味のある方はぜひご一読を。

で、結局何対何ぐらいがいいんだろ。

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