"どこまでも抜かりない男"『ハイブリッド刑事』


 『秘密結社鷹の爪』シリーズからのスピンオフ。


 捜査一課に所属する刑事、小泉鈍一郎(総統)は、爆弾解体に失敗し、上司の新築の家、尻、奥さんの食べていたお好み焼きを爆破してしまう。左遷された小泉が辿り着いたのは、公務員制度改革によって同じく左遷された公務員達が兼業する「ハイブリッド刑事」が集まった「ハイブリッド課」。誘拐予告がされた行政担当大臣の娘を保護すべく、活動を開始するハイブリッド課だが……。


 トヨタ自動車のハイブリッドカーシリーズとのタイアップ。DVD上映でランタイム45分。全国十館に満たない規模の公開ながら、入場料は「無料」


 劇場版数作では、過剰とさえ言えるタイアップ広告をネタにしたギャグを投下し、裏にある大人の事情を自ら風刺化してきた本シリーズ。だがさすがに回を追うごとに風刺の切れは影を潜め、「ありがとうございます、ありがとうございます」と連呼される登場人物の台詞が、作り手のそれと徐々に重なりつつあった。
 しかしこのタイミングで「無料」という価格設定をし、タイアップに対する批判を封殺。さらに公務員の奉仕の精神とその「無料」をテーマ的にもリンクさせる目配り。
 重層的なメタ構造によって、映像作品を作り上げるまでに必要な資金、スポンサー、スタッフの存在、劇場というハードウェアを描き、さらに社会風刺と数々の映像作品をパロディとして盛り込み、ソフトウェアとしての作品性をも観客に意識させる。
 すべてを開けっぴろげに「どうだ、オレはこうやって作品を作っているんだ」とさらけ出す。まさにノーガード戦法。


 このフロッグマンという監督の抜かりなさというのは、一つ間違えば腹黒ささえ感じさせる恐るべきものだが、彼は敢えてその抜かりなさそれ自体さえも過剰に盛り込むことで、ギャグのレベルまで引き上げ、観客に消化させる。そこがまた抜かりないのだが……。


 中編らしくメリハリあるストーリーできっちりオチも付け、刑事物のフォーマットを使って『鷹の爪』本編では描き切れない新味も出しているため、退屈しない。ぞろぞろと出てくる「ハイブリッド刑事」たちも多彩で、絵的にも楽しい。1000円も取ってれば、まあこんなもんか、ということになるだろうが、なにせタダだからなあ。時々クスクス笑えて45分できっちり終わり。コストパフォーマンス良過ぎるよ。


 しかしねえ、月曜の夜に行ったのだが、だいたい80人ぐらいの入りだった。ここ、平日の夜はいっつも10人足らずの入りなのに! タダならこんなに人が来るのか! TOHOシネマズの値下げが果たしてどれぐらいの効果があるのか、楽しみになってきたね。

秘密結社 鷹の爪THE MOVIE 3 デラックス・エディション(3枚組) [DVD]

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