代理出産を問い直す会

2016-05-28

金森先生の訃報

14:26

5月26日に東京大学の金森修先生がお亡くなりになりました。61歳でした。

金森先生は、かつて「問い直す会」の研究会にも快く登壇して下さりましたし、生殖技術に関連して重要な著作を多々残された方ですので、この場を借りて、関係する皆さんにお伝え致します。以下は訃報記事のリンクです。

http://www.asahi.com/articles/ASJ5W5S0HJ5WUCVL01Q.html


私と金森先生は、「問い直す会」以外にも、東京大学のプロジェクト「死生学」で何度かお仕事させて頂きましたが、もっともお世話になったのは、2013年の日本生命倫理学会大会で、私の企画したセッションに登壇して頂いた時です。

このセッションは、それまで散発的に批判されつつも、女性同士の「人助け」の認識枠組みに留まり、そこにある問題を免責されていた代理出産や卵子提供を、明確に「収奪」そして「暴力」へと配置する試みでしたので、当時まだ若手だった私にとっては、開催に勇気が必要でした。

それを成功させる上でのバックアップとして、金森修先生に(そしてコメンテーターとして小松美彦先生、市野川容孝先生)ご登壇頂きました。これら諸先生方の助けもあり、セッションは無事に終了しました。

その後も私は代理出産と収奪をテーマにしたセッションを開催しておりますが、最近では、代理出産を暴力とみなす認識が普及し、以前よりも明らかに声を上げやすくなってきたのを感じます。

金森先生は、生命に関する政治的な問題に対し、ご自身の膨大な知識量の下、淡々と、しかし確実に批判をなさる方で、世俗化された生命倫理学の業界では、余人を持って代えがたい存在でした。まだまだお若く、そして今も進みつつある問題に対し、今後も積極的に発言して頂くべき方でした。

惜しい方を亡くし、残念でなりません。

金森先生のご冥福を、心より、本当に心よりお祈り致します。


柳原良江

2016-03-28

映画に関わってくれているCJ君と障害児の教育について

| 12:52

今日は生殖技術とは直接の関係はない内容です。

映画『卵子提供ーー美談の裏側』や、もうすぐ完成する代理出産の映画は、英語監修としてCJ君という男性が関わってくれています。ニューヨーク市郊外に住む彼とは、私の研究とは関係のない文脈で知り会い友人になりました。たまたま私のプロジェクトに関心を持ってくれて、英語監修を引き受けてもらっています。

そして偶然なのですが、彼は野田聖子の息子のような、またはそれよりも深刻かもしれない重度の障害者です。生まれた時に生じた脳出血により、左手の数本の指以外を動かすことができません。その指も曲がっており、一般的な手の動きは不可能です。普段は電動車いすで生活しています。身体的な自由度は野田聖子の男児よりも低いと思います。喋る聞くなどの意思疎通は問題なく出来ますが、脳の調子は万全ではなく、十分に周囲の状況に反応できないため、車の免許を取ることは許されていません。その他、内科的に様々な問題を抱え、今も日常的に薬を服用しつつ生活しています。しかし彼のご母堂はとても聡明な方で、親一人子一人、経済的に極めて厳しい暮らしを余儀なくされながらも、彼にできる限りの教育を受けさせました。彼はNY州立大学を卒業し、今はジャズの評論家として活躍しています。

さて、私自身はこれまで障害者問題を直接扱うことはなかったのですが、CJ君の状況、そして最近では野田聖子の息子さんの置かれた状況を考えると、やはり色々と考えるところがあります。彼女はいったい産んだ後、何をしているのだろう?もちろん私はジェンダー的に軌範化された母役割を押しつけるつもりはありません。しかし彼に一番近い存在として、野田聖子は息子に何を与えているのだろう、または何をしたいのだろう、と考えさせられます。必要なケアはお金で解決している、そのために仕事をしている、と主張するのかもしれません。また障害を持つ子が産まれても、女性が仕事が続けられるよう法整備をするべく進めている、というつもりかもしれません。でも育児ってお金をかけることだけを指すのではないですよね。言うまでもなく、他者の力を借りることそれ自体は問題ありませんが、子育てで他者の力を「借りる」こと、他者と「共同しながら育てる」ことと、自分が親の役割を放棄することは別の問題です。

私は何度かCJ君のお母様ともお話したことがあります。彼女は、彼を育てる上で、物理的、精神的はもちろん経済的にもとてもご苦労なさったようで、それ故蓄積したであろう強い苦悩を、これまでにも会話の端々から感じ取りました。時には、ご自身の運命、息子を襲った偶然の不幸を儚んだ事もあるかもしれません。しかし強い抑圧を抱えていらっしゃる中にも、彼のお母様からは、一貫して彼への強い愛情を感じます。「母の愛情」という言葉ではいささか陳腐なので、でもう少し丁寧に言えば、自らの子を、彼をこの世界でかけがえのない存在として慈しむ気持ち、彼がいかなる状態であれ、その存在の中に尊厳を認め、尊重する、そんな眼差しがあるのを感じます。

今のCJ君の日常を見ていると、ごく普通に外出すること、ごく普通に人々と接することでさえ、いかに大きな労苦を伴うか認識させられます。先日、ニューヨーク市郊外でCJ君と食事を共にし、別れ際、彼をつれて帰りの電車に乗るための駅に向かった時、私は生まれて初めて、車いすの、なおかつCJ君の様な重度障害の人が、たかが5分の距離を歩くだけのために、いかに予想を超える多大な不自由を強いられているかを認識しました。そんな生活も影響しているのか、彼は日常的に体調が優れないこともしばしばあるようです。身体的な障害のみならず、普段の日常的なストレスから健康面に影響を受けやすいようです。健常者なら些細なものに過ぎない刺激も、彼にとっては体調を崩す原因になりかねません。

CJ君の様に、成人し、子供時代と比べて心身共に安定してからもこうです。まして発達途中の幼少期は、さぞかし強いストレスに晒され、日常的に不安定な状態に置かれていたことでしょう。それを適切な福祉サービスを見つけるなど物理的にサポートし、さらに精神的にも支えてきたお母様のご苦労は想像するに余りあります。そして、その彼女の努力が、ともすれば限られた世界の中でしか生きられなかった彼に、一人前の成人として必要な知識、教養を身につけさせ、結果的には、極めて知的な専門性を伴う仕事に従事する、CJ君の現在をもたらしたのです。このような親御さんの聡明さをなくしては、現在のCJ君が暮らす、知的な快適性は産まれなかったと思います。恐らく理性を閉じ込められた環境で、本人にも理由の分からないような苛立ちを抱えつつ日々を送る生活を余儀なくされていたことでしょう。

一方、CJ君に会う度に考えるのが野田聖子の育児の状況です。第三者には彼女のブログを通じ推測するしかできませんが、それで知りうる限りでも、日常的にストレスに晒されている子を、体調を考慮せず連れだし大衆に晒す、意思疎通の手段を与えられていないなど、素人ながら、当の子供の現状に少なくない負荷を与えていることは想像に難くはありません。そして現在の、様々な点で成長の手段を剥奪されている現状が、今後、彼の行く先にどのような苦難を与えるかと思うと、気の毒でなりません。

不妊カップルが生殖技術にエネルギーを注ぎ込み、産まれた後に育児への情熱を失ってしまうという話はよく聞きます。野田聖子も、産むことがゴールになり、いざ産んでしまうと、障害を持つ子を育てるだけの気力が生じないのかもしれません。他人の卵子を使ったことが、彼女の子への認識にいかなる影響を及ぼしているのかは分かりません。しかし如何なる理由であろうとも、産まれた人にとってはその人がこの世で唯一の親です。お子さんが、この後、適切な愛情と教育を受け、できる限り快適な環境を獲得できる事を切に願ってやみません。

2015-10-18

卵子提供(卵子購入)に関する論考を発表しました

| 23:28

卵子提供の持つ問題について、今月発行された岩波書店『世界』11月号に掲載された拙稿「収奪と利益が絡み合う卵子提供ビジネス──使い捨てられる女性たち──」で発表いたしました。

2014年から代理出産や卵子提供の合法化を目指している、自民党プロジェクト・チームが作成した「生殖補助医療法案」の持つ問題を、米国卵子提供で提供者に生じている健康問題や、金銭の流れに触れながら説明しています。

映画『卵子提供ーー美談の裏側』に取り組んで以来、卵子提供(卵子購入)について考えたことを纏めています。卵子購入が「買える人による弱者への暴力」であるという問題意識は常に変わりませんが、実情を纏めてからは、当初の予想以上に、ビジネスとしての側面の問題が大きいのを感じています。

安い金額で女性たちに健康リスクを負わせる一方で、自らはリスクを負わずない不妊クリニックや斡旋業者が利益を得ている状況は、もっと問題視されるべきです。

詳細については、拙稿をお読みください。

2015-10-03

『卵子提供--美談の裏側』オンライン配信

| 01:40

昨年に日本語版を制作した映画『卵子提供--美談の裏側』は、現在、下記のサイトから有料にてご覧頂けます。

https://vimeo.com/ondemand/eggsjapan

お支払い頂く視聴料は全て、本映画のオリジナル版である「Eggsploitation」を制作したNPO団体、米国生命倫理文化センターの収益となります。

上記のオンライン映像は、私的な視聴を目的としたものですので、公的な場での上映会を実施する際は、引き続き当会までご連絡下さい。

本映画が卵子提供に関する危険性を日本国内の人々に知って頂く上での一助となりますことを願っております。


代理出産を問い直す会

柳原良江

2015-06-25

「今こそSTOP!代理出産」キャンペーン声明文

| 18:11

下記に「今こそSTOP!代理出産」キャンペーン声明文全文の日本語版を紹介します。本声明文は嘆願書の署名ページにも掲載されています。

声明: 今こそSTOP!代理出産

 私たちは様々な民族や宗教、文化、そして社会経済的背景をもつ女性や男性です。私たちは代理出産契約により搾取・収奪されている女性や子どもへの懸念を共有しており、この現状に異を唱えるためここに集まりました。

 私たちは、多くの人が、親にならねばならないと渇望していることは認識しています。しかし、多くの願望がそうであるように、そこには限界があるはずです。人権は、その限界とは何であるべきかを明確にする重要な指標をもたらしてくれます。代理出産は中止されるべきです。それは、女性と子どもたちの人権を蹂躙する行為です。

 代理出産はしばしば、貧困層の女性の搾取や収奪のうえに成り立ちます。多くの事例で、売らねばならないのは貧しい人々で、購入できるのは裕福な人たちです。こうした不平等な取引構造は、低い報酬、強制、劣悪なヘルスケア、そして代理母となる女性の短期的・長期的に深刻な健康リスクについて、女性たちが知らないまま、またはそれを知らされていながらも同意してしまう、という結果をもたらします。

 代理出産実施に係る医学的処置は、必然的に、代理母や卵子を売る女性、生殖技術の利用を経て生みだされる子どもたちへのリスクを伴います。女性へのリスクには、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、卵巣捻転、卵巣嚢腫、慢性的な骨盤痛、早発閉経、妊孕力の喪失(自らが不妊になる)、生殖器のがん、血栓、腎疾患、脳梗塞、そしていくつかは死に至るケースが含まれます。他者の卵子で妊娠した女性は妊娠高血圧腎症や、高血圧症リスクが非常に高くなります。

 生殖技術を用いて――たいていは代理出産を利用し――生みだされた子どもたちもまた、早産、死産、低体重児、胎児奇形、高血圧などを含む健康リスクに直面します。代理出産による妊娠は、医学の専門家がこれまで一貫して強調してきた、妊娠で生じる母と子の自然な結びつきを、意図的に切り離します。母と胎児とのつながりは、疑う余地もないほど親密です。(訳者注:これまでの研究では、妊娠中に胎児と母胎の間に、細胞レベルで様々なやりとりが行われていることが確認されているうえ、近年では、それらが母胎の脳に影響する可能性も指摘されています)。このつながりが長期的に断ち切られれば、母子の双方に対し影響が生じます。代理出産の合法化は、この潜在的な害悪を制度化するものです。

 商業的代理出産は、子どもの人身売買とほとんど同じ行為だと私たちは考えます。たとえ非商業的代理出産(つまり無償か「利他的」に行われるもの)でも、女性と子どもたちがこのような危険を被る行為は禁止されるべきです。

 異性愛者であれ同性愛者であれ、または独身でいることを選んでいる人であれ、何人も子どもへの権利は持っていません。私たちは世界の各国政府と国際的コミュニティーの指導者たちにこの行為に終止符をうち、今こそ代理出産を止めるために協働することを求めて立ち上がります。


※原文はこちら。主催者の同意のもと作成しています。

「今こそSTOP!代理出産」キャンペーン<プレス・リリース>

| 18:11

アメリカを発信地として国際的な代理出産反対キャンペーンが行われています。以下にそのプレス・リリースの日本語版を掲載いたします。プレス・リリース原文はこちらです。


「今こそSTOP!代理出産」プレス・リリース

2015年5月11日「今こそSTOP!代理出産」キャンペーン始動 代理出産の実施と女性と子供の収奪を廃止するための世界連合

サンフランシスコカリフォルニア州/2015年5月11日――本日から「今こそSTOP!代理出産」(Stop Surrogacy Now)キャンペーンが始動します。この活動は、世界中の多種多様な民族、宗教、文化を背景にもち、女性の搾取や収奪と、代理出産を通じた子どもの人身取引に反対する団体を結びつけています。

 世界18カ国、100名以上の人々と16団体が支援する「今こそSTOP!代理出産」キャンペーンは、代理出産が、子どもを産む対価として金銭を支払われる女性たち————多くの場合、彼女たちは貧しく、社会から疎外されています————を搾取、収奪していることが認知されるよう取り組んでいます。代理出産を引き受ける女性たちは、しばしば強制下で、拘束的あるいは水準以下の生活状態で、粗末なヘルスケアを受けています。加えて、代理出産そのものが多くの深刻な短期的、長期的な健康被害リスクをもたらします。多くの代理母は、その子宮内にある「資産」を24時間管理する年季奉公者として扱われています。

「今こそSTOP!代理出産」は、代理出産で宿される子どもたちが、男女産み分け、または子どもの障害や単純な心変わりによる子の遺棄(引き取り拒否)の対象として捉えられ、「品質管理」されている事実を、社会が認識するよう訴えかけています。代理出産で「生産」される子どもは、不公正な取引構造と、野放図な市場の結果であるのに加え、子ども自身が契約の対象とされています。ほとんどの場合、こうして商業的に作られた子どもたちは、母子の自然な結びつきを突然に、そして完全に断ち切られます。意図的に、産みの親との触れ合いや、親に関する情報を奪われるのです。これは国連の「児童の権利に関する宣言」への明らかな違反です。

 本キャンペーンの加盟者たちは、代理出産という行為の完全な廃止を求めています。世界中の女性と子どもを守るため、子どもの商取引をあたりまえと位置づけ、合法化しようとする動きには終止符を打つ必要があります。

「女性は産む機械ではない」。国際イスラム女性組合・パキスタン支部の代表であるShagufta Omar氏は、そう言って次のように続けます。「母と子をお互いから切り離すことは、それぞれに対する人権侵害です」。

「そこには子どもの人権などありません。富める人々が、生きた孵卵器として女性を利用し、子どもを連れ去り、自身の所有物として見せつけることはやめるべきです。私たちはいまこそ、この生殖奴隷制度を阻止しなければなりません」。女性の健康問題について発言し続け、FINRRAGE(オーストラリア)コーディネーターでもあるレナーテ・クライン博士は、そう言います。

「今こそSTOP!代理出産」キャンペーンに参加している16団体の一つ「CoRP」はフランスのNGOです。人権向上の啓発活動を行い、代理出産は、欧州評議会「人権と生物医学条約」(いわゆるオビエド条約)第21条「人体と人体組織を、金銭上の利益をもたらすものとして扱ってはならない」に違反する国際慣習であるとして、その廃絶を求めています。

 スウェーデンMia Fahlen博士はこう言います。「私は、世界中で起きている代理出産という女性の搾取や収奪と闘うために、このキャンペーンに加わっています。この方法が引き起こす倫理的、そして医学的・心理的な問題は、これまで考えられていたよりはるかに大きいのです」。

 私たちは全ての人々の参加を受け付けています。「今こそSTOP!代理出産」キャンペーンを支持するためのご署名をお願い致します。(本リンク先の署名欄にある英文は、日本語版声明文と同じ内容です)。

メディア問い合わせ先(英語のみ)

media@stopsurrogacynow.com