"ぼくのすきなものはねえ、せえらあふくとおんなのことそれからそれから"『エンジェルウォーズ』


 邦題と吹替で話題になった、ザック・スナイダー監督最新作!


 母を失い、財産を継父に奪われそうになった少女は、身を守るために継父を撃とうとし、誤って最愛の妹を手にかけてしまう。狂人として精神病院に送り込まれた彼女は、5日後にロボトミー手術を受けさせられることに。最悪の状況下で、少女は脱走の方法を模索するのだが……。


 震災以降『世界侵略』『サンクタム』など延期が相次ぐ中、無事に公開されることになったこの映画にかかる期待の高さは、ツイッター上のファンからもひしひしと感じられた。ハードルが上がりすぎじゃないの?と少々危惧していたのだが、全米での大コケや柳下毅一郎氏などからの酷評が飛び出し、やや冷水をぶっかけられた感あり。賛否両論渦巻く中、あまり期待もせずに行ってまいりました。


 予告見て、精神病院の中での脱出作戦の表現があの異世界での戦闘シーンなのかと思っていたのだが、まさかの三層構造だった。間に娼館の夢を挟んでるんだよな。本編見てない人には何を言ってるのかわからんだろうが、オレもなんのことかわからなかった!
 まず、精神病院での生活の隠喩が娼館。患者=ダンサー&娼婦、医者=娼館の経営者。ヒロイン達全員が下着でウロウロしている。で、ヒロインがダンスを踊るのだが、そのダンス自体のメタファーが、やっとあの戦闘シーンになるのである。
 踊る前に音楽がなり始めたら戦闘シーンに切り替わり、武士像を薙ぎ倒して目を開けると、「すごいダンスだった!」とみんな拍手しているのである! うわあ、なんと斬新な表現だ! まったく関係ない!
 脱出のためのアイテムを集めるべく、主人公達は作戦を開始するのだが、なぜか必ずそのすごいダンスを踊って目を惹き、その間に盗み出すという作戦。なんで踊る必要があるのか意味がわからないのだが、これはもちろん順番が逆で「戦闘シーンをまた入れたい」→「ダンスを踊らせよう」という流れがまずありきなのだな。だから、必ずそういう作戦にしなければならないのだ……。いや、狂ってる! 狂ってるよ!
 で、その戦闘シーンはダンスの表現なのだが、その各映像がなんの隠喩にもなっていないために、「戦っている間は、いっさい話が進まない」という驚愕の現象が起きるのである。いや、何か話を進めるために戦うんじゃないの!? 「部屋に忍び込んで地図のコピーを取る」という行為の表現が「機械兵士との銃撃戦」であると言われてもな。今、兵士一体をやっつけた行為に、何の意味があるの? 飛行船墜落したけど、あれとコピー機はなんか関係あるの? 威勢良くぶっ放してるけど、裏じゃ地味にコピー取ってるわけでしょ? 意味のない映像なんて観る意味なくねえ? 結果、予告編で最大の見せ場だった戦闘シーンこそが最大のダレ場になってしまうという、素晴らしく斬新な構成が生まれるのである。早よ終われよ、とか思ってたら、あんだけドッカンドッカンやってるのに、熟睡寸前にまで追い込まれた! すげえ! 試しに戦ってる映像、全部頭の中ですっ飛ばしてみてください。スコット・グレンが語ってるとこと、列車で妹がピンチのとこのぞけば、全部なくても話つながるから。
 ん? 映像自体はまあいいんじゃないですかね、うん(ハナクソをほじりながら)。でも敵が全然強くないし、そこだけ独立した面白さがあるかというと別にないですね。ふぁ〜あ(あくび)。で、いわゆる本編パートも、「オレの映像センスと選曲の完璧さがあれば、演技指導なんて二の次よ!」と言わんばかりで、役者の表情のつけ方も無表情かオーバーアクトになっている。これはコミックっぽい表現をそのまま引きずってるね。ただ、今回は原作漫画の再現じゃないから、誰も感心してくれませんが……。


 ま、しようがないのである。これはすべて、ロボトミー手術直前の狂人の妄想なんだから……んなわけあるかああああ!
 戦闘シーンから目覚め、娼館の妄想から目覚め、やっと精神病院にまで戻ってみたら、娼館で起きたことはみんな精神病院でも起きていたことが判明する。フーン……なんかこれ、驚くところみたいに意味ありげに演出されてますけど……別に驚く要素は何もないよね。あ、そういうルールが一応あったのですか、フーン……。スコット・グレンも最初に意味ありげに出て来るところに別に意味がないから、後でまた出てきても何のつながりもなくてフーンと思うだけなんですよねえ。
 最初にやりたかったのは、普通に精神病院と異世界の二重構造だったんじゃないかなあ。でも異世界であの戦闘シーンをやることと現実の精神病院のシーンがまったく結びつかなかったために、もうワンクッション置いて娼館の設定を作った感じかね。でも、より苦しくなっているよね。精神病院と娼館の類似性って何? 市長は精神病院ではどんな人だったの?(これはライター持ってた看守だそうです:コメント欄より) どっちみち戦闘シーン、なんの関係もないし……。で、精神病院で薄汚れて地味な格好をしているのが異世界ではセクシーで派手になってる、というギャップの表現になると思ってたら、娼館の変な下着から異世界のセーラー服への移行でしかないせいで、全然目を惹かない。
 三層以上をやっていいのは、クリストファー・ノーランだけ! スナイダーは『未来世紀ブラジル』と、せめて『マトリックス』ぐらいは見直したほうが良いのでは。


 色々とアイディア出して全部盛り込んだけど、まあまとまらなかった、という映画か。とはいえまとめようと苦慮したようには見えず、監督はやりたいことみんなやって本気でこれでいいと思っていそうなのが怖い。嫁と共同脚本で、献辞で捧げてたのが亡くなった母親ですか? 多分、ガキの頃からのこの手の妄想を全部肯定してくれる、いいお母さんだったのだろうな、きっと。そして嫁も……。
 エンドロールのラインダンスまで全く意味なし! 一回、宝塚を観に行ったことがあるのが自慢?なのだが、この関係なさ、あれの劇の後のショーのようだ。本当におまけだ。それならせめて、全キャスト登場して欲しかったね。
 あとまあ、チャンバラや2丁拳銃、ゾンビやロボット、セーラー服ぐらいはいいとしても、男が理想の女性像を娼婦になぞらえるのは(ベッソンの『アンジェラ』とか、貴志祐介の『ISORA』とかね……)、とてもとても恥ずかしく幼稚な妄想だから、やめた方がいいと思います。


 ほんと、あげつらうと切りがないのだが、ジャポンのオタクに秋波を送るような映像の羅列を、素直に好意と受け止められる向きには良い作品なのかもしれないし、そういう意味で音楽含め知っている道具立てが次々と出てくることは、何か快感に感じられるのかもしれない。しかし本邦の誇るクリエーター・キリキリくんの洋物かぶれには失笑しかないが、スナイダーのオリエンタルごっこももしや他国では同じような生暖かい目線で見られてやしないか、少々心配になってしまう。
 実のところ『マチェーテ』でさえ身内での盛り上がりっぷりが少々気持ち悪く感じられたオレとしては、それよりさらに自慰的なこれらの映像の羅列にはまったくついていけず、『300』で湧き起こった「ホモソーシャルきもっ!」という嫌悪さえ抱くことなく、ただ白けた気分で見つめるのみであった。つうか、最後って何て言ってたっけ? もう字幕追う気さえなくしていたわ……。

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2011年04月16日のツイート