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charisの美学日誌

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   こんにちは、charisです。本業は哲学屋。charisとはギリシア神話の優美の女神。私の座右の銘は、「ミューズよ、戦さ(いくさ)を退け、友なる我らと踊れよかし!」(アリストファネス『平和』)。 日誌の全タイトル一覧はここ。私の研究室HPはここ。私のアマゾン・レヴュー集(HN「お気に召すまま」)はここ。ツイッターは Follow @charis1756
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2007-03-27 土田英生『橋を渡ったら泣け』

charis2007-03-27

[演劇] 土田英生作『橋を渡ったら泣け』 渋谷コクーン


土田英生は劇団MONOを主宰する若手の劇作家。この作品は2002年にMONOで上演されたものの再演。演出は生瀬勝久、俳優は、大倉孝二、奥菜恵、八嶋智人、小松和重など、それぞれに個性的なメンバーだ(写真右)。私は土田の演劇を見るのは初めてだが、本作は、深みのあるテーマ設定にもかかわらず、演劇としての構成がそれに対応しきれていないので、中途半端な作品になったように思われる。昨年のケラ『労働者M』もそうだが、小劇場系の実験的作品を商業演劇の頂点であるコクーンで上演する場合、“表現”が広い舞台を満たしきれずに、やや白けてしまうのを感じる。小劇場でなじみのファンを前に演じる“内輪”の場合は、繰り出されるギャグに笑いと共感が広がり、その熱気に支えられて、それなりに深いテーマもリアルに感じられるのかもしれない。しかしコクーンのような大舞台になると、一定の様式化と、作品や科白の高い完成度がなければ、表現が観客にまで十分に届かない。


物語は、日本列島が突然海に沈み、乗鞍岳の頂上に生き残った女3人男5人だけが、残された缶詰を食べて生き延びる。この最小のコミュニティでは、我々が生きてきた大きな社会のモラルや規則が役に立たず、奇妙でおぞましい支配・被支配関係が生まれてしまう。その理由は、一切の希望がないところでは、とにかく現状を受け入れて生きるしかないので、人間は徹底した受動性と無関心に陥りがちだからである。その結果、たまたまトラブルを解決した「力のある」男性がボスの座について弱い者をいじめることになる。が、そのボスもわずかのきっかけで転落し、今度はいじめられる側にまわる。


実は気の弱い男女8人が、精一杯のギャグを飛ばしながら繰り広げる奇妙なサバイバル・バトル。その中には一組だけ夫婦がいるが、夫の側に問題があり子供ができない。だが、とボスは考える。俺たち8人が「最後の人類」ではなく、「最初の人類」になるためには、子供を作らなければならない。夫婦という「社会のルール」など無視して、3人の女に子供を産ませなければいけない、と。しかし社会の規範を引きずっている気の弱い男女に、そういう意識の転換は難しく、独身者の男女の間もかえってぎくしゃくする。旧ボスにとってかわった良心的な新リーダーも、権力の自家中毒に絶望して去ってしまう。こうした何年かが過ぎた後、実は、さまざまな国籍の人間が地球に生き残っていることが分かり、彼らが乗鞍岳に集まって「町」が出来始める。人類の存続への希望が垣間見られたところで終幕。


最後のハッピーな結末も唐突だが、もう少し物語の構成がしっかりしていれば、良い作品になったのではないか。土田はおそらく不条理劇系の作家なのだろうが、少し「ぬるい」感じがする。この劇も、男女8人、性格の異なる人物造形はなかなかうまいのだが。

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