代理出産を問い直す会

2016-09-24

第一回上映会を終えて

18:03

去る9月19日に映画『代理出産―繁殖階級の女?』の第一回上映会を実施しました。第一回は誤字脱字を含めた字幕の不備や、私自身の報告のあり方などを考え、いつも緊張するのですが、今回は割と和やかな雰囲気で実施できて、とてもいい時間となりました。

当日頂いた質問から、今後の調査が必要な分について現在調べております。まずは映画にあった事例の把握とその背景にあるアメリカの文化的背景の確認をしています。特にアメリカの母性神話のあり方は、私のこれまでの研究の対象外だったので、一からの勉強です。新たなテーマを見つけるのはやりがいのあることですが、実際に調査を進めるのは、なかなか骨が折れます……。でもまあ、頑張ります。

その他、研究に関してやることは沢山あるものの、最近、会の活動を少々サボっていた部分があるので、久々にHPのカスタマイズなども進めています。これまでの分の修正に加え、情報量を増やすつもりです。特に海外の動向について、いくつかの誤解を元に、外国では概して代理出産が推進されており、もう代理出産合法化の動きは止まらない、という流れで解釈されている向きもあるので、その辺の情報を積極的に伝えなくてはと思っています。

中でも押さえるべきは、生殖ツーリズムのうち、外国における代理出産アウトソーシングの問題です。あっせん業者は、東南アジアなど第三国であたかも簡単に実施できるかのように宣伝していますが、実際にはそれほど簡単ではありません。外国人を対象とした代理出産を可能とする国は、かつてはインド、タイが有名でしたが、それらは外国人による代理出産で多くの問題を抱えた結果、現在では外国人による代理出産を禁止しています。インドやタイの規制を受けて、新たに開拓されたメキシコネパールもまた、ごく最近、外国人の代理出産を禁止するに至りました。業者は現在、別の国を開拓していますが、同じ事の繰り返しでしょう。現在、私が知っている限りで、法律上(依頼者にとって)安全に代理出産を実施できるのはカリフォルニア州のみです。しかしご存じの通りその金額は膨大です。そして高いお金をかけても子供を得られない例も少なくありません。多くの人は想定していないのでしょうが、子供が障害を持つ事例はもちろん、流産に終わるばかりで子供を得られないという例もあります。他者の卵子を用いた妊娠では様々なリスクが示唆されており、もはや博打のような部分も多いのです。テレビに出てくるセレブは何の問題もなく子を得て幸せそうに見えるかもしれませんが、その裏で、彼らがどのような代理出産を何回実施したか--その子が障害児の中絶を繰り返した結果ようやく出来た子なのか、着床前診断を行った結果なのか--は誰も知りません。

このサイトに来る方の中には、代理出産を夢の方法と捉え、依頼を検討している方もいるかと思います。私はその方法自体を問題視しており、反対意見の根拠は様々な論文で示してきましたが、既に依頼を考えている方にとって、それらの批判は心に届くものではないでしょう。しかしそういった方であっても、せめて伝えたいのは、社会に流布している代理出産像には、少なからずファンタジーが含まれている、ということです。代理出産の業者たちは、セールストークでそれらの利点を謳いますから、そこでは幻想が最大限に増幅されます。自らの生涯に大きく影響するであろう不動産金融商品を購入するとき、多くの人は、先方の甘い言葉を疑い、購入上のリスク、購入後のリスクなど最大の注意を払いつつ検討していると思います。それがなぜ代理出産や卵子提供では、ごく簡単に購入に踏み切ってしまうのでしょう?自分だけは問題が起きないと思うのはなぜでしょう?これらの生殖技術では、これまで妊娠する女性の身体的リスクはもちろん、子供の科学的な安全性も立証されていません。代理出産に関連して、今後、生まれた子供にどれだけの医療費がかかり、どれだけの時間と労力が必要になるか、誰も知らないのです。あっせん業者の側は、いったん子供の受け渡しが済んでしまえばビジネスが終わりますので、生まれた子はもちろん、子を得た人の将来までは関与していません。そのように無責任な体制にある業者らのセールストークには、もっと疑いと注意深さを持って臨んで欲しいのです。そして自らの経済的なリスクはもちろん、子供の被る問題も考えたとき、この方法が果たして自らの人生にどれだけのインパクトをもたらすかを、冷静に認識して欲しいと思います。

マスメディアで代理出産の美しさを語るセレブは、たとえ代理出産の実施中、または実施後に問題が起きたとしても、それらの多くを金銭で解決出来る「ビリオネラー」だということを忘れないで下さい。特にあなたがそれほど裕福でなく、アメリカ以外の安価な場所への代理出産を考えなければならないならば、その時点で、経済的に代理出産の問題をカバーできないリスクを負っている事を認識して下さい。確かに中にはうまくいく人もいるでしょう。その人達は運がよかったのです。けれども必ずしも全ての人がうまくいくわけではありません。そして代理出産の実施中は順調に進んでも、業者の手を離れた後になって問題を抱えることもあるのです。代理出産という方法が、少なくとも現状では、様々な側面で不確定な「博打」であること、そしてとりわけ子供にとっては、金銭でもカバーできないリスクを与える事を認識して頂ければと思います。

2016-05-28

金森先生の訃報

14:26

5月26日に東京大学の金森修先生がお亡くなりになりました。61歳でした。

金森先生は、かつて「問い直す会」の研究会にも快く登壇して下さりましたし、生殖技術に関連して重要な著作を多々残された方ですので、この場を借りて、関係する皆さんにお伝え致します。以下は訃報記事のリンクです。

http://www.asahi.com/articles/ASJ5W5S0HJ5WUCVL01Q.html


私と金森先生は、「問い直す会」以外にも、東京大学のプロジェクト「死生学」で何度かお仕事させて頂きましたが、もっともお世話になったのは、2013年の日本生命倫理学会大会で、私の企画したセッションに登壇して頂いた時です。

このセッションは、それまで散発的に批判されつつも、女性同士の「人助け」の認識枠組みに留まり、そこにある問題を免責されていた代理出産や卵子提供を、明確に「収奪」そして「暴力」へと配置する試みでしたので、当時まだ若手だった私にとっては、開催に勇気が必要でした。

それを成功させる上でのバックアップとして、金森修先生に(そしてコメンテーターとして小松美彦先生、市野川容孝先生)ご登壇頂きました。これら諸先生方の助けもあり、セッションは無事に終了しました。

その後も私は代理出産と収奪をテーマにしたセッションを開催しておりますが、最近では、代理出産を暴力とみなす認識が普及し、以前よりも明らかに声を上げやすくなってきたのを感じます。

金森先生は、生命に関する政治的な問題に対し、ご自身の膨大な知識量の下、淡々と、しかし確実に批判をなさる方で、世俗化された生命倫理学の業界では、余人を持って代えがたい存在でした。まだまだお若く、そして今も進みつつある問題に対し、今後も積極的に発言して頂くべき方でした。

惜しい方を亡くし、残念でなりません。

金森先生のご冥福を、心より、本当に心よりお祈り致します。


柳原良江

2016-03-28

映画に関わってくれているCJ君と障害児の教育について

| 12:52

今日は生殖技術とは直接の関係はない内容です。

映画『卵子提供ーー美談の裏側』や、もうすぐ完成する代理出産の映画は、英語監修としてCJ君という男性が関わってくれています。ニューヨーク市郊外に住む彼とは、私の研究とは関係のない文脈で知り会い友人になりました。たまたま私のプロジェクトに関心を持ってくれて、英語監修を引き受けてもらっています。

そして偶然なのですが、彼は野田聖子の息子のような、またはそれよりも深刻かもしれない重度の障害者です。生まれた時に生じた脳出血により、左手の数本の指以外を動かすことができません。その指も曲がっており、一般的な手の動きは不可能です。普段は電動車いすで生活しています。身体的な自由度は野田聖子の男児よりも低いと思います。喋る聞くなどの意思疎通は問題なく出来ますが、脳の調子は万全ではなく、十分に周囲の状況に反応できないため、車の免許を取ることは許されていません。その他、内科的に様々な問題を抱え、今も日常的に薬を服用しつつ生活しています。しかし彼のご母堂はとても聡明な方で、親一人子一人、経済的に極めて厳しい暮らしを余儀なくされながらも、彼にできる限りの教育を受けさせました。彼はNY州立大学を卒業し、今はジャズの評論家として活躍しています。

さて、私自身はこれまで障害者問題を直接扱うことはなかったのですが、CJ君の状況、そして最近では野田聖子の息子さんの置かれた状況を考えると、やはり色々と考えるところがあります。彼女はいったい産んだ後、何をしているのだろう?もちろん私はジェンダー的に軌範化された母役割を押しつけるつもりはありません。しかし彼に一番近い存在として、野田聖子は息子に何を与えているのだろう、または何をしたいのだろう、と考えさせられます。必要なケアはお金で解決している、そのために仕事をしている、と主張するのかもしれません。また障害を持つ子が産まれても、女性が仕事が続けられるよう法整備をするべく進めている、というつもりかもしれません。でも育児ってお金をかけることだけを指すのではないですよね。言うまでもなく、他者の力を借りることそれ自体は問題ありませんが、子育てで他者の力を「借りる」こと、他者と「共同しながら育てる」ことと、自分が親の役割を放棄することは別の問題です。

私は何度かCJ君のお母様ともお話したことがあります。彼女は、彼を育てる上で、物理的、精神的はもちろん経済的にもとてもご苦労なさったようで、それ故蓄積したであろう強い苦悩を、これまでにも会話の端々から感じ取りました。時には、ご自身の運命、息子を襲った偶然の不幸を儚んだ事もあるかもしれません。しかし強い抑圧を抱えていらっしゃる中にも、彼のお母様からは、一貫して彼への強い愛情を感じます。「母の愛情」という言葉ではいささか陳腐なので、でもう少し丁寧に言えば、自らの子を、彼をこの世界でかけがえのない存在として慈しむ気持ち、彼がいかなる状態であれ、その存在の中に尊厳を認め、尊重する、そんな眼差しがあるのを感じます。

今のCJ君の日常を見ていると、ごく普通に外出すること、ごく普通に人々と接することでさえ、いかに大きな労苦を伴うか認識させられます。先日、ニューヨーク市郊外でCJ君と食事を共にし、別れ際、彼をつれて帰りの電車に乗るための駅に向かった時、私は生まれて初めて、車いすの、なおかつCJ君の様な重度障害の人が、たかが5分の距離を歩くだけのために、いかに予想を超える多大な不自由を強いられているかを認識しました。そんな生活も影響しているのか、彼は日常的に体調が優れないこともしばしばあるようです。身体的な障害のみならず、普段の日常的なストレスから健康面に影響を受けやすいようです。健常者なら些細なものに過ぎない刺激も、彼にとっては体調を崩す原因になりかねません。

CJ君の様に、成人し、子供時代と比べて心身共に安定してからもこうです。まして発達途中の幼少期は、さぞかし強いストレスに晒され、日常的に不安定な状態に置かれていたことでしょう。それを適切な福祉サービスを見つけるなど物理的にサポートし、さらに精神的にも支えてきたお母様のご苦労は想像するに余りあります。そして、その彼女の努力が、ともすれば限られた世界の中でしか生きられなかった彼に、一人前の成人として必要な知識、教養を身につけさせ、結果的には、極めて知的な専門性を伴う仕事に従事する、CJ君の現在をもたらしたのです。このような親御さんの聡明さをなくしては、現在のCJ君が暮らす、知的な快適性は産まれなかったと思います。恐らく理性を閉じ込められた環境で、本人にも理由の分からないような苛立ちを抱えつつ日々を送る生活を余儀なくされていたことでしょう。

一方、CJ君に会う度に考えるのが野田聖子の育児の状況です。第三者には彼女のブログを通じ推測するしかできませんが、それで知りうる限りでも、日常的にストレスに晒されている子を、体調を考慮せず連れだし大衆に晒す、意思疎通の手段を与えられていないなど、素人ながら、当の子供の現状に少なくない負荷を与えていることは想像に難くはありません。そして現在の、様々な点で成長の手段を剥奪されている現状が、今後、彼の行く先にどのような苦難を与えるかと思うと、気の毒でなりません。

不妊カップルが生殖技術にエネルギーを注ぎ込み、産まれた後に育児への情熱を失ってしまうという話はよく聞きます。野田聖子も、産むことがゴールになり、いざ産んでしまうと、障害を持つ子を育てるだけの気力が生じないのかもしれません。他人の卵子を使ったことが、彼女の子への認識にいかなる影響を及ぼしているのかは分かりません。しかし如何なる理由であろうとも、産まれた人にとってはその人がこの世で唯一の親です。お子さんが、この後、適切な愛情と教育を受け、できる限り快適な環境を獲得できる事を切に願ってやみません。

2015-10-18

卵子提供(卵子購入)に関する論考を発表しました

| 23:28

卵子提供の持つ問題について、今月発行された岩波書店『世界』11月号に掲載された拙稿「収奪と利益が絡み合う卵子提供ビジネス──使い捨てられる女性たち──」で発表いたしました。

2014年から代理出産や卵子提供の合法化を目指している、自民党プロジェクト・チームが作成した「生殖補助医療法案」の持つ問題を、米国卵子提供で提供者に生じている健康問題や、金銭の流れに触れながら説明しています。

映画『卵子提供ーー美談の裏側』に取り組んで以来、卵子提供(卵子購入)について考えたことを纏めています。卵子購入が「買える人による弱者への暴力」であるという問題意識は常に変わりませんが、実情を纏めてからは、当初の予想以上に、ビジネスとしての側面の問題が大きいのを感じています。

安い金額で女性たちに健康リスクを負わせる一方で、自らはリスクを負わずない不妊クリニックや斡旋業者が利益を得ている状況は、もっと問題視されるべきです。

詳細については、拙稿をお読みください。

2015-10-03

『卵子提供--美談の裏側』オンライン配信

| 01:40

昨年に日本語版を制作した映画『卵子提供--美談の裏側』は、現在、下記のサイトから有料にてご覧頂けます。

https://vimeo.com/ondemand/eggsjapan

お支払い頂く視聴料は全て、本映画のオリジナル版である「Eggsploitation」を制作したNPO団体、米国生命倫理文化センターの収益となります。

上記のオンライン映像は、私的な視聴を目的としたものですので、公的な場での上映会を実施する際は、引き続き当会までご連絡下さい。

本映画が卵子提供に関する危険性を日本国内の人々に知って頂く上での一助となりますことを願っております。


代理出産を問い直す会

柳原良江